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シンクロディピティ  作者: 恵善
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【神隠し】 多重する意識同期は別世界からの悪戯

 16:58 モンストラス世界。本部会議会場。

 管轄秘書から急遽連絡を受けた各機関の重役。世界に違和感を覚える一般人も含める数百人が会場に集まっている。簡易的な折りたたみの椅子を碁盤の目に並べられた会場は、職員の誘導により前から順に埋められていく。その入り具合を見た管轄秘書は緞帳幕の裏に控える鈴村へ声を掛ける。


「管轄! 間もなく始まりますが準備は宜しいですか?」


「すぐ戻る」


「え!? もう始まりますが……では進行の順番を変え……」


「問題ない……五分程度だ」


「わかりました。あと、お伝えそびれてましたが、先ほど支所で起きた事件の詳細が届いておりました」


「わかった。目を通しておく」


 渡された資料を眺めながら、鈴村は控室付近の裏口から外へ出る。

 ひと気のない裏口周辺。樹木が立ち並ぶ周辺には一見すると誰の気配もなく、そして外に出た理由を見せない鈴村は、手元の資料を眺めながら静かにたたずむ。すると樹木の裏側から静かに体を半分出してきた人物。それは命令を受けて先に外へ出て待機していた鈴村のZOMBIE。それをわかっていて命令をした人間の鈴村も自然と近づき、すれ違いならが一言伝える。


「任せたぞ」


「わかりました」


 すれ違った鈴村二人。ZOMBIEは会場の裏口から入館し、本体が目線を伸ばす先には社用の車が並んでいる。


――まずは支所に向かい、刈谷の様子を探る。ん?……な!! なんだ!? このクオリアは!


 これからの展開を想像した鈴村におきた異変。突然身体にまとわり付くような違和感を感じる。それは形容の難しい感覚質であり、痛みがあるわけでもなく、それでいて優しさも感じない。まるで自分に吸い込まれるような感覚。目に映る景色が見えているのか、見えていないのかも錯覚させられていそうな強制的な違和感の瞬間、今まで目にしていた風景は一転する。最初に聴こえたのは銃声だった。


――こ、ここは……銃声……どこだ。


 固い壁に囲まれた階段の踊り場に立つ鈴村。顔を動かせばすぐに外を眺められる窓があることに気づき、地面との高さから一階ではないことがわかる。鈴村がどこの建物かと意識ながら聴こえた銃声に反応し、建物の窓から地上を眺める。


――ここは……支所か! あいつは……刈谷。なぜ、刈谷の姿のままだ……多勢な職員に水谷……何が起きている。


 17:02 モンストラス世界。支所駐車場。

 職員に囲まれた刈谷と、一定の距離を空けて説得しようとしている町田の姿。それは自分の事を刈谷と訴える春日と認識されている者。


「俺が刈谷だー!!」


「すぐに春日を拘束しろ! 容赦するな!!」


「ふっ! ざけんな!! あああー!!」


 響く銃声。刈谷は手錠を掛けられた両手が握った拳銃で空を撃つ。その瞬間に、すぐ近くの建物の内部に現れた鈴村。窓から眺めた光景と同時にうろたえる刈谷の姿があり、刈谷に面と向かって立ち並ぶ職員の真ん中に軽蔑の意味を表現したような口角を上げた桜の姿がある。


「近付くなー!!」


――フフ……刈谷……どうする? 私が半年間監視してわかった事、あなたは間違いなくR! 不安因子とされる私と管轄は気配を消し、あなたは心神喪失な目で見られてる……フフ……きっとこちらのRである管轄は、Rとしての私の存在を、シンギュラリティ世界にリンクするために準備をしてるはず。もう十分待ったわ。もしもRの管轄が裏切れば、私がこの世界の真実を混乱と共に広める。今、刈谷が逃亡でもすれば、ファクターは刈谷だと言っても納得するはず。あぁ……春日としてだったわね。けれど、シンギュラリティ世界の本体の管轄はどうなってる? 上手く丸め込んだか、殺害したか、けれど会っていない人間のことなんかわからないわ。ここのどこかに現れでもすれば、私の手で闇に葬る。その前にまずは、目の前で混乱した心神喪失気味の刈谷の始末ね。


 直接会ったこともない人間の鈴村の事を強く考えながらも目の前にいる邪魔者である刈谷との距離を縮めたい桜。威嚇をしながら刈谷は車に近付き、背中をドアに付け乗り込もうとする。そんな時、刈谷の目に止まるものがある。


――色! 景色……なぜ今共感覚が!?


