第3話 「いざ、鬼退治の旅へッッッ!!!」
前回までのあらすじ! 巨大な桃の中から現れた青年は、まさかの記憶喪失であった! おじいさんとおばあさんは彼に“桃太郎”という名を与え、剣術と中国武術を教え込む! そんなある日、桃太郎は鍛錬のために向かった森で盗賊に襲われるのであった! 果たして桃太郎の運命やいかに!
「来い……一撃でけりをつけてやる……ッッッ!!!」
相手を威嚇するかのように両腕を前に突き出した“白狼の構え”をとった状態で、力強く言い放つ桃太郎ッ!
彼の熱き叫びが、鬱蒼とした森にけたたましく響き渡ったッッ!!
「ふん、変わった武術を使うようだが……そんなもん、俺に言わせりゃこけおどしだぜ!」
小ぶりの斧を握りしめた盗賊の男は、そう言って勢いよく走り出すッ!
その走りはさすが盗賊といった機敏さであり、常人ならば目で追うことすら難しいであろうッ!
しかし、読者の皆様ならば既にお分かりのはず! 桃太郎は常人ではないッ!
「……ッ!」
斧を振り上げながら猛烈な速度で迫ってくる盗賊に対し、一切臆することなく待ち受ける桃太郎ッ!
そして、敵が射程圏内に入ってきた瞬間……彼の拳が、閃いたッッ!!
「覇ッッッッッ!!!!!」
“閃いた”というのは、決して比喩ではないッ! 彼の拳は光よりも速いスピードで動き、斧を勢いよく振り下ろしてきた相手の顎に、あまりにも強烈なカウンターパンチを放ったのであるッッ!!
ガツンッッッ!!!
鈍い打撃音とともに、盗賊の顎は砕かれたッ! さらにそのパワーによって、勢いよく空中へと殴り飛ばされるッ!
「なん……だと……!?」
一瞬何が起こったのか分からず、盗賊は宙を舞いながら驚愕したッ!
「あきらめろッ! 貴様ごときに俺の拳は捉えきれんッッ!!」
仁王の形相で言い放つ桃太郎ッ! そして完全に気を失った盗賊は、そのままドサリと地面に落下したッッ!!
退治した3人の盗賊をまとめてロープで締め上げた桃太郎は、その人間離れした膂力で彼らを持ち上げ、そのまま家へと帰宅した。
「な……何があったんじゃ、桃太郎よ!?」
桃太郎の帰宅を家で出迎えたおじいさんが、開いた口が塞がらないといった様子でそう呟く。
「あらまあ、ずいぶんと派手に暴れたわね」
隣のおばあさんは、少し愉快そうに笑った。
「まあ、かくかくしかじかでな……ッ!」
襲い掛かってきた盗賊3人を木刀と徒手空拳によって鮮やかに倒した、その一連の流れを説明する桃太郎。
それを黙って聞いていたおじいさんは、桃太郎が話し終わるのと同時に「う~ん……」と呻きながら腕を組み、隣のおばあさんに向かって
「ばあさんや。この間話した件じゃが……」
と言った。
対するおばあさんは、コクリと頷いて
「そうですね。桃太郎は、適任かもしれませんね」
と答える。
「……ッ? どうしたのです、2人ともッ!」
何の話かさっぱり分からない桃太郎は、眉をひそめながら首を傾げた。
「なあ桃太郎よ。“鬼”と、戦ってみる気はないか?」
おじいさんの口から突如として飛び出してきた、鬼という単語。意外な展開に驚きつつも、桃太郎は冷静に口を開いた。
「鬼……以前おじいさんが言っていた、最近街を荒らして人々を苦しめているという、凶暴な妖怪のことですか?」
「そうじゃ。類稀なる武の素質を持ったお主なら、鬼を討つことも不可能ではなかろう」
真剣な表情で言うおじいさん。するとおばあさんも、彼に同意するようにうんうんと頷いた。
「桃太郎。あなたの力があれば、鬼の被害に苦しむ人々を救うことができるはずよ。旅に出てみない?」
「旅、ですか……ッ!」
逡巡する桃太郎。過去の記憶を一切持たぬ彼にとって、おじいさんとおばあさんはこの世でたった2人だけの家族だ。
巨大な桃の中から出てきた素性の知れない筋骨隆々の男に食事と住む場所を与え、さらには剣術と拳法まで教えてくれた。
そんな優しい2人の元を離れるのは、桃太郎にとって非常につらいことである。しかし同時に、桃太郎の中には“人一倍強い正義感”もあった。
実のところ、数日前に初めておじいさんに鬼のことを聞いた時から、この存在を討ち、人々を救いたいと考えていたのだ。
だから──彼が1つの結論にたどり着くまでに、そう長く時間はかからなかった。
「……行きましょうッッッ!!! 鬼退治の旅にッッッ!!!」
鬼のような形相で鬼退治の旅への出立を決意する桃太郎ッッ!!
