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The story of Quisalpina  作者: 汪海妹
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プロローグ

この作品は、私が昔、結婚して、妊娠出産のタイミングで日本語教師を辞めて、無職だった頃に書いていた小説です。


息子が生まれる前後のことで約10 年前のことです。本来はこれが私の処女作になるはずでした。

約7割ほどを書き上げながら、完結させることができなかった物語。10年間誰の目に触れることもなく眠っていました。


昨年の夏より小説を書き始め、20冊弱の物語を書きました。10年前の自分より少しは成長したかと思い

ただただ、完結させるために昔の原稿を紐解きました。


初めて書いた小説で、あれもこれも書きたくて、結果テンポや構成がよくないのですが、脇道に入ってはいても部分としてはいいもののように思えて、かなり迷いましたが、削らずに出します。


とても長い話なのですが、最後までお読みいただけたら嬉しいです。最後の部分は、今の私が書いています。


汪海妹

2020年10月7日



   登場人物


ノラルピーナ

 ウィットベリー ノラルピーナ大公家

 ダグラス……ノラルピーナ大公、アデルの伯父

 ジェローム…ダグラスの息子

 エリオット…ダグラスお抱えの騎士


キサルピーナ

 バルフォルト ブラスト王家

 ギディオン(故人)…300年ほど前国を統一し、

          キサルピーナ王国を建国

 ヘンリー…現国王

 オルガ(故人)…王妃、エドワードの母、

        出産と共に他界

 エドワード…皇太子

 アデル…第二夫人、レオナルドの母

 レオナルド…エドワードの腹違いの弟


 ストレーチ…エドワードの側近

 エリプス…エドワードの愛馬

 ジョシュア…2人の家庭教師

 ノックス…バルフォルトの大祭司

 

 チェンバレン家(伯爵・大臣)

 サイラス…ロイの長男


 ローリー家(伯爵・大臣)

 ヴィクター(故人)…ギディオンに仕えた当主

 ブレア…現当主

 エリック…ブレアの息子

 バート…ブレア家執事の息子


ケンソルブリー

 ユージーン…長老

 カミラ…占い師

 ヒュー・オーデン…ヘンリーの従者、ウィリーの父

 ウィリー…王宮の医術士見習い

 エドガー・ノリス…秘文書を盗み

          行方不明になった男

 トリーシャ…エドガーの妻

 テルマ…エドガーの息子、エドワードの従者

 シャロン…エドガーとゲラニオンの女の間に

      生まれた娘、テルマの腹違いの妹

 

ホッピアンビィ

 レイラ…大地の女神ルヘアに仕える巫女


トランサル

モナチェスター トランサル大公家

 ハロルド…トランサル大公、エミリアの父

 フィオナ…エミリアの母

 クレイグ…エミリアの兄

 ジーン…エミリアの1番目の姉

 フェリシア…エミリアの2番目の姉

 エミリア…ハロルドの末娘


 バトラー…執事

 パティ…小間使い

 サンドラ…侍女

 ナニー…料理女

 ガードナー…庭師

 マーシャル…馬丁

 フィップ…マーシャルの息子

 スー…エミリアの馬


オルクトン

 バーナード…ハロルドお抱えの騎士

       地方長官セネシオ

 オスカー…1番目の息子

 ジェフリー…2番目の息子

 マーシャ…末の娘


シェッパーハム チャプマン家(伯爵)

 ロイ…先代当主

 レイバン…現当主

 デニス…レイバンの息子

 アントニー…レイバンお抱えの騎士


ソアル

 リパマウス

 ガヴァン…ソアル大公

 ジェンキンソン…チャプマン商会の人間

         リパマウスの責任者

 

ヘカト

 ホリー・クロスビー(故人)…アルヴィンの母

 アイリーン(故人)…アルヴィンの叔母

 アルヴィン(故人)…リュケイオンの始祖

 エイプリル…ルシアスの祖母

 セシリア…ルシアスの母

 ルシアス


ウェサル

ハロチェスター

 エミール…ウェサル大公

 ウェルズ…伯爵


リュケイオン

 ジェフリー・リオン…先の長

 アイザック…ジェフリーの息子、今の長

 イーディス・ハウエル…老婆

 キャリー…イーディスの世話係

 エマ…イーディスの孫娘


 ヘクター…村の子供、ルシアスの友達


ゲラニオン

 コズマ…高名な大陸の術師

 