 刈谷の泳ぐ目と同時に桜は眉間にしわを寄せる。それはまるで刈谷の目線の先に見えるものを目で追うようである。そして町田は刈谷の後ろに目線を向ける。刈谷が背をあてる車に飛び乗る音。それはあまりにも静かな着地であり、気づくのが遅れた刈谷以外の者は、全て刈谷から目線を外すほどであった。


「誰だ!」


 建物の二階から飛び降りてきた鈴村は、叫ぶ刈谷が振り向くと同時に拳銃を蹴り、喉を叩く。


「がは! !」


「拘束しろ!」


「う゛っぐぞ! は! 離せ゛ー!」


 町田の声と同時に、数人の職員に取り押さえられた刈谷は拘束され、社用の護送車に向かって運ばれる。


「管轄! 本部から来られてたんですか!」


 葉巻を取り出し、火をつける鈴村。そのわずかな時間に鈴村は考えたかった。

 鈴村からすれば緊急事態に対応しただけであったが、自分がここに突然現れた理由や、春日でなく、刈谷の姿をした存在の意味を頭で整理するべく、ほんのひと時考えたいため、葉巻に火をつけ、一息するまでは声は発さずにすみそうな、ほんの数秒に状況を整理したかった。


「ふぅ~。町田……あの刈谷と名乗る春日雄二を、この半年間監視して何かわかったのか?」


「本人から聞いた限りは掴みどころのない話ばかりでした……ただ」


「ただ?」


「今起きているこの不死現象のヒントがあるかと感じたのですが、その本人『加藤達哉』の消息が在りません」


「あの春日は会ったと言っているのか?」


「はい……けれどあの建物の地下には誰の気配もありませんでした。恐らく加藤達哉は爆発で吹き飛んだものと思われます」


「ボイスレコーダーには残したか?」


「はい! これです」


――基本的な業務方法は同じだな。町田も顔と名前は一致し、『シンギュラリティ世界と同様に』、仕事に忠実で機転もきく人間だろう。水谷と刈谷の様子から、半年前の頃から認識が変わって、今になって春日であるという事を告げられ、混乱した刈谷を拘束したというところだろう。


 整理した考えが的を得ていた事に話のつじつまを合わせられた鈴村。町田から静かにボイスレコーダーを受け取ると胸のポケットにしまう。


「後で聴いておく……水谷!」


「はい!」


「お前はあの建物には春日以外は居なかったんだな?」


「はい! 間違いありません!」


 自信を持って鈴村へ答える桜。その言葉だけであれば、疑う者はいないと感じるほどの真っ直ぐな言葉。それだけに言葉を用意していたとも勘ぐってしまう鈴村。


「じゃあ刈谷恭介とは……どこから現れた名前だ?」


「架空……としか申し上げられません!」


「わかった! 順次専任を交代させ顧客を護るように!」


「わかりました! 即対応致します!」


 鈴村が背中を見せると同時に、町田は義務的な業務をこの場で報告するためか、桜が担当した接客による原因の罰則を伝えるために引き止める。


「管轄! 水谷は先程の所内の事で謹慎と減給を申し上げるところでしたが」


 所内の事件。それは支所にトラックが衝突してきた出来事。その資料を本部で受け取っていた鈴村はすぐに桜の立場を考えた。ここで職務を縛ることに、鈴村が知りたい答えは見つからないと。


「あの犯人の動機は確認した……自営の仕事依頼がなく、自殺願望が元々あり、そのキッカケを探すか家族の為に生きるかの瀬戸際に断られた暴挙だ! だが今チーフ不在に何もいい事はない! 俺の判断で不処分とする! 以上だ!」


「はい!」


「はい! ありがとうございます!」


 町田と桜は声を合わし返事をすると鈴村は振り返り、葉巻の甘い匂いを残しその場を去る。その鈴村の堂々とした背中からは想像出来ないほど、鈴村自身は眉間にシワをよせ、拭いきれない疑念を思考する。


――水谷……お前は誰だ? それに、刈谷の姿で認識は春日……春日か……どうやらファクターが見えてきたな。刈谷と水谷に起きた出来事。本体の水谷の記憶をRの水谷にインストールしたはずだが……感じられない。刈谷に対しての慕情。予想と違った54回のクロニック・デジャヴュ。そして俺をモンストラス本部からこの支所に飛ばされた現象は……誰の仕業だ?


 支所の周りを取り囲む高台に移動し、遠目に町田と桜を眺める鈴村。手に持ったボイスレコーダーを聴きながら、支所全体も眺める。


――なるほどな……刈谷はこの世界では存在しない。本来潜入させる本体の刈谷がR春日となり、元々いたRの刈谷は触れずにそのままの予定だったが、手違いのデジャヴュによりRの刈谷に対しての世間からの認識だけが刈谷を春日としたわけか。ならRの水谷は……本体の水谷の記憶がない元から存在した単純なR? 俺に起きたこの瞬間移動は、恐らく、開発したばかりの新プログラムの『シンクロ』。『ZONE』に代わり、モンストラス世界を安全に監視するために作られたプログラム。もしもRが使用すれば神になれる技。ならば、誰かがシンギュラリティ世界でANYに命令したはずだ。……可能性は二人。シンギュラリティ世界にリンクした俺のRか……俺を強制リンクさせた『春日』か! 春日……何者だ! 本体は加藤の館で無惨な姿になったはず!! ん? あの屋上……いつ……あいつらは現れた!?


