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2.つまりはどういうことですか?


 「······異世界ですか」


 愛香は言う。


 「はい、異世界です」


 彼、エミクスは答える。


 いやどんな会話だよ! とちょっと笑ってしまった愛香に対して、エミクスも他のエルフと比べるとちょっと濃い(ダンディというべきか)その顔に、それでも爽やかに笑みを浮かべて答えた。


 「なんといいますか、あまり混乱なされないのですね。私の方がどうにも緊張してしまっています」


 「いえ、そんなことはないというか······混乱することもできないほど状況が分からないというか」


 口ではそういう愛香であったが、本心は違った。もともと超のつくコミュ障であった愛香が本来戦うはずだったのは高校で待ち構えている根っからのリア充たちであり、そのイメージはあまりに、あまりに!!! 愛香にとって強大なものであった。


 だから、あれなんか異世界っていっても意外と大したことない? みたいに思ってしまっていたのだ。少なくとも、この時点で愛香はそう感じていた。


 「それはそうですね······申し訳ございません。それでは早速ではありますが、なぜ私たちがあなたを召喚しなければならなかったか説明させていただきます」


 そうエミクスはいうとちらりと隣にいた女性、クーシャに目配せをした。


 クーシャと呼ばれた彼女は流れ落ちる水のような自然な動作で頭を下げ、ゆっくりと顔を上げた。


 彼女もまたエルフらしく美しい顔立ちであり、それに加え身に纏う薄緑色に透き通るような美しいドレスと動作の一つ一つから感じられる高貴さから、愛香はコミュ障スキルがひとつ、"美男美女怖い"を発動しそうになったが――――――でもあんなに美しい人よりも胸は自分の方が大きいし······! と謎の持ち直してクーシャに対しても微笑みを向けた。


 (以後エルフの容姿が美麗であることは語らないこととする。りんごが木から落ちるように当たり前のことなんだなと愛香が気づいたため)



 ······クーシャは説明を始めた。


 この世界は復活した災厄によって滅ぼされようとしていること。自分達ではそれに立ち向かえる力がないこと。そして対抗手段として異世界からもっとも強い力を持つものを召喚しようとした結果、愛香が呼び出されたことを。



――――――――――――

――――――

 

 なるほど、つまりよくある異世界召喚ものかー、オタクである愛香は思った。


 ······ん、異世界召喚もの!?!?


 いや、いきなり「異世界です」って言われてはいたからそれはそうとは知っていたけども! こうして改めて聞いてみると、オタク的にめちゃめちゃ高まるべき状況なのでは!?!?


 もっとも強い力を持つものが自分、っていうところはなんとも想像はつかなかったけど、つまり最強ってことでしょ! なんだか急にオタク心がワクワクしてきた! と心の中の100人の愛香村の30人くらいがわちゃわちゃと騒ぎだす。


 だが騒ぎだすオタク愛香たちは今や少数勢力。残る70人の高校デビューのために産み出されたリア充(になる予定の)愛香たちは未だクールであった。


 「あの、いくつか質問させていただきたいのですが...?」


 「はい、もちろんでございます」


 うーん、気になるのは今のところとりあえず3つかな。


 災厄とはなんなのか、私以外にも異世界からの召喚されたものはいるのか、そして私はどのくらい強いのか! ······かな?


 ひとつひとつ、愛香は質問していくことにした。


 「まず、災厄についてですが······」


 クーシャは答える。


 「正直に申しますと、具体的に何を打ち倒せばいいのか分かってはいないのです。しかし、ある日を境に多発する災害、活発化し始めた魔物たち······伝説ではこの後に災厄が復活し、世界は闇に覆われるとあるのです。お恥ずかしい話ですが、現状はただ災厄の復活に怯えているのが現状です。もちろん増えた魔物を駆逐しつつ戦力の増強等に努めてはいますが······」


 伝説に残されるような災厄の復活かー、なるほど······。愛香は思う。なんとなく思いつくのはやっぱり魔王とか? あとは······うーん、正直なんでありな世界ならいろいろ思いつくし、具体的な想像はあとでいいか。


 「分かりました、その伝説についてあとで詳しい説明をお願いいたします」


 もちろんです、と答えたクーシャは続ける。


 「あとは私たち······エルフ以外の種族ともこれまでは友好的な関係が続いていたのですが災厄復活の状況を迎えていざこざがあり、今は·······」


 呟くクーシャから漂う悲壮感からはすでに異世界からの存在に頼らなければならない状況であることが感じられる。


 「次に他の異世界人についてですが、今は恐らく勇者様だけであると思われます。他種族も召喚を行おうとしている可能性はありますが、精霊との交流がもっとも盛んなエルフを先んずる種族はいないでしょう」


 そう言い切った彼女の口調は、自らがエルフであることに対する誇りのようなものが感じられた。


 それにしても勇者様か······。

 どうにもむず痒いなと愛香は思う。


 「あー、すみません。私は久遠愛香です。······愛香でお願いします」


 「······失礼いたしました。では、愛香様」


 愛香様か······それでもむず痒いけども、様が外れないのは立場的にはしょうがないかな? とひとまず妥協することにする。


 「そうですね、それでお願いします」


 愛香の言葉にクーシャとその周りのエルフたちは深く頭を下げた。


 「続けますが、私たちも必要な魔力が整い次第もう一度召喚を試みようと思っております。3ヶ月後にもう一度。どうしても世界への付加が大きい魔法となるため、私たちの国ではその方を含めた2名を勇者様として迎えさせていただこうと思っています」


 ふむ、二人だけで魔王と戦うっていうのは寂しいというかなんとなくイメージと違うし、他の種族に召喚された勇者と共闘することになるのかな? もしくはこの世界の英雄的な人たちと一緒になるとか。


 世界への負担ってのはよく分からないけどそういうものなのだろう。他の種族は別にできるように聞こえるし、地域単位でなにか問題がある······とかかな。


 なるほどと愛香は答える。


 「では他の種族のほうで勇者が召喚されている場合、どうにか共闘を申し出たいところですね」


 「そうですね、先ほども少し申しましたように他種族との関係がよくない状況ではございますが······」


 「そこは勇者として頑張らせていただきますよ!」


 「······それは、頼もしい限りでございます。愛香様」


 前途は多難なようだがむしろコミュ障を克服したことを証明するチャンス! と、愛香は謎に前向きであった。


 「最後に愛香様がどれくらい強いか、でしたか」


 それは実際に見ていただくのが一番でしょうと、クーシャは愛香を外に誘い、エミクスがそれに続いた。


 勇者と話す立場なんだからこの二人はエルフの国での王様女王様みたいな感じなのかな? 愛香は二人を眺めながら外へ出た。

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