 


キサルピーナ王国地名


ノラルピーナ

 ウィットベリー   領都

 モナルデ山     デュース神の神殿、

           王家の墓がある

 フォンタナスアルデ 神殿のそばにある泉


キサルピーナ

 バルフォルト    領都

 ホッピアンビィ   レイラの村

 ウィットの森    ルヘアが祀られている森

 アチウィッチ    キサルピーナとトランサル

           領境の村

 モンスナ山     キサルピーナとトランサル

           領境の山

 アブハン川     モンブレウ山からバルフォ

           ルト、ウェサルへ流れ、海

           に出る川

 ケンソルブリー   テルマの村

 モンブレウ山    クリオスが封印されている山

 ブレウの森     王族が狩をする森


ウェサル

 ハロチェスター   領都

 リュケイオン    モンコロナ山の8合目あたり

           にある村

 モンコロナ山    冬に狼の出る山

 コロナフォト    モンコロナ山麓の村

 コロナの森     モンコロナの西に広がる森

 ソルチェスター   最も西にある砦


トランサル

 モナチェスター   領都

 シェッパーハム   羊の牧畜で有名な街

           チャップマン家の所領

 オルクトン     バーナード伯の所領

 デオルフォード   トランサル公の夏の家がある


ソアル

 リパマウス     領都

 ヘカト村      ルシアスの生まれた村

 エルフに森     ヘカト村の近くにある森


イール

 アプレシコット   領都


311年4月

ブレウの森


春になったばかりのある日、ある森の中を走る人影が二つ。背の高いがっしりとした体格の男と、背の低いほっそりとした男だ。

そして、その2人をひっそりと追っているものがいた。追っているといっても人間ではない。大人が両手で抱えられるほどの小さな猿だ。ひた走りに走る2人の上空を、枝から枝へ器用に飛び移りながらぴったりとくっついていく。

やがて2人の男は誰もいない森の中で立ち止まった。ほっそりとした男は立ったままで目をつぶり、何やらぶつぶつと言っている。がっしりとした男はその横でじっと立っている。


「来るぞ!」


男の口から出た声はか細い少女の声だった。この男は男装した少女だったらしい。少女は腰の袋から大人の指ほどの細さの小さな竹筒を出して口にくわえた。2人の向いている方角から馬のひづめの音が響いてくる。めちゃくちゃな速度で駆けてくる白馬の背中に、15、6歳ぐらいの少年がしがみついている。必死で手綱を握っているその少年の目と、木立の中にひっそりと立つ少女の目があった。

少年が一瞬、あれ?という顔をした。


フッ


少女が少年を狙って吹矢を吹く。

少年は体をのけぞらせて、そしてどさりと落ちた。馬はそのまま前方へと走り去っていく。

一瞬の出来事だった。

少女の横にいた男が口笛を吹く。

「速く!」

少女が鋭い声で言う。男は飛び出し、少年の体を持ち上げる。

「何してるんだ!さっさとしろ。」

男は背中に少年をおぶった。

「こっちだ。」


少女と男がしばらく歩くと、ごおごおと水音が聞こえてきた。崖際に出た。五メートルほど下に川が見える。少女が振り返った。冷たい二つの目が男をまっすぐ見ている。

「とどめを……」

男は首を振った。

「首の骨が折れている。」

少女は目をまっすぐ前へと向けた。

「流れの真ん中へ投げ込め。バルフォルト辺りまでは流れて行ってほしいからな。」


川は素早く流れ、岩にぶち当たってはしずくをまき散らしている。急な流れが行き場を失って方向を変え、別の流れとぶつかり、白い水しぶきをあげている。男はその流れの真っただ中に向けて腕に抱いていた物をほおりだした。


どぼん


少年の体はあっという間に見えなくなった。


時間を少し戻す。


落馬した少年を男が抱えて歩き出すところからずっと、2人の様子を先ほどの小さい猿が木の上からずっと見ていた。2人と猿より少し離れたところに、もう一人、若い男が立っていた。背の高い細い男で、長い金髪をうしろで一つに束ねている。この男は両目をつぶって木立の中にそっと立っていた。