 考察する鈴村が眺める支所の屋上に職員数名が突然現れる。その職員の中心に歓喜の笑顔で両手を広げる田村。田村の指示によって、職員は屋上の端に立ち並ぶ、集団心理を思わせるその姿に気付いた桜と町田。その狂気な行動を止めようとする二人の様が鈴村に見て取れる。そして、その突然の出現は、あまりにも不自然であり、それはまるで鈴村自身が体験した現象が田村を含める職員たちまで影響を受けたものではないかと想像する。


――シンクロか!?


 田村と桜の様子を凝視する鈴村。新プログラムの影響であるのか、それともタイミングの良い偶然であるのか。その答えはハッキリとした声を聴いていない鈴村にとっては断言できない。けれどわかることは、田村を含める職員が『すでに死ぬ意思がある』ということだった。それは何度か『死への経験値』を感じるものである。


――田村は……すでにRが劣化してるようだな。デジャヴュを意識出来てるようだ


 桜は携帯電話で叫ぶ。町田を横にして声を荒げる桜の真意は、常に逆の意識との戦いである。


【おい! 田村お前何してる!?】――なぜこのタイミングで現れるの!? 確かに私は刈谷の補佐のお前と取り巻きを頭に浮かべた!


「桜! スピーカーにしろ!」


 町田は桜に携帯をスピーカーにして一緒に聴き入る。


【チーフ……私どもは……ここは違うと思うんですよ】


【ここ? どこの事だ!】


【はい……きっと、更に目覚めた時……自分に戻れるはずです……きっと……きっと】


【自分? おい! お前何を言ってるのかわかってるか?】


【はい……自殺者の気持ちわかるんですよ……何かが違うこの世界に】


【わかった! お前の言うことは間違ってないわ!】 ――まずい! ファクターが複数と怪しまれると話が難しい!

【だから! 今は止めろ!】 ――早く墜ちて! デジャヴュが起きれば後で黙らせる事が出来る!

【私がお前達の話をちゃんと聴く!】――何人が目覚めてるの!? きっと今墜ちたら目覚める者も出るかもしれないわね。


【ありがとうございます……目覚めましたら……どこかで】


 口に出す言葉と真意が違う桜の願いが通じたように田村が羽ばたく。

 墜ちる瞬間まで桜の様子を見つめる鈴村。瞬く程度に予想通りの更新デジャヴュを感じる。


――デジャヴュが起きたな……町田は何が起きたかわからないはずだ。水谷はどうだ。


 鈴村が監視する先には何もなかったようにその場を去る町田。そして桜は、何もなかったはずの支所の屋上を眺め、息をつく。それはデジャヴュ前の記憶から屋上の確認をしたかのように。その様子は、鈴村から見ればデジャヴュ前の出来事を知っている者にしか出来ないたたずまいに見える。


――やはり目覚めているな……水谷! お前はこの世界を理解している! そして、持つはずがない力を得ている!


 確信を持って立ち上がる鈴村。支所を囲む高台から駆け下りるように、そして行動に出る。その様子を知らない桜は町田と話した通りにRの刈谷の代わりに専任として田村へ昇格を伝えなければならなかった。


――田村を止めなければ……けれど、どうする? 口を塞ぐにも不死の世界……なら……こっち側に引き込むか。それに、さっきの鈴村は……私の仲間のR? そうでなとしたら、本体? でも、本体が無事にここにいるということは、計画はどうなってるの? 私はシンギュラリティ世界に行けるの?


 田村を押さえ込むために支所の裏口に向かう桜。それは田村の口をふさぐか、利用するために動き出した狂気と策略の心。だが、そのことに集中できないほど、先ほど目の前に現れた鈴村の『中身』が気になる。

 町田が罰則を与える気持ちで鈴村へ進言した事に対しての不処分の決定。それは桜にとって有利で動きやすい形。けれど初めてみせた葉巻をくわえる姿。鈴村がRか本体かどうかによって、桜自身の身の振り方が変わる焦り。


 もくろみと懸念で頭を支配している桜は覚悟を決めて支所に入ろうとする。その間際に感じる気配に気付かないほど、桜には周りが見えなかった。

 突然の腕力は、支所への入口のドアで桜をはさみ、押さえつける。


「ん!? ぐぅ……ぅ……ぅう!!」


「静かにしろ……水谷」


 左手で桜の口を塞ぎ、右手で首を掴む鈴村。壁に押し付け、いつでも首に力を込められる気配がある力加減で桜を押さえ付ける。そして、ゆっくり塞いだ左手を外す


「答えろ!! お前は何をたくらんでいる!」


「か、管轄……な、何をおっしゃってるのか私には」


「お前がこの世界を理解しているのはわかっている!! だが……誰の誘導で動いてる!」


 更に力が入る鈴村。顔が歪む桜。桜は確信する。この男はモンストラス世界のRの鈴村ではなく、本物の鈴村だと。


「言わないと……消えるぞ?」


     ◆◆◆


 17:28 シンギュラリティ世界。本部病室。

 桜は本部で起きている事態が気になる一方、モンストラス世界にいるのかどうかわからない、そばから離れた刈谷の安否の不安がよぎる。


――恭介は今どうしてるの? 私は殺す標的を言い切れなかった……もし違うRを殺した場合はどうなるの? 知っているのは……管轄! 寝てる場合じゃないわ! 行かなきゃ! くぅ!!


