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四、桃の間の仲間たち


 詰草は、今まで家族を九十九堕ちに殺された人間をごまんと見てきた。だからこそ、翠をこの、神喰い本部に連れてきた。ここには、翠と同じく、九十九堕ちに家族を殺された人間が集まってくる。

 心の傷は、同じ痛みを共有する事でしか癒せない。

 だから詰草は、翠をここに導いた。翠が後追いをしないように、翠の傷を癒すために。


(必要なかった、か)


 決意に満ちた翠の瞳に、詰草はバレないように小さく息を吐き出した。





 詰草を見送りながら、翠は拳を握りしめた。その体は震えているが、翠は強く強く決意する。


(死んでたまるか。私は絶対に……)


 詰草と翠、それぞれの思いが交錯する。





 ところ変わって。

 東雲に案内されたのは、とある寮である。沢山の部屋があるなかで、翠が案内されたのは、桃の花が描かれたドアの前だ。


「訓練生はチーム別に寮で集団生活をしてもらうんだ。君は桃の間」

「集団生活……」


(どんな人たちだろう)


 桃の間のドアの前で立ち止まり、翠は深呼吸した。

 ドアは和風の作りの引き戸であり、妙な雰囲気がある。


「さあさ、開けてごらん」


 東雲に促され、翠はドアを開ける。

 ドアを開けると、その先には四人のチームメイトがいた。

 赤みがかった髪の毛の青年、金色の髪の毛の少年は同い年くらいだろうか。

 桜色い髪の毛の少女に、まだあどけなさが残る少年。


「久々に新人が来るって聞いてたけど……」


 談話室のソファから立ち上がり、赤色の髪の毛の少年が驚いた表情をしている。


「あれ? 女の子? 女の子は神喰い人になれないって聞いてたのに」


 金色の髪の毛の少年はソファに座ったまま飄々とした態度で言いたいことを言う。


(女の子! 神喰いの志望者なのに?)


 ソファに座って本を読んでいた桜色の髪の毛の少女はぽうっと翠を見詰める。


「ちっ」


 少し離れた壁に寄りかかっていた最年少の少年は明らかに嫌そうな顔をする。

 翠はがばっと頭を下げる。


「今日からお世話になります! 皐月翠です!」


 四人とも、翠を見て固まる。


「思ったより前向きなんだね」


 赤色の髪の毛の少年だ。


「え?」


 翠が聞き返す。


「ほら、ここに来るのってワケアリばっかだからさ。やさぐれてんのとかばっかなの」


 金髪の少年が丁寧に説明してくれた。

 翠は戸惑いながら、


「……まあ、やさぐれたくもなりますよね」


 へへ、と照れくさそうに笑う。

 一気に場の雰囲気がなごむのがわかった。


「それじゃあ自己紹介するね。俺は秋野紅。二十歳。ここの寮長」


 切り出したのは、赤色の髪の毛の少年だ。紅はニカッと笑う。


「俺は雷王絶。絶でいいよ。年は十七」


 金髪の少年がはきはきと自己紹介する。


「あっ、同い年だ?」

「へえ。じゃあ梅乃もタメじゃね?」


 絶は梅乃と呼んだ桜色の髪の毛の少女のほうを見る。

 梅乃はぽうっと翠を見つめていたが?はっとしたようにソファから立ち上がる。


「あっ。うん。私は技術部志望の春日梅乃」

「技術部?」

「うん。女性でも技術部なら神喰いに所属してる人は多いの。でも翠ちゃんは神喰い人志望だものね、すごいわ」


 梅乃は翠の手を握り、ふわりと笑いかける。


(可愛いなぁ。この子も何かワケアリで仮入隊してるのかな……?)


 翠がほわんと和む。


「で、あっちで翠ちゃんを睨んでるのが「遠藤進」。仮入隊の中でも最年少の十三歳」


 紅に言われ、進はちっと舌打ちする。

 嫌われたのだろうか。

 翠は進を見て困ったようにあわあわするばかりだ。


「自己紹介は済んだかね? ならばあとは、秋野くん。皐月くんにいろいろ教えてあげてくれたまえ」


 ぽすぽす、と東雲が紅の背中を叩き桃の間を出ていく。

 紅がぽんっと手を叩いて場をしきる。


「改めて、翠ちゃん。仮入隊おめでとう」

「あ。ありがとうございます」


 そうして紅が部屋の中を案内し始める。


「じゃあまず部屋の案内から。今いるのが談話室」

「あ、あの。紅さん。仮ってなんですか?」


 紅が案内を始めるも、翠が遮る。

 紅と絶は顔を見合わせて目をぱちくりとさせた。


「そんなことも知らずに仮入隊したの?」

「え?」

「ここで修行して基礎体力をつけたって、本入隊になれるのはごく一部」


 紅の表情が真剣なものに変わる。


「基礎体力訓練だって脱落者は五割を越えるんだから、生半可なものじゃないよ」


 紅の表情は先程までの笑顔からは考えられない厳しいものになっていた。

 翠はごくりと唾をのみ込む。


(詰草さんが言っていたのはこのことなのか……)


 翠は詰草の言葉を思い出す。

 神喰い人に成れるか成れないかは俺が決めることじゃない。

 それはきっと、こういうことなのだ。


(それでも私は……)


 しかし、翠の気持ちは揺るがない。


「紅さん。教えてくれてありがとうございます。私、頑張ります」

「……! うん、それは俺たちも大歓迎」


(とは言え、この一年で入れ替わった桃の間の寮生は二十人を越える……なんて、言えないけど)


 紅の心遣いをよそに、絶、翠に歩みより、


「言っても、桃の間の寮生って長くいつかないんよね」

「こら絶!」


 紅が絶をいさめるも絶は涼しい顔である。


「ほんとのことじゃん。翠はさ、なんか神喰いの刀振れるんだって? 神喰い始まって以来だってよそんなの」


 絶が興味津々に翠を見ている。

 翠はたじろぎながら、


「そうなの?」

「そうそう。だからさ」


 絶はいくつかあるなかから一つのドアを開く。ドアの先は道場である。


「手合わせ、しようぜ?」


 絶は好戦的な笑みを浮かべている。

 翠はあわあわするばかりで答えられない。そもそも、手合わせをする理由がわからない。

 紅は呆れたようにため息をつき、梅乃は興味があるもあわあわしている。

 進は興味がないふりをするも、絶と翠のやり取りに耳を傾けている。


「えーと」

「いいじゃん、減るもんじゃないんだし!」


 絶が意気揚々と道場に足を踏み入れる。翠は助けを求め、困ったように紅を見るも、


「絶は言い出したら聞かないからね。それに俺も興味がある」


 悪戯っぽく笑う紅に、翠は「ええっ」と引きぎみである。

 結局、翠は仕方なしに絶に付き合うことになってしまった。

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