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第2話 「俺が桃太郎だッッッ!!!」

 前回までのあらすじ! 川上から流れてきた巨大な桃を受け止めて、家まで持ち帰ったおばあさん! おじいさんは早速日本刀で桃を両断しようとするが、中に入っていた硬い“何か”のせいで刀が止められてしまう! 驚くべきことに、桃の中にいた“何か”の正体は──裸の男であった!











 おじいさんとおばあさんは、慌てて桃の中にいた男性を介抱した。


 裸だったのでまずは着物を着せ、寝室へ運び、布団に寝せる。


「……息はあるようですね」


 男性の腕を握って脈拍を確認し、ほっと安心するおばあさん。


 それを聞いたおじいさんは、


「そうか……それはよかった」


と言った。そして改めて、布団でぐっすりと眠る男をまじまじと見つめる。


 歳は20ぐらいだろうか。あどけなさの残る整った顔立ちで、女性のように艶やかな長い黒髪が生えている。


 しかし最も特徴的なのは──やはり、その“肉体”だろう。身長はなんと2メートル。日本人の平均身長を大きく逸脱した圧巻のサイズである。


 さらに鍛え上げられた全身の筋肉は見事なもので、長年刀を振ってきたおじいさんの目から見ても、この青年が只者でないことは明らかだ。


 腹筋は彫刻のように美しいシックスパック。大胸筋の豪快なふくらみはまるで巨大なエベレスト。そして上腕二頭筋にいたってはもはや“岩石”と形容する他にない、異常なまでの大きさと硬さ。


「それにしても……この青年の体、わしの刀を通さんかったぞ……」


 おじいさんは、先ほど桃を両断しようとして失敗したことを思い出しながらポツリと呟いた。


「ええ……それに、この子は傷一つ負っていません」


「そこなんじゃ。わしが刀を振って傷をつけられんかったのは、若いころにばあさんと戦った時以来じゃよ」


「あらまあ、よしてくださいよ。そんな昔の話は」


 少し照れ臭そうに笑うおばあさん。今はこんなにもしおらしい彼女だが、若い頃は卓越した中国武術の能力を武器に日本各地で暴れる、有名な戦闘狂であった。


 と、その時。


「……ッ!」


 布団の上で横になっていた青年が、突然パチリと目を覚ました。


「おお、起きたか!」


「ここは……ッ!」


 青年は、辺りをせわしなく見回しながらゆっくりと起き上がる。


「あなたはね、奇妙なことに桃の中に入っていたんですよ。一体何があったか、教えてくれないかしら? まず、あなたのお名前は?」


 優しい口調で問いかけるおばあさん。


 すると、青年は苦しそうに頭を押さえながらこう答えた。


「わからない……俺は、誰なんだ……ッ!」


 それを聞いたおじいさんが、険しい表情で口を開く。


「“わからない”? お前さん、全く何も覚えとらんのか?」


「あ、ああ……ッ! 本当に、何もわからないんだ……ッ! ここはどこだッッ!! 俺は誰だッッッ!!!」











 驚くべきことにッ! 巨大な桃から出てきた青年は、過去の記憶のすべてを失っていたッッ!!


 とどのつまり、彼は記憶喪失ッッ!! 圧倒的記憶喪失ッッッ!!!


 そこでおじいさんとおばあさんは、当分の間は彼を自分たちのところで住まわせることにッ!


 さらに、この青年のことを何と呼んでいいかわからなかったので、彼に名前を付けたッ!


 その名は“桃太郎”ッッッ!!! 桃から生まれたがゆえに、桃太郎であるッッッ!!!


 そして青年の──桃太郎の鍛え上げられた肉体に目を付けたおじいさんとおばあさんは、彼に自分たちが持つあらゆる武術の心得を教えたッ!


 おじいさんは剣術をッ! おばあさんは中国拳法をッ!


 対する桃太郎は2人の教えを驚異的なスピードで吸収し、メキメキと力をつけていったッ!


 その様はさながら、乾いたスポンジが水を吸うかの如くッッ!!


 恐るべし、桃太郎ッッッ!!!











 それから、あっという間に3か月が過ぎた。


 桃色の着物に袖を通し、長い黒髪を後ろでポニーテールのように結んだ桃太郎は、いつものように木刀を握りしめて家を飛び出す。


「おじいさんッ! おばあさんッ! 行ってきますッッ!!」


「ああ、頑張ってな!」


「行ってらっしゃい!」


 すっかり今の生活に慣れた桃太郎は、2人に見送られながら近所の森に向かった。


「よし……やるかッ!」


 人気(ひとけ)の全くない森についた彼は、早速木刀を握りしめて素振りを始める。


 これこそが彼の日課。日々の絶え間ない鍛錬こそが、武の基本である。


「フンッ! フンッッ!! フンッッッ!!!」


 目にもとまらぬ早業で素振りを繰り返す桃太郎。


 太陽の光が優しく注ぎ込む穏やかな森に、彼の素振りの豪快な音が響き渡った。


 ──その瞬間ッ!