 無理矢理起き上がる桜。地に足を付けた時、ドアをノックする音がする


「は! はい!」


 条件反射のように声を上げた桜。その声を確認したように入室してきた男。それはRの鈴村である。


「水谷……もう起きれるのか?」


「か、管轄! あの、今ちょうど管轄に会いに行こうと」


「刈谷の件か?」


「はい! あれからどうなりました? どのくらい時間が経ちました? 無事ですか!?」


 執拗に質問する桜。言葉を整理させようと質問にすぐ答えずに間を空けるRの鈴村。


「水谷……まず落ち着くんだ」


「はい……すみません。あの、助けていただき、ありがとうございました」


「それはいい、俺から聞きたい事がある……ちゃんと任務は果たしたか?」


「いえ、私はZOMBIEに殺されたと思いました……目を覚ました恭介にも、殺す相手を伝えきれませんでした」


「そうだろうな……だからモンストラス世界では、本体の刈谷の存在があいまいだ」


「ど!? どういう事ですか!?」


「それを整理したい。そしてモンストラス世界はすでに半年経っている」


     ◆◆◆


 17:30 モンストラス世界。支所裏口。

 首を抑えられて硬直するRの桜。生唾を飲み込む感触が本体の鈴村の手に伝わる。


「水谷……全てを言え!! そしてお前の狙いや期待はなんだ! シンギュラリティ世界とモンストラス世界全てを仕切っている俺に話して協力するのが、今のお前にとって得だと思わないか?」


 目線を下げる桜。それは抵抗する様子もなく、いいわけを返すわけでもなく、鈴村の放った言葉に全て頭に入れた結果、理解して、観念した様子。その様子を見て首から手を離す鈴村。桜の体から圧力が無くなったと同時に、桜は静かに話し出す。


「私は……この世界で生まれ、育ち、自分の世界が全てであることを疑わなかった……そうしたら何!? シンギュラリティ世界!? あっちが本物でこっちが偽物!? 私は何故わたし……知らなきゃよかった……私の望みは、あの世界で人間として生きること!! そのためには……本体の私が邪魔だった!!」


 桜は自分の目的を語り、下を向いたまま、立ちながら、両膝を両手でつかみながら告白する。


「いいだろう」


「え!?」


「Rのままだとシンギュラリティ世界では定期的に強制消滅するようになっている。クローンに意識を入れてやろう。人間としてシンギュラリティ世界で暮らすことができる」


「本当ですか!?」


「あぁ……ただし、別の人間として生きてもらうぞ」


「別の人間? なぜですか?」


「水谷桜……本体は生きている」


「ど! どう……して……本体はZOMBIEが」


「確かに、俺も見た時は、致命傷のはずだった。しかし、俺が体に触れた時に鼓動を感じた。シンギュラリティ世界に戻り、救急治療により、おそらくは生き延びたはずだ」


「じゃあ……私は! 私はどうしたら……」


 頭を抱え、うなだれ、腰を落とす桜。その姿を見た鈴村は、優しさのつもりでもなく、希望と理解を求めて、真実と期待となる言葉をこぼした。


「お前らはシンギュラリティ世界を新天地と考えたのだろうが……逆だ」


「逆?」


「シンギュラリティ世界はもう、もたない……俺は新天地として、新しい惑星、モンストラス世界を創造した。人として生きたいのなら、しばらくはこの世界で様子を見る事だ」


「じゃあ! このRとしての肉体は!?」


「今起きている事態が収拾された時、どちらにしろ人間の肉体を与えよう。その為にもまず! ファクターは誰だ!! 教えるんだ」


 その鈴村の問に対する答えは早かった。選択肢の無くなった桜は顔を上げ、抵抗なく口を開き告げる。


「Rの管轄が……仲間よ」


「やはりそうか!! あいつが黒幕か?」


「違う……わね。おそらくは……シンギュラリティ世界に飛んだ時……全てを教えてくれたのは……春日雄二よ」


     ◆◆◆


 17:40 シンギュラリティ世界。林道。

 咲を車に乗せ、走り続ける春日雄二。それは本部への方向へ進む道。本部に向かうわけではない春日の考えている答えはまだ決まっていなかった。


「雄二……どこに行くの?」


「どこでもいいんだよ……本当は」


「え、どうしたの? なんか変よ?」


「安心して……きっと、すぐだから」


 質問をはぐらかす春日に咲は不安がありながらも、目に止まった光景に、不安は思い出と変わる。


「クスッ……ねぇ、雄二……覚えてる?」


「覚えてるって……何?」


「あの擬似森林だけど、あの林の先にある崖であなたと遭ったわね」


「あぁ……そうだね」


「可笑しかったぁ~。アハハ! 私が崖で風を感じたくて立っていたら突然現れた雄二が……『君は何がしたい! 人間は貴重だ! まだ駄目だ! またにしよう!』って! アハハァ! 雄二、あなたどこにいたのぉ? だって突然だったんだもん! 驚いて落ちるとこだったわょ!」


