11 ワンワンパラダイス
本日3話更新します。
1話目です。
案内された部屋は体育館のように広かった。
そこには、たぶん凄くお高いと思われる調度品が設えられており、ふかふかそうなソファや絨毯やベッドなどのそこかしこに、たくさんの、本当にたくさんの様々な種類の犬が寛いでいた。
「こちらのお部屋のワンちゃんたちは、穏やかな性格の子たちが多いので、初めてでもお相手しやすいかと思います。首の認識票にカードをかざしていただければ、お名前なども確認できます。お仕事のカウントも同時にされますので。できるだけ一匹一匹丁寧にお相手してあげて下さい。私は奥の部屋で仕事をしておりますので、何かありましたらあのインターフォンを押して連絡して下さい」
メイドさんは壁のインターフォンを指差すと、さっさと仕事に戻ってしまうようだった。
「あ、あの! こちらには何匹くらいのワンちゃんが?」
背中に向かって急いで問い掛けると、
「こちらのお部屋には百七十二匹いらっしゃいます。別のお部屋や、お屋敷にいらっしゃる皆様を合わせると、現在は千二十九匹でございます。私どもだけでは、ワンちゃんのお世話だけで手一杯なものですから、ななさんのような方にお願いしてお相手していただくのです」
せ、せん!?
そりゃあ、お世話だけでも大変だ。ご飯とトイレだけでも一日中かかるだろう。いったい何人でお世話してるのさ? ……あんぐり。
「数に圧倒されましたか? 怖がられる方もいますからね。一分程、少し満足する程度に撫でてあげていただければ良いですから。優しく触れ合ってあげて下さい。数をこなそうとして、余りにも雑に扱うのはやめて下さいよ。犬好きな方なら最初は楽しいでしょうけれど、皆さんすぐに撫で続けるのに飽きてしまわれます。できれば長く続けていただきたいので、無理をせずにほどほどに。少しくらいなら手を抜いてもいいですから、投げ出さないで欲しいわ!」
だんだんと語気が荒くなってきたメイドさんは、フンッと鼻で小さなため息を吐くと、チラリとこちらを一瞥し、さっさと部屋を出ていってしまった。
一人取り残された私は、ワンワンパラダイスを見渡す。
「世の中には本当にお金持ちの人っているんだ……」
お金持ちの道楽というか、好事家というか……。
すごーく豪華なお部屋だとは思うけど、こんなところに押し込められた犬たちは幸せなんだろうか……。
でも、それぞれのワンちゃんたちは、のんびりゴロゴロしたり、広い部屋の中をうろうろしたりと、好きに暮らしているみたい。毛艶も良いし、暗い顔をした子も見られない。
「みんな愛されてはいるんだろうな……」
じゃなきゃ、わざわざお金を掛けて、私みたいなバイトを雇ったりしないだろうし。
私なんかよりもよっぽど……
と思ってしまったことは胸の奥に引っ込めた。
お読みいただきありがとうございます。
犬だらけの部屋に圧倒されたなな。
お仕事はうまくいくのでしょうか。
続きは12時に投稿予約します。
引き続きお楽しみください。