第6話 「イヌマルの決意ッッッ!!!」
前回までのあらすじ! ボクシングと空手を巧みに織り交ぜて攻めてくるイヌマルに苦戦する桃太郎であったが、中国武術を用いて見事に勝利するのであった! やはり中国武術こそが最強なのである!
そして。戦いを終えて闘技場を後にした桃太郎は、泊まる場所を探して村を歩き回っていた。
時刻は夜の8時。空は夜の帳を下ろし、月が村を淡く照らす。
「やれやれ、こんな田舎の村じゃあまともな宿は期待できんか……ッ!」
彼がポツリとつぶやいたその時、背後から声がかけられた。
「待ちな、桃太郎」
「ンッ?」
眉間にしわを寄せながら振り返る桃太郎。そこにいたのは、気絶状態から目を覚ましたイヌマルであった。激しい闘いの後だというのに、ピンピンしている。
「おお、イヌマルではないかッ!? 体の調子はどうだッ!」
「おかげさまで絶好調だ。さっきのお前との闘い、久々に熱くなれたぜ」
そう言ってニヤリといたずら小僧のように笑い、腕を組むイヌマル。そして一拍置き、さらに続けた。
「泊まる場所を探してるのか? だったら、俺が今泊まってる宿に来いよ。一緒の部屋で寝れば宿賃が浮くだろ」
「おお、名案だなッ!」
そんなわけで桃太郎はイヌマルに連れられて、彼が泊まっている宿の部屋へとやってきた。
そこは6畳1間の小さな部屋で、隅に白い布団が敷かれているだけの、あまりにも簡素な部屋であった。まさに、寝るためだけの空間といった感じだ。
「悪いが、お前は畳の上で寝てくれ」
イヌマルはそう言いながら、「よっこらしょ」と布団の上であぐらをかいた。
「うむ、感謝するッ!」
腰に差していた日本刀を壁に立てかけ、畳の上でイヌマル同様にあぐらをかく桃太郎。そして2人は、見つめあう形で会話を始めた。
「なあ桃太郎……なんでお前さんはこの村にやってきたんだ?」
「実は俺は今、ここからずっと北に行ったところにある黒田城へと向かっているッ! その道中でここに寄った次第だッ!」
それを聞いたイヌマルが、驚いたように切れ長の目を細める。
「黒田城っていやぁ……この間鬼に襲われたあの城か。俺も何回か行ったことはあるが……なんだってあんな場所に行くんだい」
「鬼を討つためだッ!」
「……鬼を……討つ……?」
数秒の沈黙。するとイヌマルは、とうとうこらえきれず吹き出した。
「フハハッ、何言ってんだアンタ。お前さんが強いのはわかるが、それにしたって鬼だぜ? 直接見たことはないが、なんでも人間がどれだけ束になってもかなわない怪力を持つ妖怪らしいじゃねぇか。それを討つだなんてよぉ」
しかしそれを聞いても、口を真一文字に閉じ、真剣な表情でイヌマルをじっと見据える桃太郎。イヌマルは、彼の視線からただならぬ決意を感じた。
「……正気か?」
「ああッッッ!!! 俺は、鬼に苦しむ人々を救いたいッッッ!!!」
ゆっくりと頷く桃太郎。
すると──イヌマルは、驚くでもなく、バカにするでもなく、ただただ愉快そうに笑ったッ!
「アッハハハハハ!!! そうか! お前さん、鬼を討つのか!」
そして彼は、満面の笑みで続けるッッ!!
「おい桃太郎! 俺も連れていけ!」
それを聞いた桃太郎、唖然ッ!
「何故だッ!」
「俺は武者修行の旅の中でいろんな奴にあってきたが、お前みたいな無鉄砲で面白い奴、初めて見たぜ! お前の旅の行く末、俺に見届けさせろ!」
イヌマルのその言葉は、まさに純粋で、熱く、快活であったッッ!!
「……危険な旅だぞッ! それでもいいのかッ!」
「ああ! それに鬼を拳で倒したとくりゃあ、俺も有名な武人になれる! その名前を各地の闘技場に売り込めば、ファイトマネーもがっぽり手に入るってモンよ! こんなに心躍ることはねぇ!」
「……そうかッ! わかったッ!」
桃太郎、イヌマルの同行を快諾ッ!
