凸凹な二人
――話は少し遡るが――
二人編成の、かろうじて冒険者パーティーと呼べるジェイクとルビィは、一つの冒険を終え、次の目的地に向かおうとしていた。
冒険者をするにあたり、通常では役割に応じて、四人程度でパーティーを組むのがセオリーとされているのだが、そうしないことに、多くの危険を乗り越え、培われた二人の実力の高さが窺える。
かといって、それだけで敢えて危険な二人編成に拘る必要はないし、彼等もそれなりに出会いと別れは経験してきた。
当然、最初からそうだったわけではないのだ。
いつしか他の冒険者と組まなくなった原因は、主にジェイクにあり、ある時期を境に、冒険者特有の浪漫を求める野心が鳴りを潜め、自棄気味になった彼は、他冒険者からすれば、パーティ全体の士気に関わる好ましくないダウナーな相手であり、敬遠されがちになっていた。
また人を避け、去る者追わずといったスタンスも相まって、孤立することとなっていたのだ。
冒険者になる前からの腐れ縁である、ルビィだけは何の酔狂か、ジェイクから離れることはなかったが、彼と違って社交的で明るい彼女が、その本性を知らない他パーティから誘われるのは、過去にはままあることで、断った際にいつかジェイクが溢した、
「俺に構わず行けば良いのに」に、対しての答えは、
「二人の方が、取り分が分散せずに良い」だそうで。
そこはかとなく感じるツンデレに、喜びたいところではあるが、徐々にエスカレートしていく彼女の悪癖にも問題は大ありだった。
それは技術と知識を持ちながらも、根拠の無い勘を優先するというはた迷惑なもので、その勘は、時には成功を呼び込むが、パーティを危機に陥らせることも、一度や二度ではなかった。
具体例を上げるなら、感知の術を持つ彼女が洞窟の先導を任せられた時は、勝手に経路を変更し、魔物の巣窟に突っ込んでみたり、
はたまた、他メンバーが先導した時は、わざと落し穴の罠を起動させ、パーティごと階下に落下してみたり、宝箱に擬態した魔物を刺激してみたりと、枚挙に暇がない。
その奇行の理由は、「そこに宝があると感じた」という、ふざけたものでありながら、その勘が当たる確率は、おおよそ五分五分であるのが、また質が悪い。
ルビィに促されたジェイクが、しぶしぶ他パーティと組んでみたことはあったものの、そのような悪癖に付き合わされる他メンバーはたまったものではなく、パーティは即解散を繰り返し、悪い噂が広がるのみ。
結局、彼女に付き合える者も、長年行動を共にして、慣れたジェイクを置いて他に居なかったのである。
主体性の無い彼が、無理矢理付き合わされている。といった方が正しいかもしれないが。
要するにこの二人は、実力はあっても冒険者としては問題だらけのはぐれ者コンビというわけだ。
幸か不幸か運と才能には恵まれ、様々な役割をこなせる、万能型だったので、なんとかやってはこれたのだが。
――彼等は商団を護衛しつつ、砂漠を越えた先にある東の国へ向かう予定だった。
商団には私兵団が組織されていて、特に護衛の追加は必要ないにしろ、今回、旅の目的地が同じであった二人はそれに便乗する形にしたのだ。
その旅路の途中である。
「ねえジェイク、あそこに見える泉に私、ピンときちゃったんだけど」
額の汗を拭いながらルビィが、指を指す先には言葉通りに泉が揺らいでいた。
「……俺は全くピンとこねぇけどな」
道中二日目、例の悪癖を発揮するルビィと、「またかよ」と、疲れた様子で返すジェイク。
商団と二人が横断している砂漠は、旅人を惑わす蜃気楼が日常的に姿を見せることで有名だ。
それは町であったり、宮殿であったり、泉の周りに樹木が群生するオアシスであったりするのだが、あと一歩のところまで近づくと、たちどころに消えてしまい、旅人の歩みを徒労に帰す存在。
ここらの地域では、子供でも知っている常識である。
「私の第六感が囁きまくっているのよ。あの泉ちゃんが呼んでいるってね~」
「何が第六感だよ。ありゃあ、実体のない幻だ」
眉を顰めて呆れるジェイクの返しもどこ吹く風、ルビィは早速予定の変更を告げるべく、商団の団長に声を掛けようと――
「いいからいいから、行ってみれば分かるから。団長さ……ムグゥ」
「俺にはお前が分から……ちょっ、おまっ、止めっ、…………って痛てぇ!」
意図を察したジェイクはとっさに彼女の口を塞ぐも、激しく抵抗され、手を噛まれてしまう。
そして、怯んで離れたところに、鋭い蹴りが飛んで来る。
パンッと、響いた乾いた音は、彼の手が、その蹴りを掴んだ時のものだった。
「……てめえ、やんのか?」
蹴りを受け止めたところで、ジェイクの雰囲気が一変し、ルビィを見据える眼光からは、本気の迫力が窺える。
「離しなさい……よっと」
対するルビィの掌から、拳大の何かが飛来し、堪らず手を離したジェイクが、仰け反るようにそれを回避すと、飛来物は地面に着弾し、炎を巻き上げる。
先程まで朗らかに談笑していた、商団メンバーの一人は突然の出来事に目を白黒させ、また一人は腰を抜かしてへたり込んでしまう。
「術は反則だろーが! 殺す気か!」
ジェイクの抗議に悪びれた様子もなく、不敵な笑みを浮かべると、ルビィは軽快なステップを踏み、臨戦態勢をとり始め――
「ごめーん、手元が狂っちゃった。でもいつまでもレディの足を掴んでいるあんたが悪いってね~」
と、宣う。
「ったく、またかよ……。いいよ、目にもの見せてやる」
頭をガリガリと掻き、ジェイクもまた臨戦態勢をとった。
「さっきの蹴りを受けられたのは驚いたけど、今日は私が勝~つ!」
「……抜かせ!」
こうして変人共の戦いの火蓋が切られたのだった。
――腰を抜かしたメンバーを救助した後、ターバンを頭に巻き、顎髭を蓄えた男――商団の団長は、二人の戦いを遠巻きに眺めながら隣の部下に話しかける。
「洞窟探索家のジェイクとルビィか……、昨晩の魔物との戦いで見せた実力は噂通りだったが……」
「はい、イカれ具合も本当でした……」
部下が困惑気味におろおろしていると、団長は――
「お前らボヤボヤしてんじゃねえ! 日が沈む前にできるだけ進んじまうぞ!」
と、こんな連中に関わってはいられないと、先程まで呆気にとられていた自分のことは棚に上げ、団全体に号令を掛けた。
「え? 彼等は良いんですか?」
「知るか! 放っておけ!」
ジェイクとルビィは戦いに夢中で、商団の動向を気にしている様子はない。
そして今しがた、ジェイクの顔面にルビィの裏拳が炸裂したところだ。
「お前いつのまにそんなに……ふげっ」
今度はフェイントに隠された上段蹴りが、弧を描くように華麗に決まる。
よく分からない戦いの叫びが、辺りにこだまするが、確かに今のうちかもしれない。
道中、いきなり手合わせを開始する血の気の多い連中に、安心して護衛を任せられるかといえば、疑問しか残らないのは尤もだ。
御者が瘤馬に鞭を入れ、馬車が動き始めると、そそくさと他のメンバーも、その場を離れるべく移動を開始するのだった。
「死にさらせぇぇぇ!」
――そして、獣二人を残し、誰もいなくなった。