75 ギルドの説明
本日も2話更新します。
これは1話目です。
次に彼が昼間のギルドに訪れた時、彼の首にはしっかり登録者カードが提げられていた。
すぐにカーテンを閉めてしまったから、ほんの少し垣間見ただけだったけど、見違えるように晴れやかな笑顔をしていた。
「こんにちは!」
入ってきた挨拶の声も力強く、ずいぶんと明るいものになっている。
いつものようにお茶を用意して、カーテン越しに彼と話す。私も興味津々だったけど、こちらから聞くまでもなく、彼も聞いて欲しくてたまらないといった雰囲気だ。
あつし君の初めてのお仕事は『倉庫の片付けのお仕事』だったらしい。
奥の方に積まれた古い書類の入った木箱を運び出し、手前の木箱を奥へと積み直していく。言ってしまえば、荷物を運ぶだけの簡単なお仕事だけど、紙の詰まった木箱というのはかなりの重量があり、ガチの肉体労働だったみたい。引きこもって長い彼にはさぞかし大変だっただろう。
「ずっと部屋の中だけで過ごしていたせいで、体力なんて落ちまくりだったのを実感したよ。暇つぶしに筋トレはしてたんだけどなぁ。
でもさ、体はきつかったけど誰もいない倉庫で一人でできる仕事だったから精神的には楽だったし、初日は短時間だったからなんとか頑張れた。
……俺にもやれたんだ。一時間で千円。俺が、自分で、稼いだんだよ!」
誇らしげに語る声を聞いてると、私まで嬉しくなってくる。口調も力がこもっているし、いつもよりも饒舌だ。
「もう三日も続けられたんだ。この仕事なら俺にもやれるって思えたんだ」
うん、うん、わかるよ。
私もそうだった。私なんか何もできないって悲観していたから、私でもできるっていうのがすごく嬉しいんだよね。
「このカード、すごいよな。それにあのエレベーターのシステム。びっくりしたよ!」
「うん、私も最初すごいびっくりした。ハイテクだなあって思った」
ここのギルドのこと、異世界のこと……。もう聞いてるのかな? 私からは迂闊に言わない方がいいのかな……?
「ななさんもあの倉庫に行ったんだ? あんな力仕事できたの?」
「あー、たぶん違う倉庫かな? 書類の箱じゃなかったと思う」
これは聞いてないっぽいかも。
ハムスター型の魔獣を捕まえてました、とは言えないよね。
どこまで話していいものかと逡巡していると、「コンコンッ」と入り口横の壁をノックしてちょう子さんが顔を覗かせた。
「本格的にお仕事を始めてもらう前に、あつしさんに話しておきたい大事なことがあるんです。私もご一緒していいですか?」
しっかり自分用のスツールを持参してきたちょう子さんは、カーテンの向こう側、あつし君の隣に座った。
「お茶を淹れてきますね」
私はさり気なく席を離れて奥の給湯スペースへ向かう。
どうやら今から異世界とギルドのことを説明するようだ。邪魔にならないように、静かにお湯を沸かしながら耳をそばだてる。
「信じられないかもしれませんけど……」
ちょう子さんの話が始まる。
あつし君も無言で耳を傾けているみたい。
ここが異世界ギルドであり、日本と異世界をつなぐ狭間の場所であること。ここで受ける依頼は異世界のもので、エレベーター型の転移ポイントで向こうへ行ける。そうしてこちらの世界の人に関わってもらうことで、停滞、衰退していく異世界に刺激を与えて欲しい。異世界側はこちらの世界の人の力を必要としていて、同じように異世界を必要としてくれる人の元へとギルドの入り口は開くようになっている。
お湯が沸き、お茶を淹れてテーブルに戻る頃には、粗方の説明は終わろうとしていた。
「今回、あつしさんの元にギルドの入り口が開きました。でも、無理強いをするつもりではないんです。
数日お仕事をして関わってもらった訳ですが、……どうですか? この話を聞いても続けていただけますか? あつしさんは私たちを必要としてくれるでしょうか……?」
ちょう子さんの真剣な声が、無言のあつし君に問いかける。緊張を伴う静寂の後、薄いカーテンの向こう側、震える体を自ら抱きしめるようにした彼の影がゆっくり立ち上がるのが見えた。
「っっっやったあ!!」
大きな一声とともに、両手を上へ突き上げる。影はそのまま勢いよくちょう子さんへ覆いかぶさり、ガバッと両肩を掴んだ。
「キャッ!」
勢い余って力が入り過ぎたのか、ちょう子さんから小さな悲鳴が漏れた。
――ガッシャーン!!
「やっ……! いやあああああぁぁぁ!!」
それとほぼ同時に、カップの割れる無機質な破壊音と、それすらもかき消すような、ちょう子さんよりも何倍も大きな私の悲鳴が部屋に響きわたった。
お読みいただきありがとうございます。
なかなか平穏に話が進みません。
しっかり病んでいるもので……。
続きは19時に更新します。
引き続きお付き合い下さい。




