16 覚悟を決めよう
本日3話目です。
図太くも、いただいたお茶を飲みながら頭の中を整理する。
何故か我が家には地下室が隠されていた。
地下室の外は、知らない土地に繋がっている。
あり得ないけど、現実らしい。
私が狂ってないのなら。
何が起こっているのか、いくら考えても一向に答えなんか出ない。
でも、一つだけわかることがある。
全てを受け入れてあそこに行けば仕事がある。
このまま何もしないなら、まるを餓死させるか凍死させるかだ。
自分なんかいつ死んでもいいってずっと思っていたけど、遅くとも来月にはデッドラインが来るってなると、ひと月だけくらいなら、少しだけ生き足掻いてみようという気持ちにもなる。
まるが苦しい思いをするくらいなら、訳のわからない世界を受け入れる方が絶対いい。
――覚悟を決めよう。
◇
地下室の扉の前で気合を入れ直した私は、
「まる、行ってくるよ。少しだけお留守番お願いね」
と不思議な世界に足を踏み出した。
体調は何故か悪くない。
お金が手に入るかもしれないという希望が、体に活力を与えているのかもしれない。
それでも、一歩一歩近付く度に、期待の中に少しの不安が芽生えてくる。
あの自動ドアの向こうに、今日もちょう子さんは居てくれるのかと。
あれほど夢だと思いたがっていたくせに、「夢だったらどうしよう」という矛盾した思いに震えていた。
もう一度、一つの深呼吸とともに、勇気を奮い立たせてドアの前へ。
ウィーンと小さく音を立ててドアが開く。
前へ。進め。足。
「ななさん! 来てくれたんですね。ありがとうございます!」
はしゃぐように明るいちょう子さんの声が室内に響く。
気が抜けたようにカクンと膝から力が抜けて、その勢いで転がるように事務所の中へと入った。
「ああ! 大丈夫ですか? まだ体調が? 座って、座って」
慌てながらカウンターからちょう子さんが駆け出してくる。
「いえ……、いえ、体調は大丈夫です。ちょっと緊張して足が縺れただけです」
てへへと苦笑いして誤魔化すと、ホッとした顔をして微笑んでくれた。
「それなら良かったです。今日もお仕事の受注でいいですか? 一日経ってみての感想などもお聞きしたいですし、少し掛けてお話しましょう」
エントランスの一角に、パーティションで仕切られたテーブルと二つの椅子が置かれた面談ブースが作られていた。
そこに腰掛けるとちょう子さんがお茶を出してくれる。
「早速ですが、どうですか? 一日経ってみて、続けられそうですか?」
「はい。昨日のお仕事内容でしたら、無理せず続けられそうです」
「紹介して良かったです。ななさんにぴったりだと思ったんですよ。本日も同じお仕事で受注していただけますか? 時間的には午前中、または午後だけの半日や、お昼を挟んで夕方まで一日という受け方もできますが、どのような働き方を希望されますか?」
私はちょう子さんから、ここでの働き方のシステムを教えてもらうことにした。
お読みいただきありがとうございます。
ななは頑張ってみるようです。
そりゃそうだ、こんないい仕事手放すな! と感じた方は応援お願いします。
明日からはまた2話更新の予定です。
引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。