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シンクロディピティ  作者: 恵善
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【セレンディピティ】 偶然を察する能力は幸運への道標

「なあ……待ってたんだろぉ? 誰か来るの……まだ爆発が起きない。それは、きっと、俺たちが踏み込んだ事で躊躇したあんたの意思だからだ!」


 128歳の老人。加藤達哉。人類の飽和した時代には世界的にも例が少ない年齢。その飽和した時代から130年。monstrous時代を全て生きてきた人間。

 世界的に寿命が格段に伸びた理由。それを語るものは少ない。

 憤りも混じる刈谷の口調。下手な動きや行動をさせないように、目を光らせているという表現。

 老人は、ゆっくりと、そして体から振り絞るように語り出す。


「刈谷……くん か。やっと か……それはな……フ フェ ム の道が 変わったん だょ」


「フェム? なんの事だ!? ……やっと? あの……俺たちが来た理由わかるだろ? あんたは解約を希望した。けれど解約してから半年は管理する規約があるから来てみた。そしたらこの館の有様……どうして今更自殺するんだ? 酢いも甘いも知った世界だろ?」


「全 てぇ はフェ ムにぃ 包まれたん だょ……人 間の存在にぃ よって なぁ……我 々 の 生き残りは 自然にぃ 逆らった。 この星は 世界中の能力者に 囲まれて きっと 星全体の 生物 が進化したん だょ……フェムは 道 を 選んだ。 人が多過ぎると 判断した 結果が今の世界 だが 減ってはいけ ない数の 分岐点まで きた。 この星に とって 神々の 存在は 人間を減らさない事を 選ぶだろう……いや 選んだ」


 刈谷は町田に状況を細かく話す最中、町田は口を挟む。


     ◆◆◆


「人が減らない? そう言ったのか?」


「はい、そんな訳のわからない現象にぃ、俺は報告書に書きようがないんすよぉ! ずっと加藤はおかしなことばかり言ってました」


「聞かせてくれ……お前が感じたものをそのまま」


「はぃ」


     ◆◆◆


 刈谷は加藤達哉のその言葉の意味を理解しようと聴き入る。


「わしの フェムは 弱っている。 けれ ど まだ人 に染まる。 純粋に 染まる と また 130年 前の二の舞だ……わしら 能力者は それ を 理解して おる……わし に 人を近付けない 為に お前ら と 契約をした。 けれど 人が減らなくなる 今 わしら 先人 は 早く消えなければ なら ない」


「馬鹿らしい……考え過ぎだよあんた。人が死ねない世界!? は!! ならそのありえねえ能力、逆に振り撒いてしまえばいいだろ!?」


「monstr ous…また 起こす気かい? 人が 居なく なると 何が 起きる? 動物の世界。 2億年前の再来。 この能力は 能力を 殺さない為の 能力。 この 世の生 物に 意思は ない……能力 を帯びた 動物の 食欲は この 星にとって の 脅威だ……恐竜と なる。恐竜は 隕石が原 因で絶滅した んじゃ ない。 一部は 生き残 り 産毛が生え 生き残る 形と 進化 したが ある場 所から影 響を受けた 重 力 に 逆らえなく てな……ほと んど その時代で絶滅 したん だよ……その 時代より 脅威だ」


 加藤が語る時代背景。

 謎のフェムという能力。

 死を選ばされた人類。死を選べなくなった人類。

 人に染まり、動物に染まる能力。

 恐竜時代より脅威と呼ばれる時代の再来。

 何かの影響を受けた重力変化。

 全てがつかみどころのない物語のような語りべ。

 同じような話をする先人も刈谷が生きてきた中で耳にしていた。ほとんどが100歳以上の話。真に受けられなかった。

 刈谷にとっても、ここまで具体的に話す者もいなかった。未知に感じられる能力の存在。あまりに世迷言。そう判断された先人は、人間関係の疎遠を受けた。

 真実は、時代を生きた者にしかわからない。見ていない時代の世代は、想像の世界に聞こえる話を大抵、鼻で笑った。


「加藤さん……あんたさぁ、その能力やらが暴れないようにひっそり暮らしたらいいだろう! 死なない世界!? ハハ!! 好都合じゃないかぁ! 死なないんだからよ! 能力が染まろうが、染まらないが、死なないんだからさ! 能力自体おかしな話なんだよ! ハハハハ!!」