「そっかぁ……そうだったね……場所が決まったよ」


「え?」


 目的が決まりハンドルをきる春日。動揺する咲を気にしない素振りで走る先。春日は目に映った出来事に、それまで余裕を持っていた表情から、その日初めて顔つきを変える。


「雄二……何?」


     ◆◆◆


 17:43 モンストラス世界。支所裏口


「そうか……春日か」


「管轄! 春日は本当は何者ですか!?」


 鈴村はその問いには返そうとしない。そして桜自身も元々見知っていた春日とは全く違う性格を感じる別人のような春日の正体も理解したかった。そして、それを分析できるのは、実際に春日と語った自分しかいないと感じたのか、出来事を語りだした。


「私は、春日の姿をした人間の刈谷から、葉巻に入ったカプセルを奪ってシンギュラリティ世界に飛んだわ。見回すとおそらく加藤達哉の館の周辺だった。けれど館の形跡はなく、私に近付いて来たのは春日。その時に私は、自分の部下に接するように話し掛けたわ」


 Rの桜はいまだに正体不明な春日との会話を思い出すように語りだす。その第一声は、すでに上司である桜に話し出す言葉には聴こえなかった。


     ◆◆◆


 半年前のシンギュラリティ世界。加藤達哉の館跡。

 葉巻のカプセルを利用してシンギュラリティ世界にリンクした桜が見回した光景は、一見すると見慣れない森林の中。館がすでに消失してはいたが、ひらけた芝生が広がる空間は、ここに館があったのではないかと連想した。状況がわからないままたたずんでいると、いつ現れたのか目線を動かした瞬間に春日の姿を目に止めた。その春日はそれまで知っていた者と違う静かさを感じる雰囲気を持ったまま、次元の違う言葉を発してきた。


「お前は、モンストラス世界の水谷桜だね」


「か!? 春日? お前……どういうことだ! ここは何!?」


「落ち着くんだ……ここは人間の世界……シンギュラリティ世界だよ」


 Rの桜にとって初めて耳にする世界の話。鼻で笑うこともできた。激怒して叱咤することもできた。けれどしなかった。それは春日の後ろに見えるものが、都市を囲むドームの滑車が空を駆けていたからだった。


「な、ここは……くっ! シンギュラリティ世界? 何のつもりだ! 説明しろ!」


「百聞は一見に如かず……か。見せてあげるね」


 桜の肩に触れる春日。桜の見ていた景色はぼやけ、目まぐるしく変化し、目を疑う景色にとまどう。春日の馴れ馴れしい接近に腹を立てればいいのか、役職者としてのプライドが掻き立てられるか。様々な感情に桜は戸惑う。


「何を!? ふ!! はぁ……こ、ここは」


 ビルの屋上に現れる春日と桜。空を見上げれば直前までの中途半端なドームと違い、そこから見える光景は未来的な景色であり、電子的な文字が空を走るドームに完全に包まれた世界であり、桜は興味の絶えない鳥肌が立つような魅力を感じる。


「ここはシンギュラリティ世界中心都市、お前が担当している地区本来の姿なんだ」


「この……世界は」


「お前は……人間ではないよ。この世界が創り上げたモンストラスという世界の住人なんだ。モンストラス世界で起きる出来事は全てこの世界で管理されているよ。お前は……偽物」


「私が……偽物?」


「うん、お前の本体はこの世界で、幸せな顔で、お前と同じ仕事と地位を持ち、刈谷恭介との結婚生活を送っているんだ」


 何を言っているのか、ひと時理解が出来なかった。それは願っている事と願ってもいない事が混じるような内容。少なくとも、Rの桜には、幸せそうな地位を持つ『本当の自分』に対して、嫉妬した。


「有り得ない……刈谷と? ふぅ……まさか」


「この世界は平和だ。ANYという人工知能の機械が人間以上の知恵と、人間以上の正しい判断力で、犯罪も少なく、安心に包まれ、そして泡のようにブクブク膨れて飽和ほうわする人間。お前らは、研究の為のモルモットなんだよ。あっちの世界は、人が、ぁあごめん。モルモットが死ねない世界をつくった。そのうちモンストラス世界のモルモットはこの世界を求め、混沌と破滅の第二の『monstrous』時代な世界となるだろうね。そこでね……先に、俺が渡してやろうかなと思って……ここへの市民権を」


 話の途中までは怒りどころを探していた桜。けれど、この都市の住人となれる自分をすぐに想像した。じわじわと高ぶる感情は、目を見開かせ、震わせながら笑みを浮かべる様子となる桜。その様子を見るだけで春日には桜の答えはわかった。


「どうすれば……この世界へ」


「お前は運がいい。あ、目覚めてここに来れた事の意味ね。面倒が省けたよ。お前の本体は、複製した感情のないZOMBIEと呼ばれるRによって、モンストラス世界で始末させたよ」


