第1話 「桃太郎爆誕ッッッ!!!」
時は1680年、日本。
徳川家がおさめるこの江戸時代はまさに平和な世であり、大規模な争いや飢饉もなく、人々は質素ながらも穏やかに日々暮らしていた。
しかし突如、その安寧を脅かす存在が現れた。
その名は“鬼”。鋭い角と赤い肌を持ち、人間をはるかに凌駕する凄まじい怪力を持った妖怪である。
そんな鬼の大群が村を襲い、人々の生活を破壊し始めた。
幕府も何度か討伐隊を編成して鬼退治に向かわせたが、結果は惨敗。
ただの一度として、まともな成果をあげられてはいなかった。
──桃太郎の伝説は、ここから始まる。
ある日のことッ!
山奥にある屋敷に、おじいさんとおばあさんが住んでいたッ!
ここで読者の皆様に説明しておこうッ! このおじいさんとおばあさんは、単なる非力な老夫婦ではないッ!
おじいさんは名のある剣の使い手で、その腕前は日本一ッ! 日本刀一つでどんなものも切り裂くと言われる、まさに“剣聖”であるッッ!!
対するおばあさんも負けてはいないッ! 彼女は若かりし頃に中国へ渡り、そこで中国拳法をマスターッ! 自分の数倍大きい巨漢の男性でも一瞬で屠れるほどの技を使う、至高のグラップラーとなったのだッッ!!
そんな2人は今、山奥の村で隠居生活をエンジョイ中ッ! 無論、日々の鍛錬はこの年になっても欠かすことはないッ!
というわけで本日も、おじいさんは森へ刀の素振りをしに、おばあさんは川へ筋トレをしに行ったッッ!!
「991……! 992……! 993……!」
河原の上で腕立て伏せをするおばあさんッ! その動きは老人とは思えないほど俊敏で、御年72歳であるという事実を一瞬にして忘れさせてしまうッ!
「……これで、1000……!」
そして見事1000回の腕立て伏せを終えたおばあさんはゆっくりと立ち上がり、すぐそばにある川へ向かったッ!
「ふう、やれやれ……」
ちゃぷちゃぷと穏やかに流れる川に両手を浸し、冷水で手の汚れを洗い流すッ!
「昔よりも、腕立ての速度が遅くなっちまったねぇ……私もいよいよ歳なのかしら……」
眉間にしわを寄せながら呟くおばあさんッ! こうして見ると彼女は普通の老人であり、先ほどの機敏な腕立て伏せが嘘のようだッ!
小柄な体型であることも相まって、彼女が中国武術の達人であるなどとは誰も信じないであろうッッ!!
しかし数秒後ッ! 彼女の武術の能力が発揮される瞬間が訪れるッ!
「……ん!?」
なんと、驚くべきことにッ! 川上から、桃が1つどんぶらこと流れてきたのであるッ!
しかもそれは普通の桃ではないッ! 全長3メートルはある、あまりにも巨大な桃だったのだッッ!!
どんぶらこッッッ!!! 圧倒的どんぶらこッッッッッ!!!!!
「な、なんてこったい……」
思わず目を疑うおばあさんッ! これほどまでに巨大な桃、普通の老人であればなすすべもないが──。
しかし、彼女は違うッ!
中国武術の神髄を会得している彼女にとって、“川上から流れてくる、自分の身長の倍はある大きさの桃を受け止める”などは……もはや、造作もないことなのだッッッ!!!
「久しぶりに、やりましょうかねぇ」
おばあさんはそう言って、堂々と川に入ったッ! 川の水深、1メートルッ! 腰まで浸かる深い川だッッ!!
そこで彼女はゆっくりと両足を開き、腰を低く落とすッ! 目の前には、どんぶらこと迫ってくる巨大な桃ッッ!!
受け止められるのかッ!? まさか、そんなことは不可能だッッ!!
読者の皆様がそう考えてしまうのも仕方のないことだが、見よッ!
「──ふんッッッ!!!」
両手を大きく広げた彼女が、見事に桃を受け止めたではないかッ!
まさに神業ッ! 決して力任せに受け止めるのではなく、重力のかかるポイント、力の向き、関節の使い方……そう言った様々な要素を使いこなすことで、この不可能を可能にしてしまったのだッ!
“柔よく剛を制す”とはまさにこのことであるッ!
「やれやれ……こんなに大きな桃、食べきれるかしら」
巨大な桃を受け止めながら、おばあさんは楽しそうにほほ笑むのであったッッ!!
おばあさんがその桃を家まで持ち帰ったのは、きっかり1時間後のことであったッ!
「な、なんとこれは……!」
一足先に帰宅していたおじいさんは、おばあさんが持ち帰った巨大な桃を見て唖然ッ! 圧倒的唖然ッッ!!
「驚いたかい? 川を流れていたのを見つけて、ここまで転がしてきたんだよ」
おばあさんはそう言って、桃をポン、と優しく叩いたッ!
「いやはや、なんとも奇妙な光景じゃな……わしも長いこと生きてきたが、ここまで大きな桃を見るのは生れてはじめてじゃ」
開いた口が塞がらないといった様子で呟くおじいさん!
対するおばあさんはニヤリと笑い、
「早速、喰らいましょう」
と言ったッ!
「うむ、そうじゃな!」
おじいさんは力強く頷くと、家の奥の部屋から一本の刀を持ってきたッ!
ここで読者の皆様に説明しておこう! この刀の名は“紅蓮丸”ッ! おじいさんが持つ数々の刀の中でも特に名刀とうたわれる一本であり、その刀身は鮮血のように赤いッ!
切れ味・強度ともに抜群であるが誰が打ったものなのか判明しておらず、妖刀の類ではないかとも噂されているッ!
「では……いくぞ!」
「ええ!」
するとおじいさんは、慣れた手つきで鞘から刀を引き抜いたッ! 紅蓮丸特有の赤い刀身が、光を反射して妖しくきらめくッッ!!
「……!」
口を真一文字に結び、刀を振り上げるおじいさんッ!
そしてッッッ!!!
「きえぇぇぇいぃッッッッッ!!!!!」
気合一閃ッ!
紅蓮丸は桃に向かって一直線に振り下ろされたッ!
そのまま斬撃は桃を真っ二つにするかに思われたが──しかし次の瞬間ッ!
ガキンッッッッッ!!!!!
なんとッ! 驚くべきことにッッ!!
桃を切っている途中で、刃が止まったッッ!!
「!?」
この時、おじいさんの脳裏によぎったイメージは──“岩”ッ! 感触からして桃の中に詰まっているのは岩であり、それによって刀が止められたとしか考えられないッ!
いやだが、そんなはずはないッ! 桃の中に岩が詰まっているなど、前代未聞ッ!
仮に岩が詰まっていたとしても、おじいさんの腕であれば両断できるはずだッ!
(この強度、桃の種なんぞでは決してない……なんなのだこれは!?)
「ど、どうしたんですかおじいさん!?」
ただならぬ様子のおじいさんを見て、思わず首をかしげるおばあさん!
「わ、分からん……この桃の中に、何やら“とてつもなくかたい物”があるのは確かなんじゃが……!」
彼は桃から刀を引き抜き、眉間にしわを寄せて言ったッ!
「な、なんですって!?」
そして数分後ッ!
周りの桃の果肉を取り除いて中身を確認した2人が見たのは、岩よりも奇妙なものであったッッ!!
「こ、これは……男か?」
「え、ええ……そのようですが……」
巨大な桃の中では、筋骨隆々の、裸の成人男性が眠っていた──ッッッ!!!
次回、「俺が桃太郎だッッッ!!!」に続くッッッ!!!