 近くの草むらがガサゴソとうごめいたッ!


「ムッ!?」


 桃太郎はすかさず素振りする手を止め、草むらの方に目を向けるッ!


 すると突然、その草むらから3人の男が飛び出してきたッッッ!!!


「誰だ貴様らはッ!」


 手にした木刀を油断なく構え、仁王の形相で叫んだッ!


「やかましい! 俺たちが誰かなんて、てめぇには関係ねぇ!」


「そうだそうだ!」


「とっとと金目の物をおいて失せろ!」


 そう口々に言う男たちは皆薄汚い恰好をしており、明らかに無法者といった雰囲気であるッッ!!


「なるほどな、盗賊か……ッ!」


 状況を完全に理解した桃太郎は、両足を広げ、腰を低く落とし、臨戦態勢をとったッ!


 その身にまとうはまさしく戦国武将の威圧感ッ! それを目の当たりにした盗賊たちは、思わず冷や汗をかきながらつばを飲み込んだッ!


「な、なぁ兄貴……こいつちょっと、ヤバイんじゃねぇのか?」


「そうだよ兄貴! ここは逃げよう!」


「う、うるせぇ! こっちは3人なんだ! びびってねぇで行くぞ!」


 リーダー格の男がそう叫ぶと、両隣の子分たちは懐から小刀を取り出したッ!


「よし、行くぞッッ!!」


 先に動いたのは桃太郎ッッッ!!!


 渾身の脚力で地面を蹴り、一番右にいた男の眼前まで一気に迫るッ!


「ひぃっ!?」


 慌てふためく盗賊ッ! 桃太郎はそのまま木刀を前に突き出し、敵のみぞおちへ叩き込んだッッ!!






 ドスッッッ!!!






 木刀の一撃とは思えぬほど鈍い音が鳴り響き、男は一瞬で気絶ッ! その場で倒れたッ!


「遅いな……ッ!」


 桃太郎は余裕の表情を浮かべるッ!


「くっそぉぉ!」


 するともう1人の盗賊が、小刀を振り上げて襲い掛かってきたッ!


 しかしッッ!!


 桃太郎にしてみれば、その盗賊の動きなどもはや鈍重なスローモーションに等しいッッッ!!!


「ふんッッッッッ!!!!!」


 渾身の力で木刀を横なぎする桃太郎ッ! その斬撃は的確に迫りくる相手の脇腹をとらえ、強烈な勢いで体を吹き飛ばしたッッ!!


「ぐわぁぁぁーーー!!!」


 吹き飛ばされた盗賊は、そのまま後方の大木に激突ッ! 意識を失い地面にドサリと倒れ込んだッ!


「な、なんてこった……! 強すぎる……!」


 あっという間に、残された盗賊はリーダー格の男1人にッ!


「く、くそっ! やってやろうじゃねぇか!」


 そう言うと男は、懐から小ぶりの斧を取り出したッ! リーチこそ短いが、破壊力は抜群の優れた武器であるッ!


 対する桃太郎はというと、何故か手に持っていた木刀を地面に放り捨てたッ!


「あぁ……? 舐めてんのか?」


「さあ、どうだろうな」


 そう言い返して、おもむろに特殊な“構え”をとる桃太郎ッ!


 あの構えは、古代中国より伝わる最強の構え、その名も“白狼の構え”ではないかッッ!!


(※白狼の構え……中国では古来より、“様々な獣の動きを模倣する”という武術が盛んであった。そんな中、中国にて“異端児”と恐れられた1人のグラップラーが編み出したのがこの白狼の構えである。両腕を前に突き出し、飢えたオオカミが大口を開けるかの如く敵を威嚇するこの構えは、攻・防ともに優れているだけでなく一撃必殺のカウンターにもつなげやすい──世界童話出版「秘伝・異端児の拳」より抜粋)


 桃太郎という男──いや“漢”にとって、木刀を手放すことは決して慢心やハンデにはならないッッ!!


 なぜならッ! おばあさんから中国拳法のイロハを叩きこまれた彼にとっては、“素手”もまた立派な“武器”なのだからッッ!!


「来い……一撃でけりをつけてやる……ッッッ!!!」


 桃太郎は、力強く構えたままそう言い放ったッ!


 次回、「いざ、鬼退治の旅へッッッ!!!」に続くッッッ!!!

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