「え? もう、死んでるの!? Rってなに?」


「あぁ、きっと死んでいる。普通ならね。あ、Rって、亜流ありゅうっていう言葉が変化した俗語だよ。簡単に言えばレプリカだね。まぁそれはいいよ。それに、まだ本体の刈谷が残っているから。あいつは、俺たちが世界を一つにする活動を暴き、鳥かごの世界を安定させるべく送り込まれたスパイなんだよ」


「スパイ? 俺達? 他に仲間がいるの!?」


「モンストラス世界の管轄……Rの鈴村和明だよ」


「管轄が!?」


「仲間に不足ないでしょ? お前に求める仕事は、春日の姿をした本体の刈谷を殺すこと。本体はRよりも先に死んだら生き返る事が出来ないんだ。そしてRの鈴村をスパイの代役に。これが条件だよ。後の流れはRの鈴村から聞くんだね。また来てよ。ここにRの鈴村呼んどくから」


「えっ、どうやって」


 その話の直後、デジャヴュによりモンストラス世界へRの桜は修正されるように戻された。そして、何度も葉巻を春日の姿をした刈谷から奪っていた。Rの鈴村と別の世界で密会するために。


     ◆◆◆


 17:44 シンギュラリティ世界。本部病室。

 本体の桜に会いに来たRの鈴村。すでにモンストラス世界が半年経ったことを告げて、言葉を待つ。


「本当……ですか? もう半年?」


「ああ、モンストラス世界の時系列はシンギュラリティ世界で全て制御している。ANYに命令して、数時間ですでにモンストラス世界は半年後の世界だ」


 桜はまばたきを繰り返し、人間の鈴村が伝えてきた任務を思い出しながら頭を整理する。


「だから、簡単に大それた任務を実行したんですね」


 そして、目の前にいるのが、それらの計画を伝えてきた鈴村と信じて尋ねるように返す。


「ああ、お前はその大それた任務の犠牲者になるところだった」


「すいません! 管轄、それは私が選んだ行動ですので……で、でも、恭介の存在があいまいなのはどうして?」


「刈谷は、殺す相手を間違えたな」


 本来はRの春日と桜を殺害する任務だった。けれど、本体の刈谷はRの春日と刈谷を爆発させていた。


「殺す相手……では、私でなく、自分のRを!?」


「まあ、そうだな……そして、それをきっかけにお前のRは暴走した」


「え、どういう意味ですか?」


「お前のRはモンストラス世界の神にでもなるつもりだぞ?」


 神。それはRの桜にも伝えていなかった能力である『シンクロ』。それをRの桜へインストールしたRの鈴村自身の口から伝えられる悪い出来事という口ぶり。


「え? 神?」


「神として……お前のRには特殊な力を備わった」


「私のR……私のRは私の記憶が入ってるはず!!」


「入ってない!!」


「え! どうして……そんな」


 全ての予定が狂っていると感じる桜。けれど、そのように心を誘導している目の前にいる鈴村は他人事のように言葉を返す。


「俺がモンストラス世界にいる間に、隙を見て、『俺のR』が仕組んだんだろう」


「か、管轄を、Rが裏切ったという事ですか!?」


「そういうことだ。お前はこの星が故郷で在りたいか!?」


「はい……けれどそれは刈谷恭介が一緒であるならば……恭介が居ないなら」


「モンストラス世界に行け」


「え?」


「そして刈谷を撃つんだ」


     ◆◆◆


 17:46 モンストラス世界。支所裏口。

 Rの桜が告白した出来事を全て理解した本体の鈴村。


「なるほどな……水谷、お前がシンギュラリティ世界に魅力を感じた気持ちはわかった。自分が本物じゃないと悟った落胆……元々知らなければいい事だな。そして、春日が何者かはまだわからない……そしてお前に『シンクロ』をインストールした理由もな」


「シンクロ? なんですか!? それは」


 桜は理解していない。それがハッキリわかる反応。少し目を桜から離して考える鈴村。伝えなければ、他の誰かであるRの鈴村か春日に利用される恐れ。鈴村にとっては、『この世界の神』として理解させることを優先した。


「『神隠し』はわかるか?」


「神隠し? 昔から伝えられるお伽話のような……突然人が消えては、突拍子もないところで現れる……あれですか?」


「まぁ……そんなとこだ。奴らの目的は不明だが……お前は今、この世界の『神』だ」


 鈴村の現実味のない言葉に桜は苦笑いをする。あまりにも当たり前に、それはシンギュラリティ世界を目にした時よりも突拍子もない話に、真面目な顔をして話す管轄である鈴村に対してもユーモアに返すような笑みを返す。


「ハハ……フフ、管轄、ご冗談を……人間でもなく、本体でもない偽物の私が……『神』!? 何もされてないわ。それでいて実感もないです。フフ、もう少しマシな冗談を……」


「水谷……モンストラス世界では色んな不可思議な現象が伝えられてる。神隠し、ドッペルゲンガー、妖怪、幽霊、輪廻転生、予知夢、地上絵、UFO……死者への礼儀に弔う気持ちで過去の称賛はするが……これらは全て、シンギュラリティ世界では、『言葉すら存在しない現象』だ」


