41 戦士に休日を
本日2話目です。
それから数日は、午前中だけ犬のお仕事や草取りの仕事をして、午後はまると一緒にギルドで内職をして、と日中はずっと異世界に引きこもって過ごした。
ちょう子さんとたわいもない話をしたり、購買で買い物をしたり。
念願の暖房の魔道具も手に入った。
ここ最近の日常を取り戻したことで、私の精神は随分と落ち着いてきた。
現実世界の方でも、コンビニくらいなら出掛けられる程に回復したので、購買の新商品から砂糖などの調味料を揃えられたこともあって、卵や牛乳やバター、バニラエッセンスにココアなどを買ってきて、今日の午前中は仕事を入れずにお菓子作りをした。
久しぶりにクッキーやプリンなどを作って、家の中が甘い匂いに満たされると、なんだか温かい気持ちになる。
思えばココアや甘いお菓子はもちろんのこと、砂糖すらしばらく口にしていなかった。
焼き立てのクッキーを一つ手に取り口に運ぶ。
「美味しい……」
今の私は働いてお金を手に入れることができているし、誰にも迷惑を掛けたりもしていない。
誰に憚ることなく、怯えることもなく、美味しいものを食べたっていいんだ。
後ろめたく感じる必要なんてない。
やっと、そんな風に考えることができるようになった。
もちろん、人に対する恐怖は取り去ることなんてできないけど。自分を卑下する気持ちは少しだけ薄れてきたような気がする。
たぶん、ちょう子さんのおかげ。
ギルドでは否定されることがないから。
できないことをできないと言っても受け入れられる。
できることをできる範囲でやれば認められる。
私でもできることを見つけてくれる。
私にできることなんて何も無かった。
無いと思っていた。
そうだ。
午後はお菓子を持ってギルドへ行こう。
お礼になるかわからないけど、ちょう子さんと一緒に食べよう。
そう考えるだけでまた少し、心が軽く温かくなった。
◇
「むはーっ! これ! この焼き菓子美味しいです! それにこっちのプルプルも。なんかスライムみたいで怪しいとか思ってごめんなさい。甘くて、良い匂いで、たまんないですぅー!」
私の安っぽい手作りおやつが思いのほかお気に召したようで、ちょう子さんは涙を滲ませて身悶えている。
「お菓子作りなんて本当に久しぶりだったんで、自信なかったんですけど。そんなに喜んでくれて嬉しいです。ふふふっ、持ってきて良かったぁ」
「あ、その笑顔! 久しぶりです。今日は力が抜けた感じですね」
「……力、入ってました、か?」
「私にはまだ、この世界のことはよくわかりません。戦争もなく平和な国だとは聞いてますが、何か戦ってきたんですよね? 戦いの後、しばらく力が抜けないのは普通のことですよ」
戦い……。
うん、私は戦ってきた。
他の人からしたら、なんてことないことなのかもしれないけど、私にとっては確かに戦場だった。
「お休みの次の日でしたね。ななさんは、戦から戻った兵士とか、生死の境を乗り越えてきたダンジョン帰りの冒険者とかと同じ雰囲気をしていました。
そういう時は、何か変わったことをしようとせず、のんきに日常を送るんです。自然に力が抜けるまで、頑張っちゃダメなんですよ」
「のんき……」
「はい、のんきですよ。のんきが大切です。そういうものです」
のんきでいられないほど消耗している時は、何も考えなくていいし、何もしなくてもいいんだとちょう子さんは明るく笑う。
「はい……、のんきでいられるように頑張ります」
「ふふふ、だから頑張っちゃダメなんですって」
背中をポンポンと叩かれた。
ふっと、力が抜けた。
お読みいただきありがとうございます。
弱った自分に鞭打たないように。
のんきに過ごせるといいですね。
日曜日には新章に入る予定ですので、もう少しお付き合い下さい。