金髪の男は距離を保ちながら2人の後をつけ、川が見える崖際につくと、2人からは見えない少し離れたところで、木に細いロープを巻き付け、するすると急な傾斜を下り始めた。音を立てずに素早く動くさまは人間ではなく他の動物のように見えるほど。崖の中ほどまで下りたあたりで、黒い影が上から下へ落下していくのが見えた。そのときだけ、男はぴたりと動きを止め、影がどぼんと消えたあたりをちらりと見た。

静止したのは一瞬で、男はすぐに再び動きだした。

下までたどりつくと、彼は崖に向かって立ち、手のひらだけをロープの方に向け、口の中で何やらごにょごにょと唱える。すると、ロープは青白い炎に包まれ、音もなく燃え上がりきれいに灰になった。


男は低い口笛を吹いた。空からばさばさと、頭の白く体の茶色い大きな鷹が舞い降りてきて、肩にとまり鋭く一声鳴いた。男は指で素早くいくつかのサインを示した。鷹はもう一声鋭く鳴くと、飛びあがった。

男はその後を追った。静かに無駄なく動いてゆく。その動きはまるで獲物を狙う蛇のようだ。


少年の体を見つけ出したのはずっと下流へ下ったところだった。

あたりは既に日が落ち、月の輝く夜になっていた。上流では細く流れの激しいこの川も、下流に進むにしたがって川幅が広がり、水深も浅くなる。そして、大きくカーブする。そのカーブのあたりに流れ着いていた。顔も唇も髪のように白くなっていた。


男は少年を川辺の木の下まで引きずっていった。そこにあおむけに寝かせると、両手を胸の上で組ませてその上に自らの左手を重ねた。両目を閉じ、残った右手を顔の前に立てると、そのままなにやら考え込んでいるようだったが、ふいにごにょごにょとなにやら唱え始めた。


すると、しばらくしてあたりの空気がぴんとはりつめた。最初はわずかだったその感じは徐々に強くなった。空気が流れを作り、旋回し始める。そして、四方から横たわった少年の体に流れ込み始めた。体が青白くにぶく光っている。


男は即座に手を離した。今度は自らの両手を顔の前であわせ、強く繰り返し何かの言葉を唱えている。


少年の意識は暗闇の中で目覚めた。


(ここはどこだろう?)


暗闇の中に体が漂っている。上下の感覚がなくて、自分が下を向いているのか上を向いているのかわからない。右目の延長線上にぼうっと白く何かが浮かび上がる。

目を凝らして見つめる。

あたりは暗い闇に包まれている。

川が見えてくる。黒く流れる川。川辺の右がほんのり白く光る。

わずかな光の中に、何か黒いかたまりが川に半身を浸し、半身を川辺のごつごつとした岩の上に横たえている。


(どうやら人らしい。)


その時、月が雲から出て、月明かりが優しく辺りを照らした。水面のあちこちがきらきらと光る。

横たわる人間の紙のような白い顔。

それは自分の顔だった。


その顔が見えたのは一瞬で、光景は少しずつ小さくなっていって、また闇に包まれる。今度は別の光が左手から近づいてきた。どんどん大きくなる光に今度はのまれる。

一瞬視界が真っ白になって、まぶしくてたまらなくなって目を閉じた。


再び目を開けると、なぜかそこは一面の花畑だった。

向こうのほうから風が吹いてきて、ざざざざと花を揺らした。花の香りがした。

少年はいつのまにか10歳ぐらいの子供に戻っていた。

遠くのほうで誰かが自分を呼んでいるような気がしてたまらない。そっちへ行きたくて駆けだそうとする。でも、足が重くて重くて思うように動かせない。


と、ふいにものすごい力で後ろにひっぱられ、花が消える。

何十メートルもの高さから背中から一気に落ちるような感覚。

声にならない悲鳴をあげる。地面に衝突した。衝撃で体がばらばらになったと思う。

ぶつかったその時、目のはしっこに金髪の男の顔が映った気がした。


(テルマ……?)


そして、また、闇にのまれた。



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