第4話 「拳闘士イヌマル登場ッッッ!!!」
前回までのあらすじ! 桃太郎はおじいさんから妖刀“紅蓮丸”を、おばあさんから“きびだんご”を受け取り、遂に鬼退治の旅に出た!
おじいさんとおばあさんに見送られて山の上にある家を出発した桃太郎は、そのまま山道を歩いて下山した。
ろくに整備もされていないため獣道が多く歩きにくい道のりだが、極限まで鍛え上げられた足腰を持つ桃太郎にとってはなんて事のない旅路である。
「む、あんなところに村が……ッ!」
無事に山を下りた桃太郎は、そこで小さな村を見つけた。
時刻は午後6時、日も暮れかけた夕方である。
「夜道を進むのは危険だ。今日はあの村で泊まるとしよう」
桃太郎はそう言って、村に入った。
「ふむ、小さな村だな……ッ!」
桃太郎は過去の記憶を持たない漢だが、ここが“田舎の農村である”ということは瞬時に理解できた。
質素な木造の平屋がずらりと立ち並び、遠くには柵で囲まれた畑が点在している。道行く人々は皆農夫の格好をしており、畑作業が終わったばかりなのか泥にまみれていた。
「さて、泊まるところはあるだろうかッッ???」
丸太のように太くてごつい両腕を組み、村の奥の方へと進んでいく桃太郎。
すると彼の耳に、人々の歓声が聞こえてきた。
「うおー!! いいぞーー!!」
「そこだー! やっちまえーー!!!」
「やるじゃねぇかイヌマルー!」
(なんだ……ッッ!?)
突如聞こえてきた、田舎の農村には似つかわしくない活気づいた歓声。奇妙に思った彼が声のしてきた方へ足を進めると、そこには人だまりができていた。
「失礼、ここではいったい何が行われているんだッ?」
桃太郎は人ごみに近づき、そこにいた1人の男に話しかける。
「ん? なんだお前さん、見ない顔だが……旅の者か?」
男は、桃太郎のことを不審にジロジロと見回しながら言った。
「ああ、そうだ」
コクリと頷く桃太郎。すると男は陽気に口を開き、
「ここは村の闘技場だ! 毎日ここで力を持て余した野郎どもが、“最強”を決めるために殴り合ってんのさ!」
と説明した。
「ほう、闘技場か……ッッ!!」
興味がわいた桃太郎は、人ごみをかき分けてさらに奥へと進んだ。
そして彼はついに──闘技場の全貌を目の当たりにしたッッ!!
そこにあったのは、腰ほどの高さの柵でぐるりと覆われた円形の空間ッ! 広さは半径3メートルほどで、その中央では群衆の歓声や熱気を浴びながら2人の男が闘っていたッッ!!
片方の男は、筋骨隆々で身長が2メートル以上はありそうな大男ッ!
対するもう片方の男は、純白の空手着に身を包んだ小柄な男ッ! 髪は短くボサボサで、色が茶色いことも相まってたわしのように見えるッ!
2人の体格差は圧倒的であり、だれがどう見ても大柄な男の方が有利ッ! だがしかし、小柄な男が腰に締めている帯の色は堂々たる黒であり、彼が実力者であることは間違いなさそうだッッ!!
(以前、おじいさんに聞いたことがある……黒帯は、空手の極意を会得した者のみが締めることを許された、“最強”の証だとッッ!!)
桃太郎は、農民たちに混ざりながら2人の闘いに注目したッ!
「おらおらぁ! くらいやがれぇ!」
大柄な方の男は、太くて長い両腕を豪快に振り回して相手に攻撃を仕掛けていくッ!
「……」
対する空手着の男は、声を上げることもなく冷静に足を動かし、大男の攻撃を紙一重でかわしたッ!
(見事な足さばきだッッッ!!!)
桃太郎、感嘆ッ! あの空手着の男が見せた軽やかなフットワークは、芸術的なまでに鮮やかッッ!!