「え!?」


「なぜかわかるか?」


 言葉さえも存在しない現象。受け止め方に悩む桜。自分は今まで世界に騙されていたと考える桜にとって、簡単に思いつく答えを返す。


「全ては……シンギュラリティ世界の……仕業……だからですか?」


「その通りだ」


「じゃ、じゃあ……私達は……それを体験したっていう人は、全て『見せられて』いたんですか!?」


 当たり前に耳にしてきた言葉。それは世界によっては当たり前であり、違う世界では認識のない言葉。


---*---

 目覚めた者。それを繰り返すとRとしてのデータが劣化していき、デジャヴュの瞬間に消えた者。それを幽霊と思う者。データのエラーやバグにより自分と同じ者を見れば、怪奇的な現象と思う者。

 目覚めるとは、何度も死の淵から生還したR。ある瞬間に、突然自害されると、そしてモンストラス世界の平穏を脅かすと思われる事態には、何も無かった様に世界を更新し、そのRの死も無かった事にする。

 Rの死は、更新を繰り返す事によりRが劣化し、その者の更新の瞬間に、データが雑になったRが断片的にデジャヴュで消える者を見る事が出来る。この世では、目覚めた者は霊感が強いとでも言われる現象。全てはモンストラス世界の中でしかおこり得ない事。シンギュラリティ世界を見た者にしか、信じられない真実。

 見せられていたと考える桜。見せるつもりがなくても防ぎきれない瞬間的な出来事。それはシンギュラリティ世界からの悪戯いたずらのようにも受け止められる。

---*---


「ああ……似た様なものだ。例えば、お前と刈谷に備わった『ZONE』空間。これはシンギュラリティ世界では有り得ない」


「『ZONE』?」


「今日、もしかして起こらなかったか? トラックが暴走した時」


「あ、あれが?」


「本人の意識以外全ての時間を緩やかにする技。重要人物とされる者には備わっている」


「では……『シンクロ』というのも」


「このモンストラス世界だけ有効だ」


     ◆◆◆


 17:48 シンギュラリティ世界。林道

 春日の意味深な言葉の返事を待つように春日を横に見つめていた咲。返事を期待できない様子に正面を向こうとする瞬間、春日は突然急ブレーキを踏み、素早く手を咲に伸ばし、左手を咲の頭に軽く触れると、咲は意識を失った。


「雄!? んん……」


「あいつは」


 それは咲には見られない方が良いと判断したこと。けれどそれは目的地の事ではなく、目の前ですれ違う人物を咲に見られてしまう事を避けたかった。

 車を降りる春日。それは無視することの出来ない疑念を感じた。車の20メートル先から気怠く歩いてくる本部職員の制服を着た男へ歩み寄る。本部から逃げ出した男は、前を見るというより、やや下を向き、無駄に目をちらつかせる様子もなく、呼吸だけ整えていた。

 作られた林道に並ぶ樹木から、まるで本物のような軌道ではらりと落ちていく葉っぱ。


「フゥ……フゥ……フゥ……」


 男の頭へ静かにこすりながら落ちていく葉っぱは、口元で荒い呼吸により一瞬浮かぶ。その呼吸が聴こえそうなほど近づく春日は話しかけた。


「なぁ……お前……誰だ?」


 男に声を掛ける春日。その男はゆっくり顔を上げ、そして理解できないものを見たような驚愕の表情で目を見開き、警戒をしつつも、自分が今まで自然と導かれた足どりを見失ったように、その場で立ち止まったまま言葉こぼした。


「なぁ? お前? 誰だ?」


 それは言葉を真似ている様子。更に一歩近付く春日。その一歩は男にとって防衛本能が反応する距離感。考えた事なのか、無意識の事なのか、突然踏み込んだ足は、明らかに攻撃をする意思を感じるような雄叫びを上げた。


「ぐがああぁぁあぁあー!!」


「ほう……あはは、『背景放射』を浴びた者か……じゃあ、ZONE発動……50いや、1/100-MODE」


 あと1秒あれば接触したと考えられる距離感。防御態勢をしない春日。防御の代わりに春日の口ずさみと同時に発動するZONE空間。

 道路沿いにそびえる樹木から、葉っぱが春日の目の前を横切るはずだった。その空間は葉の動きも静止して見える静寂。春日に向かって来る男は固まらせた形相と、春日を掴むか引き裂く為の両手。跳躍力を感じる一歩。お互い同じ動きしか出来ないはずだった。全ては静止しているように見えるはずの空間。その中で、春日は1/100の動きで進む世界で、当たり前のように片手を上げ、空に指を指す。


――墜ちろ。


 細く鋭い雷火。男の肩をすり抜ける。直撃を避けた攻撃。気絶を狙った攻撃。シンギュラリティ世界で発動したZONE。それにまだ気づかない男。春日は一歩横にそれて、男の攻撃目標を見失わせた。


