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3.すっごい魔法


 神殿を出て、とことこと彼らについていく愛香はそういえばと今さら気づいた。寝ていたはずなのによく見たらその服装はパジャマではなく明日から着ることになっていた高校の制服であることに。


 それも愛香がリア充っぽさを研究してリア充っぽくこうしていくぞと決めていたように、下品さを感じさせない程度に程よく着崩ずした感じにもなってた。(恥ずかしいけどこれくらいなら我慢できる! という短さに仕上げられているスカートなどなど)


 髪の毛に手をやれば寝癖もついておらずさらっと指をすり抜け、セミロングにぴょこっと出たサイドテールもきちんとセットされている。


 ――――――神様の気配りかなんでかは分からないけど、高校デビューのための私かわいい! の完璧な格好となっている······これなら異世界でも恥ずかしくない!


 彼女の風貌は実際第三者から見てもとてもかわいらしく仕上がっており、いわゆる「リア充」、少なくとも「根暗ぼっちオタク」には見えないものであった。それでもなれない格好と本当に大丈夫かなという不安できょろきょろと辺りを見渡していたところでクーシャと目が合い、微笑みられかけて愛香は顔を赤くしてしまったが。




 やがて、村を抜けたところの大きな広場の様なところに着いた。後ろを見ると先ほど建物の中にいたエルフたちも遠くから眺めているのが見える。

 広場の中心で足を止めたエミクスは愛香に問いかける。


 「愛香様は魔法をご存知ですか?」


 「魔法ですか! ······なんとなく知ってはいますが実際には見たことはないですね!!!」


 なんとなく知ってるって言っちゃったけど漫画とかで知ってるだけで本当にあるもんだとは思っていなかったけども! とか思いながらもエミクスのいう魔法という言葉に興奮を押さえられなかった愛香はふんすふんすと鼻息を荒げてテンション高めに答えた。


 「なるほど······。伝説の通りですね。勇者様の世界では魔法は存在しないがこの世界では私たちエルフよりも上手に魔法を扱うという」


 「そのようですね。愛香様、安心してください。あなたには分からないかもしれませんが、その漂う魔力量からとてつもない力をお持ちであることは私たちには分かっているので。クーシャ」


 「はい!」


 エミクスがクーシャに呼び掛けると、彼女は両手を空に掲げ、唱えた。


 「――――――ウインドブラスト!」


 突如として空気が歪むように風が巻き起こり······消えた。

 今は空に向けて打ったが、その勢いを見るに木に向けて打ったとしたら軽々となぎ倒せるほどであると感じられた。


 「しゅ···しゅっごぉぉぉぉぃ······」


 目をキラキラさせて愛香は呟く。

 今の興奮で愛香村のリア充側20人がオタク側に流れたが、残る50人の頑張りでどうにかその興奮を押さえたようだ。(いやでもこんなのオタクじゃなくても興奮するでしょ?と思わなくもないがリア充になることを生きる目的としていた彼女は魔法というオタク的要素で興奮したくないという気持ちが強かったので気づかなかった)


 すぅーっ、はぁーっ······と気持ちを落ち着けるための深呼吸。そして愛香は言う。


 「わ、私も同じようにやってみればいいんでしょうか······!?」


 こくんと頷いたエミクスとクーシャをみて、愛香はおずおずと手を空に掲げる。では······と1度小さく息を吸い、叫んだ。


 「う、うぃんどぶらすとぉぉぉ!」


 高校デビューに向けて行っていた発声練習の甲斐もあってか綺麗な声が辺りに響く。


 ············そして静寂。あれ、なにも起こらないじゃないですかー、と愛香の顔が赤くなる前に、それは起こった。


 びゅおおおおおおおおお! とクーシャの魔法とは比べ物にならないほどの風が吹く。先ほどのように木を打ち倒すような一点に固まったようなものではないが、木を吹き飛ばすであろう台風のような風が、愛香中心に巻き起こる。


 周りにいたエミクスとクーシャは身を掲げてその風に抗う。

 しかし愛香は······自分の風に抗うことができずに空に舞い上がったてしまった。


 「しゅ、しゅ······しゅごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 台風のなかで愛香は叫ぶ、笑いながら。

 愛香村の残る50人もリア充愛香もこの状況に流された。(オタクじゃなくてもこんなの盛り上がるでしょと気づき、むしろこういうのでうぇいうぇいするのがリア充では! となっていたのでどちらかというと全ての愛香がひとつになったという方が近いか)


 「あはははは!!!」


 ······久遠愛香は根暗ぼっちオタクであり、こんな風に大声で笑うことは今まで生きてきて数えるほどもなかった。彼女が高校デビューを目指していた理由もこんな風に、思いっきり笑いたいからという部分もあったのだ。


 ――――――だから、こんな楽しい気持ちを与えてくれたこの世界のために、出来るだけ頑張ってみるかという気持ちになったのであった。


 こうして愛香の異世界デビューは始まったのである。


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