39 現実世界はコワイ
問題の第四章の始まりです。
本日2話目です。
今日は週に一度の休日だ。
今日の私は頑張らないといけない。
これから心穏やかに暮らしていけるように、勇気を出さないといけない。
昨日までの草取りの報酬で、残高がとうとう五百Gを超えた。
五十万円を現金化してもらい、滞っている請求を片付けてしまおうと思ったんだ。
借金やローンがある訳ではないけれど、月遅れで払っていた電気代や払えずに溜めてしまった税金関係。
春からは親がいなかったので、バイトを辞めた後は国民健康保険に自分で入らなければいけなかったんだけど、お金が無くて加入できなかったので、私は保険証も持っていなかった。
そりゃあ医者にかかるなんて怖くてできない。
家は持ち家なので家賃は無いけど、固定資産税というものを払わなければいけないらしい。母が払っていなかったらしく督促がきていた。
家はボロいので十万を超えるような金額ではないけれど、それでも予定外に万単位の支払いができるような余裕なんて無くて、ついほったらかしてしまった。
そしたら差し押さえますよっていう通知がきた。
どんだけ脅されようが、実際に差し押さえられることになったとしても、無いお金は無いので払いようがない。
役所の人が何度か家に来て、電話が無いから連絡が取れなくて困ることの、人間らしく暮らしていくために相談しましょうだのと言ってきても、私にとっては、
「さあ、死になさい。日本人として普通に暮らせない人間は生きてる資格はありません」
と言われているのと同じだった。
死になさいと言ってくるくせに、死んではいけないと言う。
どんなにツラくても、苦しくても、生きて働いて国に税金を払いなさいと言う。
そんな相手の元へ、自らの足で出向こうとしているんだ。
体の中をギュッと掴まれて、爪を立てられて、捻られて、気力も精神力も生命力も、全てを搾り取られる気持ちになる。
それでも一歩一歩。
重い足取りで、目が回って、体が震えても、役所に向かって足を進める。
息もハアハアと荒げて、顔色もきっと真っ青だろう。
なんとか市役所の税務課にたどり着いた。
「あ、あ、あ、あの……。ぜ、税金を払いに来ました」
窓口近くに座っていたお姉さんに、蚊の鳴くような声で告げるけど、聞こえてはいないようだ。でも、目は合った。
冷ややかな視線をチラリと向けて、面倒くさそうにカウンターへやってきた。
「どのようなご用件ですか?」
そんな態度で対応されたら、もう目なんか合わせられない。俯いたままで声を絞り出す。
「あの……、滞っている税金の支払いを……」
「お名前と住所と電話番号を」
名前と住所を言い、「電話はありません」と言う。
「携帯は?」と問われるが、携帯も無いと言うと呆れたような顔をしていた。
「本日、全額お支払いいただけますか?」
「あの、母の名義で固定資産税もあると思うんです……」
PCをいじって確認した女性はピクリとすると、
「こちらもお支払いいただけるんですか!? ありがとうございます! ご本人以外の場合、払込書でないと支払いができないので、ご自宅宛てに払込書を郵送しますので、それを持参して改めて来ていただけますか?」
急に明るい声色になって、扱いも丁寧になった気がする。
でも、払えない時は「払えー、払えー」ってしつこいくせに、払おうとしたら出直してこいって、なんだそれ。
「今、持ってます。これで払います」
以前に届いていた払込書で一括支払いを終えると、もう興味は無いようだ。
「これからも、遅れないようにちゃんと支払いして下さいね。納税は国民の義務ですから」
それだけ言い放つと、さっさと自分の席に戻っていった。
結局、私の生活を心配していたようなふりも全部嘘だったんだね。
お金の出所を聞かれるかとか、ちょっと心配していた自分がバカみたいだ。
なんだか全然納得いかないけど、お金さえ払ってればこの人たちは私のことは放っといてくれるんだと思うと、少しは安心した。
その後、私はクタクタで、今日はもう帰って休もうと思っていたのに、税務課で話している間に情報はしっかり健康保険課に流れていたようで、すでに待機していた職員によってそちらの窓口にも連行された。
その年配の職員は、元バイト先の怖いおばさんが思い出されて怯えてしまった。
キツい扱いをされる訳ではなかったけど、その人は穏やかな笑顔と優しげな声音で、私の心に棘を刺す。
もう疲れ果てていた私は、鎧を纏う力も無く、誘導されるままに話していた。
それにいちいち「わかってる」とか「もう少しだけ頑張ろう」とか言われた。なんかいろいろとあなたを助ける方法があるような話をダラダラとされた。
バイトを辞めた時に遡って保険料を支払ったことで、あっさり保険証を手に入れることができた時点で、私の用件はそれで終わっているので何一つ頭に入ってこなかったけど。
もうへとへとで早くこの場から逃げ出したいという感情しかなかった。
きっと親切で言ってくれてるんだろうけど、私にとっては押し付けでしかなかった。
今の私に一歩の勇気を出させてくれたのは、他でもないギルドとちょう子さんだし、今まで何も助けてくれなかった役所に信頼は無い。
話の途中かもしれなかったけど、ペコリとおじぎして席を立った。
ズカズカと踏み込んできそうな、この人が怖い。ここにはもう来たくないな、と思った。
でも、これで一番嫌だった役所でのやることは終わった。
今日はもう何もできない。本当は病院にも清算しに行こうとか考えていたけど無理過ぎた。
少しずつ頑張ろう。
今日は帰ってまるとゴロゴロしよう。
逃げるように真っ直ぐ家に帰った。
お読みいただきありがとうございます。
うじうじした話なので一気に終わらせたく、長くなりましたが分割しませんでした。
気分を悪くしたらすみません。
この章は現実世界から拒否されて、現実世界を拒否していた主人公が少しだけ前向きになる話なので、気持ちが理解しがたい、うっとうしいと思う方もいると思います。
それでも前を向くためのきっかけなので書きたいです。
「被害妄想がひどい』とかでなく、感じ方は人それぞれと思っていただけるとありがたいです。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