「へっ、どうした! さっきから逃げてばっかじゃねぇか!」
余裕の笑みを浮かべ、相手を挑発する大男ッ! すると空手着の男は地面を蹴り、一瞬にして相手の懐へと潜り込んだッッ!!
「!?」
突然の奇襲に思わず面食らう大男ッ! その一瞬のスキを見逃さず、空手着の男は相手の腹に2発、3発と素早く打撃を加えたッ!
「ぐわぁぁー!」
連撃をまともにくらってしまった大男が、身もだえしながら地面に倒れるッ!
空手着の男が見せたこの一連の動きは……間違いない、空手というよりむしろ“ボクシング”ッッ!!
(※ボクシング……諸説あるが、この競技の発祥は古代エジプトであると言われており、事実ピラミッドの壁画にもボクシングをする男たちの絵が描かれている。その後さまざまな国で受け継がれてきたこの武術だが、日本には平安時代の頃に伝わっている。平安時代、とある貴族が詠んだ「球蹴りの 動きに似たり ボクシング 秋の夜空に 響くジャブかな」という短歌は当然読者の皆様もご存じのはずだ──世界童話出版「平安ボクシング武闘伝」より抜粋)
「な、なんと鮮やかな動きなんだッッ!!」
空手着の男が、自分よりも一回り以上大きい敵を一瞬にして倒してしまったッ! その一部始終を目撃した桃太郎と観客の農民たちは、一斉に沸いたッッ!!
「うおーーー!!!」
「すげえぜイヌマルーーー!!!」
「あいつ、ここに来てから負けなしじゃねぇか!」
(あの男、イヌマルというのか……俺も、あいつと闘ってみたいッッ!!)
そして次の瞬間ッ! いてもたってもいられなくなった桃太郎は、柵を飛び越えて闘技場の中に入ったッ!
「ぁん?」
突如乱入してきた桃太郎を見た彼──イヌマルは、その切れ長の目をギロリと光らせるッ!
「なんだぁ? てめぇ……」
「俺の名は桃太郎ッ! 俺と闘えッッ!!」
腰に手を当て、仁王の形相で叫ぶ桃太郎ッ!
周りの観客たちは、少しどよめきながらも色めき立って煽ったッ!
「な、なんかよくわからねぇが……」
「面白くなってきやがったぜ! いいじゃねぇか!」
「やっちまえイヌマルー! ぶっ飛ばしてやれーー!!」
興奮を抑えきれない観客たちの声を聞いたイヌマルは、やれやれといった感じで首を振りつつもニヤリと笑うッッ!!
「……で、あんたつえぇのか?」
「ああッ! 強いぞッッ!!」
すると桃太郎はおもむろに、闘技場の隅で気絶したまま横たわる大男の体を、力任せに持ち上げたッッッ!!!
「!?」
驚愕するイヌマルッ! 大男の体重は、間違いなく200キロはあるはずだッッ!!
さらに桃太郎は、その圧倒的な膂力を用いて観客の方に大男を投げ飛ばしたッッ!!
「うおぉ!?」
「なんだなんだ!?」
「みんな、よけろ!」
慌ててよける観客たち! そうやってできた空間に、気絶した大男がどさりと倒れこんだッ!
「なるほど……面白れぇ、パワーは十分ってわけか……あんた、名前は?」
「俺の名は桃太郎ッ!」
「ふん、変わった名だな。俺と闘うのは構わんが、武器はナシだぜ」
「そうかッッ!!」
すると桃太郎は、腰に差していた日本刀──紅蓮丸を鞘ごと取りはずし、地面にポンと放り捨てたッ!
「じゃ、やるかッッッ!!!」
「望むところだ……!」
そして2人は、ゆっくりと臨戦態勢に入るッッ!!
次回、「激突、桃太郎vsイヌマルッッッ!!!」に続くッッッ!!!