7.災厄とは?
「ほむほむ、ほむほむ」
朝ごはんを口に頬張りながら、愛香はクーシャの話を聞いていた。
ご飯、よく異世界のものは薄味で······とか見たことある気がするけど出てきた目玉焼きも新鮮さが感じられて美味しいし、このパンもとってもふわふわしててとても美味しい······パンだ。
もむもむと口を動かす愛香。どうやら愛香に食レポの才能はないようだ。
食事中に話をしてしまおうと考えたのは愛香の反撃を許さないための考えである。さっきまでわんわん泣いていたとは思えないくらいに愛香が元気になってしまったため、昨日みたいにまた「何をしたらいいでしょうか!」と聞かれる前にとりあえずこちらとして説明してしまおうとクーシャは考えたのだ。
――――クーシャの話が一通り終わったのとほぼ同時に、ごくんと彼女は咀嚼を終える。
「以上が、元々私たちが勇······あなたに話そうと考えていたことの詳細な内容となります。愛香さん」
「んー、なるほど! ありがとうクーシャさん!」
口にした「ありがとう」には"友達になってくれて!"という意味も含まれているのか、満面の笑みで愛香は答える。
えへぇ~、家族以外の人に名前呼んでもらえるのってなんか······いいな! 愛香さん、愛香ちゃん、愛香、あだ名とかにも憧れるけどまあおいおい。
そんなことを考えながらも、頭の中ではクーシャが説明してくれた内容を整理する。
昨日の説明から今日説明されたことを付け加えると······。
1.災厄とは10度目の大地震と共に復活する、世界を闇で包む何かである
始めに聞いたように、具体的に何が復活するかは分かっていないらしい。語り継がれた伝説の大筋は変わらないが、その詳細は現在では幾年の時を経て着色や改竄が加えられてしまい、何が事実であったのかを推測することは出来ないということのようだ。
結末としては異世界より封印された勇者がそれを封印するということで変わらないらしいが。
大地震というのは災厄を前に発生する災害の1つで、今までにすでに三度、それ迎えているらしい。
決まって月の始めに、一月周期で発生するそうだ。
一月はこちらの世界でも変わらずおよそ30日であるようで、次の発生は15日後。
決まってといっても今までの3回での発生がそうあったというだけではあるようだが、こちらの世界で魔力の強まる周期と一致しておることから(その周期から一月という単位が決まってのかもしれない)、もちろん常に備えてはいるがそう考えて今は行動をしているということだった。
2.大地震は"予兆"と呼ばれ、その際には強力な"黒い獣"が発生する。
黒い獣とはその名の通り、真っ黒なまるで影のような化け物であり、そのシルエットが世界に住む魔獣であることからそう呼ばれているそうだ。だがその力は姿を冠した魔獣とは比べ物にならない程に強力であると。
魔獣と言うのは私の知っているゲームでいう魔物のようにさまざま地域に発生する人に害をなす存在であり、平常時も冒険者(これもなんとなく知ってるようにさまざまな技能を持った何でも屋集団らしい)がそれと戦ってきていたようだが、黒い獣に立ち向かう力を持ったものたちは少数だったようだ。
3.予兆が回を重ねるごとに発生する黒い獣の力が増している。
初めての予兆の際は普段はこの世界で発生しない大地震を伴った"これは災厄である"というイメージを与えるもので、そこから生じた混乱もあり各種族に大きな被害を与えたが、それでもそれに備えた二回目の予兆では力を持つ少数の冒険者たちの活躍でなんとか被害は押さえられたようだ。
しかし、三回目でその筆頭であった英雄と呼ばれた人が戦死し、再び大きな被害を受けた。そこで急いでエルフたちは伝説に習い異世界からの勇者召喚を実行した―――
死亡した英雄とは本当に各種族にとっての支えとなる人物だったのだろう。その責任争いで各種族間でのいざこざが起こり協力体制も揺らいでしまったらしい。
――こんな状況でそんなことをしている場合なのか! って言うのは自分が第三者だからそう思えるのかなー。しかし大変な状況であることは彼女の話ぶりから伝わってきた。
4.魔物の動きも活性化しており、その対応に追われている。
予兆で発生する黒い獣とは別に原生している魔獣たちもその動きを強めているらしい、何もしなければ人々の生活を脅かすほどに。このためにただ災厄に備えるということができないことも大きいようだ。
昨日会ったエミクスさん、エルフの族長であるクーシャさんのお父さんも今日は村を出て魔獣狩りに向かっているとのことである。
――――いやいやそれよりエミクスさんってクーシャさんのお父さんだったの! 昨日は二人をみて王様と王女様なのかなーとか思ったけどびっくりですよ!
エルフは長命だからほとんど見た目が衰えないとかいうあれなのか、そういえばクーシャさんって何歳なんだろう。不思議な感じで自分と同じくらいにも20才のお姉さんにも見えるけど、あれで何百歳ってこともあり得なくはないのか······。
5.元の世界には自分が帰ることは可能である。
といっても魔力の調整からすぐに帰ることはできないらしいが(まあ仮にすぐ帰れてもそうは言わないだろうけども)、うまく災厄を解決して異世界最高!ってなってもそのまま家族にバイバイなんてのは嫌だったし良かったな。
読んでた異世界ものって最後どうなってたかな。帰ったり残ったりまちまちだった気がするけど、まあとにかく今は考えてもしょうがないことは分かった。
――――こんなところかな。
愛香は更に思考を続ける。
これらの解決のために自分が何をすべきであるかを考えていたのだ。