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4.勇者って何をすればいいんですか?


 「で、勇者っていったい何をすればいいんです?」


 目覚めた愛香は顔をさすりながら、それでいて何もなかったかのように聞いた。


 ······先ほど空高く舞い上がった愛香であったが、風が消えて空に投げ出され「へぶぅっ!」っという声をあげて地面にぶつかり気絶。村の診療所に運ばれていたのだった。


 部屋の中には先ほどまでのように大勢の人影はなく、クーシャだけが付き添ってくれていたようだ。


 「それよりも、その······大丈夫ですか?」


 「······大丈夫です」


 心配してくれたクーシャに対して顔を赤らめながら答える。


 勇者と言われ舞い上がって(文字通りにも)、あげく自滅。というのはあまりに恥ずかしかったためその話題を避けようと思ったのだが、さすがに無理だったか。


 ほんとのリア充ならこんなことにはならないのに······と謎の思い込みから自己嫌悪した愛香の目からはうりゅっと涙が溢れる。だがすぐに立ち直り、その涙が体の傷みからのものであるかのように元気に振る舞った。立ち直りが早いのは彼女の元来の長所の1つである。


 「あはは······確かにまだちょっと痛いかもですけど大丈夫です」


 ベッドから1度立ち上がり元気元気! と伝わるようにぴょんぴょんと跳ね回ってみせた。


 どうやら足も挫いてないみたいだし、本当に大丈夫なのかなとクーシャは思ったようでふーっと息を吐き出して微笑んだ。


 「本当にすみません。まさかあれほどの魔法が巻き起こるとは思わず······」


 「本当にだいじょーぶですよ! やっぱり勇者ですから体も強くなってるのかなー?! なんて」


 大げさにぶいっと笑顔で愛香は返す。


 その言葉を受け、あははっと声を出して笑ってくれたクーシャをみて愛香は嬉しくなっていた。愛香流リア充の心得······人に対して元気に笑顔で接すること! を実践した結果は上々だったのかな? と思ったからだ。


 流石リア充の心得...これからは勇者の心得と改めるようにしよう。とも思っていた。


 「でですよ! 勇者として、これから何をすればいいんでしょうか?」


 「勇者として······ですか。············もちろん私たちがお願いさせていただきたいことはたくさんあるのですが、まずは私たちの世界が守るに値するものであるのかを判断してもらうことを考えていました」


 そういい深々と頭を下げたクーシャに対して手をぶんぶんと振りながら愛香は答える。


 「あはは······そんなそんな。なんとなく大変なんだなーっていうのは伝わってきましたし、私でよければいくらでもお手伝いさせていただきますよ!」


 「そういっていただけるのはありがたいのですが······」


 クーシャは答えに困った。実際勇者様にやっていただきたいことはたくさんあるのだが、今この場で答えることになるであろうと用意していたこともまた、たくさんあったからだ。


 なぜ私が勇者として面倒なことをしなければならないのか! とか、報酬はあるのか! とか、元の世界には戻れるのか! ······とか、こんな事態に巻き込まれたら自分のあり方に対する質問をまずするのが普通ではないだろうか? 彼女は思う。


 しかし愛香は召喚されたときも、今も、ただ勇者として何をすべきであるかしか聞いて来ない。その行動は勇者らしいといえば勇者らしいものであると感じるし、助けを求めた私たちにはとても有難いことではあるのだけれども。なんだか正直――――――


 少し気味が悪い。クーシャはごくりと唾を飲み込んだ。むしろ黄金や地位を分かりやすく求めてきてくれる人だったほうが楽であるのに······。


 彼女はぱっと見ただの少女で、朗らかに笑顔を向けてくれるところからはきっといい人なのだろうな、という雰囲気も伝わってくる。だが、異世界でもっとも強い力を持つものとして私たちに召喚されて存在であるのだ。彼女の言葉にそのまま甘えて気を抜いた応答をしてしまってはどうなるのかわからない。彼女は思考を巡らせていた。


 ······まあなぜ愛香がこの環境で不気味なくらい明るく振る舞えているのは異世界転生というシチュエーションと根暗ぼっちオタクの自分がこんな人に頼られることになるなんて! という気持ちで高ぶっているからというだけなのだが。


 「······その事については、また明日にしましょう。愛香様のお体もまだ痛むでしょうし、実はもう日も落ちている時間ですので」


 ひとまずクーシャは回答を先送りにすることにした。また明日、エミクスを交えて話をしようと。私が変に答えるよりは族長である父に話してもらった方がいいだろうと。


 「あ、私が気絶してる間にそんなに時間がたってたんですね。」


 確かに眠いかも······。ふぁぁーあと愛香は大きくあくびをした。寝ていたのと同義であった彼女だが、染み付いた生活リズムはまだ睡眠を求めているようだ。


 「何をすべきか! って言うのは早く知っておきたいところではありますが、確かにそんなに焦ってもしょうがないですかね~」


 「いえいえ、突然こんなことに巻き込んでしまってしまったと言うのに不安な様子を見せて焦らせてしまって大変申し訳ないと思っています」


 ではまた明日、退出するクーシャに愛香は手を振った。やがてぱたんとドアの閉じる音と同時に愛香はぽすんとベッドに体を倒す。


 いやー異世界か~! これからどうなっていくのかなぁ~~!!! と頭の中でこの作品ではこうだっけ、あの作品では~と色々と思いを馳せていた彼女であったが、気が抜けたのか急に訪れた眠気にいつの間にか眠りについていた。

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