9 初めての受注
本日1話目です。
「犬を撫でるだけの簡単なお仕事です」
ちょう子さんはそんな理解し難いことをさらりと言った。
本当にそんなことが仕事に……?
夢のようじゃない? パラダイスじゃない?
いやいや、そんな甘い話あるわけが……。
私が軽くパニクっているというのに、ちょう子さんは至って冷静に説明し始めた。
「とある、お金持ちの方からの依頼です。その方はたくさんの犬と暮らしてらっしゃるんですけど、何しろ犬が多すぎて、なかなか全ての子に手が回らないとかで。どの子もみんな甘えん坊らしくて、人と触れ合うのが大好きらしいんですけど、手が足りないようなんです。食事や掃除なんかの身の回りのお世話は従者の方で回しているみたいですけど、もっとかまってあげて欲しいんですって」
お世話も従者を雇っているって、凄いお金持ちなんだろうか。よくわからない世界の話だ。
「報酬は、時給一ゴル……千円。プラス歩合で一匹につき一シル……百円が付きます。一匹一分以上はかまってあげて欲しいんですけど、休み休みゆっくり様子を見ながらで良いとのことですから、無理しない範囲でやってみませんか? 今回はお試しですので時間は一時間、十匹撫でれば合わせて二千円になりますし。どうでしょう?」
ええ!? 一時間犬と戯れて二千円!?
まだ理解が追い付かないままの私を置き去りに、カチカチとパソコンのような機械をいじり、仕事内容の詳細を確認してるちょう子さんの話は続く。
「ああ、中には大型の子もいるみたいです。きちんとテイム……躾けられていますから危険はありませんが、まるちゃんは小型犬ですもんね。大きい子には慣れてませんか? 苦手なようなら、小さい子だけ相手してもらうんでも大丈夫ですよ?」
「……あ、怖くはないので大丈夫……です。……けど、体力的に今はキツいかもしれない……です」
ボーッとしながら受け答えてるせいで、なんかカタコトになってしまった。
マジか……。本当に犬のお相手をするってのが仕事なんだ。時給千円だけでも超ありがたいのに歩合付き。四十匹撫でたら五千円。いや、さすがにそんなに犬がいないだろうけど。
「あ、あの! ぜひ、やらせて下さい!」
私は食いついた。
少しだけ騙されているかもって怖かったけど、目の前にぶら下げられた美味しい餌に食い付かずにはいられなかった。
ちょう子さんはふんわり微笑んで、
「ありがとうございます。では、このお仕事を受注いたしますね。カードをこちらに」
小さな液晶画面のようなところへカードをのせるように促される。
カードをかざすと、キランと電子音のような音が鳴った。
「はい、受注完了です。初めてなので依頼先まではご案内しますが、お仕事が終わったら依頼主様のところでも依頼達成の確認のために、あちら様のまど……スマホでも同じようにカードをかざしてから帰ってきて下さいね。達成を確認しましたら、こちらのカウンターで報酬をお支払いしますので」
名前だけが書かれていたカードには、『受注中 ♯******』という表記が出ている。
やっぱり、ハイテクだぁ……。
ここまで手が込んでいて詐欺だったらすごい高度な手口だよね、と甘ちゃんで世間知らずな私は、ただひたすら感心しきりだった。
お読みいただきありがとうございます。
第二章が始まりました。
また戸惑い中の主人公を応援してやってください。
この後19時に2話目を投稿予約します。
引き続きお楽しみください。