彼のその宣言を聞いたおじいさんとおばあさんは、満足そうな顔で顔をほころばせたッッ!!
「うむ! お前さんならそう言うと思っておった!」
「そうと決まったら、早速旅の支度をしなきゃね!」
それからきっかり1時間後ッ!
桃太郎は、家の外で仁王立ちしていたッ!
すると屋敷の扉が開き、中からおじいさんとおばあさんが餞別の品を持っていそいそと登場ッッ!!
「待たせたな、桃太郎よ」
「あなたの旅を助ける道具を持ってきたわ」
「おお……ありがとうッ! おじいさん、おばあさんッッ!!」
腰を90度まで曲げて丁寧にお辞儀をする桃太郎ッ! 美しき礼儀作法もまた立派な武人のたしなみであるッ!
「まずはわしから渡そう! ほれ!」
おじいさんはそう言って、鞘に納められた一本の刀を差しだしたッ!
「これは……?」
「この刀の名は“紅蓮丸”! あの日……ばあさんが巨大な桃を持ってきた日に、その桃を斬ろうとして使ったのがこの刀じゃ! まあ、中にいたお前さんが硬すぎて斬れなかったんじゃがの! ガッハッハ!!」
豪快に笑うおじいさん!
桃太郎はそんな彼から紅蓮丸を受け取り、刀を鞘から抜き放ったッ! 名前の由来にもなっている血のように赤い刀身が太陽の光を反射して、ギラギラと妖しくきらめくッ!
「おお、なんと面妖な刀なんだ……ッ! ありがとうおじいさん、ありがたく受け取るッッ!!」
桃太郎はそう言って刀を鞘に納め、腰に差したッ!
「それじゃ、次は私の番ね。さあ、これを」
するとおばあさんが、赤子の頭ほどの大きさはある茶色い巾着袋を手渡してくるッ!
「これは……ッ?」
「その巾着袋の中には、団子が入っているのよ!」
おばあさんは優しく微笑んだッ!
「昔、中国で武術の修業をしていた時に漢方薬学についても勉強したの。その知識を活かして作った団子がそれよ。特殊な漢方薬を練りこんであるから、食べれば一瞬で体を回復させることができるわ。旅を続ける中で、痛みに耐えきれなくなったら食べなさい」
中国数千年の歴史が、その長きに渡る時の中で作り上げたものは、決して武術だけではないッ! 漢方を用いた薬学もまた、中国古来より伝わる高度な術であるッ!
「流石はおばあさんッ! この団子も、ありがたく受け取るぞッッ!!」
おじいさんからは日本刀を、おばあさんからは団子の入った巾着袋を受け取った桃太郎ッ!
さあ、これで旅に出る準備は整ったッッ!!
「いいかい桃太郎。まずはこの山を下りて、北にある黒田城という大きな城へと向かいなさい。そこの城下町が、数か月前に鬼の襲撃を受け、壊滅状態となったのじゃ。幸いまだ人は住み着いておるらしいから、そこで話を聞けば何か情報が得られるじゃろう」
腰に手を当て、威厳ある形相で言うおじいさんッ! その風格は、まさに剣聖と呼ぶにふさわしいッ!
すると隣のおばあさんも口を開き、
「桃太郎。くれぐれも体には気を付けるんだよ」
と言ったッ!
もしもおじいさんとおばあさんがもっと若く、長旅にも耐えうる健康な肉体を持っていたならば、きっとこの2人が鬼を討っていただろうッッ!!
しかし老衰によってそれが不可能となってしまった今ッ! 人類の希望は、この桃太郎に託されたッッ!!
「では……行ってくるッッ!!」
“正義”と言う名の熱い感情を胸の奥でマグマのように煮えたぎらせながら、桃太郎は力強く叫んだッッ!!
「おう、行ってこい!」
「行ってらっしゃい!」
そして彼はッ! おじいさんとおばあさんに見送られながらッッ!!
鬼退治の旅へと出発したッッッ!!!
次回、「拳闘士イヌマル登場ッッッ!!!」に続くッッッ!!!