85 開かずの間
本日2話目です。
あれから何回も、私たちは話し合いを重ねた。
どうやったら上手く折り合いをつけて一緒に暮らしていけるか。行き当たりばったりで始めてしまうには、「人がコワイ」私たちには大きな壁があるから。
私の家にも来てもらった。
あの時から、私は一度も入れないままだけど、父の部屋だった空き部屋もある。汚れているだろうけど、片付けてもらえば使えるはずだ。
今でも私は入れないので、自力で掃除してもらわないといけないけど。
お風呂、トイレ、キッチンは共用になる。不自由は多いと思うけど、そこは頑張るしかない。
私は買い物くらいは出れるようになったけど、彼はまた外はコワイらしい。
「必要なものがあれば、ついでに買ってきてあげるよ」
「いや、通販とかもあるし……。金があるなら、何とかできると思う。それに……俺もいつまでも外に出れないじゃいられないから……」
「いつかは……ね。そのうち、そのうち。ゆっくりやろうよ」
ハッと気がついたように、真面目顔で彼が悩む。
「俺が外をうろつくと、ななさんに迷惑かけちゃうかな? 家に若い男がいるって良くないよな……」
ご近所さんの目と噂。
私の怖いものトップテンに入るけど……。
「あー、いいや! もう、そういうの。知らない、他人だし。わかってくれなくていいよ。私もずっと引きこもりだし。お母さんは出ていっちゃうし。すでに十分白い目で見られてるから、気にしないようにしよう!」
本当は怖いけど、虚勢を張って口に出してみたら、なんかホントにどうでもいいような気になれた。「あんたたちには関係ない!」って堂々と生きていけるようになりたいな。
「……親、出てっちゃった……の?」
おっと。勢いで余計なことまで言っちゃったな。
「あー、うん。ある日急にいなくなってて。何にも言わずに。私は親に捨てられて一時は死にかけてたけど、今はギルドのおかげで何とかなったって感じ。まるもいてくれたからね。
親だって子供を置いて出ていっちゃうんだから、子供が親を捨てるのなんて全然悪くないよ。っていうか、これって親離れして独り立ちするんだから、どっちかと言うと立派なことだよね?」
「……そう、かな? ……そうだよな」
笑って軽い感じにそう返したら、彼も苦笑いだったけど、それ以上突っ込んで聞いてはこなかったので、この話は終わり。
家の中を案内して、彼の部屋となる予定の父の部屋に近づくと、どうしても体が震えてしまった。その扉が目に入った途端、歩けなくなってしまう。
「あ、あの……部屋は……、使ってないから。た、たぶん、ほったらかしで……汚いと、思う……から。……か、片付けて、好きに使って」
それだけ告げて、私は踵を返して居間に戻った。
彼を置き去りにしてしまったけど、あの入り口が開くところは見たくない。見れない。
ハアハアと息を荒げて小さく蹲る。心配そうにまるが近寄ってきたので、ギュッと抱き締めて心を鎮まらせる。
「……あの、俺。あの部屋は使わないよ」
不意に後ろから声を掛けられて、必要以上にビクッとなってしまった。
「あんまり、ななさんの居場所に踏み込み過ぎちゃいけないと思うんだ。すっごい無理してくれてるでしょ? 俺に無理するなって言うんだから、ななさんも無理しちゃダメでしょ?」
振り向くと、彼は優しい笑みを浮かべている。しょうがないなぁという風に、一つため息を吐いた。
「もし良かったらだけど……、ここに来る時に通った地下室。あそこを仕切って、俺の部屋にしちゃダメかな? ななさんがギルドに行く時の邪魔にならないように、ちゃんと通れるようにして、端っこの方でいいから。同じ家の中だけど、アパートの一階と二階だと思ってくれれば良くない? このくらいちゃんと距離を置いた方が、上手くやれると思うんだよね」
ありがたすぎる妙案の提示に、思わずコクコクと上下に首を振ってしまう私だった。
お読みいただきありがとうございます。
明日からは1話更新になりますが、残すところ数話で完結します。
引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。