「よっしゃ! そうと決まったら!」
そしてイヌマルは、不意に拳を前に突き出して、桃太郎の左胸にポン、と優しく当てたッッ!!
「とことん、お前さんについて行ってやる」
「……ああッッ!!」
こうして、桃太郎とイヌマルは、ともに鬼を討つ旅へと出ることになったッッッ!!!
桃太郎は鬼の恐慌に苦しむ人々を救うためッ!
イヌマルは鬼を倒して武人としての名を上げるためッ!
それぞれの利害が今、ここで一致したッッ!!
翌日。
村を出た桃太郎とイヌマルは、意気揚々と北へ向かった。村から目的地である黒田城まで、常人であれば歩いて丸一日はかかる道のりである。
──が、しかし。圧倒的な筋肉と持久力を持つ2人は、尋常ならざる速度でその道のりを踏破。
ものの3時間で黒田城の城下町へと到着した。
「ここが城下町か……ッ!」
「ずいぶんとひでぇもんだな……」
目の前に広がる光景を見て、眉間にしわを寄せる2人。そこには、鬼の襲撃のせいで荒れ果てた街の姿があった。
広々とした街を迷路状に埋め尽くすかのごとく建てられている木造づくりの長屋は、屋根や壁が所々倒壊している。最低限雨風はしのげるよう修復されてはいるが、それでも無残なものだ。
街を行き交う人々も皆うつろな目をしており、活気は一切見られない。
「この街も、鬼に襲われるまでは立派なところだったんだがなぁ……人も多くて、飯も旨くてよぉ……」
悲しげな表情で呟くイヌマル。隣の桃太郎は、遠くを指さして口を開いた。
「……あれが、黒田城かッ?」
彼の指し示す先にあったのは、全長100メートルはありそうな、巨大で立派なお城。
純白の城壁と緑色の瓦屋根は色鮮やかで、非常に立派である。
「ああ、そうだ。見たところ城に損害はないみてぇだな」
2019年現在、全国の城は観光地として知られている。だがしかし、本来城とは軍事的な防衛施設。鬼の襲撃にあっても一切陥落しなかったというのは、頷ける話なのだ。
「で、これからどうするよ桃太郎」
「そうだな……まずは、聞き込みからだッッ!!」
というわけで2人は、手分けして街の人々に話を聞くことにした。
「すみませんッッ!!」
早速桃太郎は、道行く1人の老婆に話しかける。
「はい?」
立ち止まり、元気のなさそうな声で返事をする老婆。
「あの、数か月前にここは鬼に襲われたそうですが……具体的に何があったかを、教えていただけませんかッッ???」
彼は真摯に尋ねた。対する老婆はあからさまに不機嫌そうな顔になったが、ゆっくりと話し始める。
「あれは、2か月ほど前の明け方のことだね。いきなり、数十の鬼が街を襲ったのさ。みんな必死に逃げ回ったけど、鬼は容赦なく攻撃してきた。住む家は壊され、食べ物は奪われ、もうめちゃくちゃさ。幸い黒田城には被害がなかったけど、城下町は御覧のありさまだよ」
彼女はそう言って、荒れ果てた街の光景を指さした。
「そうですか……つらい話をさせてしまい、申し訳ないッッ!!」
しっかりと頭を下げて謝る桃太郎。
「いいんだよ」
老婆は、そう言い残し去っていった。残された桃太郎は、改めて活気を失った城下町を眺めながら眉をひそめる。
(鬼め……人々の住む街を襲うとは、やはり許せんッッッ!!!)
それからも数人に聞き込みを続けた桃太郎は、きっかり1時間後にイヌマルと合流したッ!
「おう、どうだ桃太郎。何かわかったか?」
「まあ、鬼に襲われた時の状況は大体わかったッ! だが、その後奴らがどこへ向かったかは誰も知らなかったッッ!!」
「そうか。俺も同じだ」
早速行き詰まる桃太郎とイヌマルッッ!! 2人の鬼退治の旅に暗雲が立ち込めたその瞬間、若い女性の声が聞こえてきたッッ!!
「なあ、そこのお二人さん。鬼を探しているのか?」
「……んッッ???」
「なんだァ?」
声のした方を向く2人ッッ!!
そこにいたのは──大きな弓を担いだ、圧倒的美少女であったッッッ!!!
次回、「華麗なる弓使い、キジカゼッッッ!!!」に続くッッッ!!!