7 流れ
本日1話目です。
「誰かお知り合いとかで、日雇いや短期でもいいって方、お仕事探してる方いませんかね。紹介してもらえませんか?」
「え、いや、そういう知り合いはちょっと……」
そういう知り合いも何も、私はボッチだ。友達なんていない。
「今なら仕事選び放題なんで、皆さんの状況に合ったいいお仕事紹介できるんですけどね……。やっぱり日雇いっていうのが、安定が無いってのがネックですかね……。せっかくこの地区任されたのに、一人も登録者確保できないなんて……。もうクビですかね。実家帰るしかないんですかね。て言うか、責任取ってクビ吊った方がいいのかな……」
とうとうお姉さんの瞳から涙がポロポロとこぼれ落ちた。うわあ。
「あ、あの! 私も仕事探してはいるんですけど。ちょっと今病み上がりで体調が悪いものですから、できることに限りがあるというか。普通に働けない状態というか。な、なので、私でもできそうなお仕事あるなら単発日雇いで働けるのは願ってもないことなんですけど。
その……、せめて登録だけでもしましょうか? できる仕事があるかわからないですけど。なんか内職みたいなのとかありませんか? 休み休みでも良ければ単調な繰り返し作業でも大丈夫です。あ、でも、登録するにも電話が無いや……」
お姉さんの涙にほだされて、思わず口に出してはみたものの。どんどん気持ちは消極的になっていく。
人の多い職場や男性のいるところは無理だし、でも、そんなこと言ってたら仕事なんて無いだろう。一日だけの日雇いなら我慢できるかな? いや、するしかない。今はお金がマジで必要だ。
いや、でも……。
できる、かな……?
やっぱり、無理かな……?
ブツブツ言ってたら、素早い動きで私の両手を取ったお姉さんが、ガバっと顔を上げてキラキラした目で見つめてきた。
「や、やった……! 初の登録者ゲット! 大丈夫です! お願いします。あなたにぴったりの仕事を見つけてみせますから!」
もう後には引けない状況になった。
なってしまった。
自分が言い出したことなので、ちょっとお姉さんの食い付きが怖いけど仕方ない。お金に困っているのは緊迫した事実なので、私にとっても小銭でも稼げれば渡りに船だし。
もう、この流れにのるしかないだろう。
登録用紙を渡されて記入していく。
名前、年齢、性別を書き込み、得意なこと、苦手なこと、それに病院の問診票のようなアンケートのチェック項目に印をつけていく。結構大量に質問があるぞ、コレ。
「わかる範囲で、だいたいでも結構ですからねー」
緩い声をかけてくれるお姉さんは、私が記入してる間にも、私におすすめの仕事を見つけてくれているみたい。
「時間が短めで、休みながらでもできて、体に負担が少なくて……、おお! これなんかぴったりじゃないかな!」
記入を終えた用紙をカウンターに持っていくと、ちょうど仕事を見つけてくれたようだ。うう、私でもできる仕事かな? ドキドキする。
「いけない、名前も聞いてませんでしたね。……ななさん、ですか。私はチョコラ……、ち、ちょう子と言います。これからよろしくお願いしますね!」
用紙に目を通したお姉さんは、「うっかりしちゃいました」とはにかんだ。
お読みいただきありがとうございます。
勢いに乗って流されてしまったなな。
ななにぴったりな仕事とは?
この後19時に2話目を投稿予約しました。
引き続きお楽しみください。