「ZONEは解除するよ」


     ◆◆◆


 17:52 モンストラス世界。支所裏口。

 考え込む桜。ふに落ちない表情で鈴村に質問をする。


「春日は……シンギュラリティ世界で私を瞬間移動させたわ! どうして向こうでそれが出来るの?」


「おそらく、リンクを利用したんだろう。この世の物体をモンストラス世界に移動する時に使う技術。奴はANYの権限が強い」


「リンク? ……そんな難しい様には……では春日には管轄も敵わないのでは」


「春日の正体も、接触が可能なら見極める事も可能だ」


「それは、どうやって」


「それもお前の技が磨ければ……だな」


 鈴村の告白するこの世の『仕組み』を理解せずにはいられない桜は、薄暗い空を眺め、右手で頭を抱えながら壁にもたれる。神と言われる実感のない自分。その説明を自分から聴く気分にもなれない非現実。それでも、信じられなくても、鈴村の判断に委ねたい気分でもあった。


「管轄……私にどうしろと」


「先ずは『シンクロ』を使いこなしてもらう。そして精神病棟に留置されているRの刈谷に、シンギュラリティ世界への道の選択をさせるんだ」


「選択?」


「すでに渦中であるRの刈谷を放っては置けない。シンギュラリティ世界への道をチラつかせたあと、お前と同じ肉体を持つか、Rとして生きるか選ばせよう。混乱を覚悟で、Rの刈谷に対して、あえて人間として語り……この世界の真実を伝えろ」


「真実……それはシンギュラリティ世界を語るという事ですか?」


「そうだ。あえて人間であると思わせて、シンギュラリティ世界に向かう意思があるか探れ」


「それは……突然言われるそんな突拍子もない事なら、普通は確かめずにはいられないと思います。そんな時、連れていけと言われても……私には手段が」


「刈谷以外の『人間』が必要だとでも言え。それは、つまり俺の事だ」


「管轄に誘導すればいいのですね。けれどそれなら最初から管轄が会えば……」


「先にな、刈谷に正常な判断が出来るように、刈谷の訴えが真実だという根拠がいる。今は刈谷自身、頭がどうかなったかと混乱しているかもしれない。その疑念を払拭するための証言が必要だ」


「証言?」


「それをお前に捜してもらう。『シンクロ』を活用してもらうぞ」


 繰り返して言葉を返すたびに突き当たる『シンクロ』という技。桜にとって神という言葉が馴染まない響きの技。まだ理解しようとも理解したいとも思わない桜であったが、聞かずにはいられないと思い、素直な気持ちを伝えた。


「どうすれば……私にはそんな力の自覚がありません」


「先ずは……目をつむれ」


 桜はユックリ目を閉じる。闇の視界で立ちくらみそうな気分を支えるように支所の裏口で壁に手をあてて体を支える。


「深呼吸しろ……そして、先ず俺の存在を暗闇の中で認識するんだ」


 鈴村に言われるがまま暗闇の自分だけの空間。深い息をつき、その中で目の前に居る鈴村を認識しようと思考する。そこに見えたものに、初めて何かの可能性を感じた。


「み……見えるわ! 赤く……」


「見えただろう…俺の姿と認識色が」


「はい……ハッキリわかります! ほかにも……青? 青……無数の青い存在が!」


 目をつむる桜に見えている存在。星の如く遠くで無数に散らばる青。中には赤と青が交互にまだらする存在。その中でも、目の前に居る鈴村はハッキリと赤に認識出来る


「これは……まさか」


「もうわかるな。今のお前にはおそらく、世界中、全ての者を認識する事が出来る」


「管轄の赤は、もしかして」


「そう、人間の証。青はR。そして斑する者は」


「目覚めた者ね……凄いわ」


「もう、目を開けても認識出来るはずだ」


「ええ、わかるわ……時折滲む色」


「お前は世界中の者を認識し、ここへ呼び寄せる事が出来る。お前が向かうことも。これが神の技だ」


「これがつまり『神隠し』ね……理解したわ!」


 桜はシンギュラリティ世界の光景を観た時のような感動と興奮を覚える。


「無意識にお前は俺を強く想像したはずだ。その結果お前から確認出来る距離まで俺や田村は呼び寄せられた。その力を活用させてもらうぞ」


 神が無意識に念じた事により呼び寄せられた鈴村。神が無意識に念じた事により、期待感から別の世界に羽ばたこうと屋上から踏みだした田村。神が意識的に念じたとき、それを想像したモンストラス世界に今生まれた神は、自分の能力の限界を知りたいことを強く念じる。


「使ってみたいわ! この力を! 自分の意思で!」


 赤と青の星々に囲まれた桜が特別な存在であると実感した気持ちを、素直に声高に思いを鈴村へ伝える歓喜。

 知る事ができた自分の能力。その能力を与えたRの鈴村が望む世界。それは故郷だったモンストラス世界である惑星の未来を願ったことなのか、それとも混乱だけを求めるか。

 それぞれが行動する先に待ち受けるモンストラス世界の未来と自分たちが住む世界の選択。神が自分の意思で、能力を誰のために使うかによって、世界の常識と惑星の環境は一変する。

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