「わかって なぃ。 何も……君は 何度死んだ?」


「し、死んだ!?」


「わしは 君にここ で 会うのは 12 回目だろう か」


「は? なんだ……それ、どういう意味だ!」


「何度試みても 寿命という 自然の摂理で ないと 死ねないんだょ。 自分で 死ん だわけで はない がな。意識がある人間 ない人間がおる。 わしは今日 50回 くらい 体験 した かのう。 同じ話を 何度 も 何度も しとるんだよ。いや、自覚的には そんな気がする。 何も 起きては いない よう に 感じる からなぁ。 この地下に 来て から苦し みは感じ なく なった」


 反応に悩む刈谷。一度死を体験した刈谷にとって、完全に否定できない内容。それを聞きたい。

 加藤達哉はゆっくり立ち上がる。そして目に光が見えなかった眼差しに力が入る。体に付着させた電極シールをはがし、心電図の波が線となる。


「おいおい! 無理すんなよ?」


「わしの話を 聞いてなかったのか? 死ねないんだよ。 普通には……だがな やっと 見えた! 死ななくて いい 方法が!」


「方法?」


「君が 準備して くれたん だよ。 わしの この星の幸福への道 君との 偶然の出会い で 更なる 幸福へ それを『セレンディピティ』と いう。そして わしは……この世に 来た ばかり だ」


「セレン……ディピティ? この世にきたばかりぃ!?」


「わしら の 能力は きっかけに過ぎない! ハァ……どの道 人類の 生きるすべは……ハァ……永くは……ハァ……もたんかった ろう」


 口の動きが遅い加藤。それでも細やかに言葉を発せられるのは、加藤の言うように何度も同じ内容を話し慣れた言葉なのか。それとも刈谷の五倍以上生きてきた想像力の豊富な物語か。

 命を掛けて語る言葉を馬鹿にしきれない刈谷。自分の存在が桜に信用されないように、加藤も同じ思いをしたのかと、刈谷は加藤の話を止めることが出来なかった。

 そんな加藤も少しずつ会話が辛い様子が見えてくる。


「ど、どういうことだ!?」


「『レミング』なん だよ……人類 は」


「レミング? ネズミか? 集団自殺するっていう」


---*---

 生態系が飽和してくると、新しい土地を求めてか、川に、海に身を投げる生物の姿があった。

 繁殖力の強い哺乳類、ハタネズミ亜科『レミング』。天敵や食料の増減によってか、集団移住をする傾向があった。その際に自殺か、事故か、海に大量に死骸が浮かぶ姿が知られていた。空から降ってきたと言われるほどに。

 加藤はその様子を人類に当てはめ、無意識のレミングと例えた。

---*---


「自殺じゃ……ハァ……ない……少なくと も……ハァ……ハァ……自殺に 見え る その 者 達に は……ハァ……そん な つもりじゃ ない!」


「自殺じゃない!? え……それは!!」


 加藤達哉は震えた手で着用している作務衣さむえの腰にあるポケットより携帯電話を取り出す。社用の携帯電話。それはセキュリティ設定により、登録された番号と緊急番号のみに連絡できるようにされているため、利便的に契約者へ渡す事も多い。利用者は裏側に職員ナンバーを刻印されるようになっていた。春日を待っている時に持っていた記憶。車で走行している時にはなくなっていた不可解。

 加藤の持っていた携帯電話は何を意味するのか。それが証拠と示すように、刈谷に差し出す。


「刻印……俺の……携帯!?」


「ハァ……ハァ……『新天地』なん だよ そして……ハァ……君 と の 偶然の 出会 いは……ハァ……ハァ……そこで 意味 を 成す だろ う」


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