15 夢か現実か
本日2話目です。
自宅の居間。
布団を掛けてコタツになっているテーブルの上。
二枚の千円札を並べて、私は纏まるはずもない思考に耽っている。
確かに私の目の前には二千円が並んでいる。
これが無ければ全ては妄想、都合良すぎる夢だった、と考えるだろう。
でも、現実に私はお金を手にしている。
「どうなってるんだろう……」
◇
現金を手にしたことで浮かれた私は、まるを抱いてホクホクと事務所の自動ドアを抜け外に出た。
まるを追い掛けて走った一本道を逆に進み、突き当たりの扉を前にし、そこまできて、ふと、この不思議な場所への疑問が再び頭に蘇った。
辺りを見回す。
見知らぬ景色だ。
外の風景にしか見えない。
おそるおそる、目の前の扉を開き、中を覗く。
ぼんやりと薄暗い十メートル四方くらいの地下室のような部屋が広がり、奥には階段が見えている。
急にゾッと背筋が冷えて頭が冴えた。
急いで中に入り、扉の内側に付いていた閂のような鍵を閉める。
無言のまま階段へと進み、震える足で一段ずつ上がっていく。
上の穴から顔を出すと、そこはやはり自宅の居間、テレビの裏だった。
急激に襲いかかってくる違和感。
頭の中はパニック状態。
意味がわからない。理解できない。説明がつかない。
とりあえず、無かったことにしたい。
半べそかきながら、当初の予定通り穴にはマットを被せて見えなくし、テレビの位置を戻して、ベッドに飛び込んだ。
異常過ぎる事態は私の頭にストッパーを掛ける。
いつもそうだ。
抱えきれない問題に直面すると、自動防御が働くように、私の思考は停止する。
そうしないと弱い心を守れないから。
震えながら頭まで布団を被り、現実逃避して何も考えないように体を丸めてじっとしてると、疲れていたのかいつの間にか眠っていた。
◇
まるが枕元をカリカリと控えめに掘っては、「くうん」とか「わふっ」とか言ってる。
もう、朝か。ご飯の催促だね。
「変な夢、見たなあ……」
寝ぼけ眼で台所へ行き、まるのお皿にドッグフードとお水を入れてあげる。
フラフラと居間に向かって、テーブルの上にどさっと置いた請求書の山を見る。
「お金が無さ過ぎて、切羽詰まって訳わかんない都合の良い夢見ちゃったんだな……」
妙にリアルで、夢なのにしっかり覚えている。
手持ち無沙汰に請求書を開封していくと、電気代を払わないと明後日にも電気が止まるらしい。ガスは一週間後くらい。水道も月末には止まりそう。
財布の中身を確認。
小銭しか無いけど、数えたら千円ちょっとはあった。全財産。
電気代は督促の分だけでも三千円と少し。全然足りない。
電気が止まったら、そのうち凍死するかなぁ。冷蔵庫は元々空っぽだし、テレビも見れなくても仕方ないけど。あ、でも、ご飯が炊けない。食べ物、米しか無いのに。鍋で煮ればいいか。でも、すぐにガスと水道も止まるもんなぁ。
終わりだな……。
追い詰められ過ぎて、他人事みたいに冷静に考えていると、ふと、床に落ちている千円札に目がいく。
お金が落ちてる……?
それに、この包み。……もらったお茶だ。
え? 夢じゃなかった? え?
再び冷静さをなくした私は、しばし答えの出ない思考の渦に沈みこむ。
流され、かき回され、途絶え。
テーブルの上に並べた二千円とお茶の包みを前に呟いた。
「いったい、どうなってるんだろう……」
お読みいただきありがとうございます。
やっとおかしいことに気付いた様子。
弱虫ななはこの後どうするのでしょう。
続きは19時に投稿予約します。
引き続きお楽しみください。