14.そんなやり方ってあります?
「ほへぇ~~~」
1面に広がる草原に愛香は間の抜けるような感嘆の声をあげていた。
魔物狩りのためにフェイスレスと共に四人が転移した先は草原であった。辺り一面には薄緑色広がっているが遠くに目をやれば鬱蒼と生い茂る森が見受けられ、反対側に目をやれば街のようなものが目につく。またぽつぽつとではあるが、狼のような動物が草原を動き回っていた。それを愛香が指差す。
「あ、あれが魔獣ですか?」
「そうね。今はだいぶ数が減っているみたいだけどあの何匹かは魔獣かな?」
「何匹か? 全部じゃないんですか?」
何匹かってどういうことだろう。私の知っているような、いわゆる普通の動物も混じってるってこと?
「正獣との違いが分からないと言うことか? それならば人に快楽のために襲いかかるのが魔獣、生きるために襲いかかるのが正獣だ」
愛香心を読んだかのようにフェイスレスが答えた言葉に、なるほどと愛香が頷く。
せいじゅうっていうのがこの世界の普通の動物の呼び方ってことなのかな。ゲームとかだと意識することないけど確かに言われてみればそういうものなの······かな?
「そういうものなんですね······。なんと言うか、人に好んで襲いかかるようなのが普通の正獣?と共存しているって言うのはなんとなく違和感がありますけど」
「······漂う世界の魔力を喰らって生きるのが、奴らが魔獣と呼ばれる由縁だ。生きるのに快楽以外を必要としない奴らは正獣を襲うことはない。退屈だからな」
「つまり人間を襲う理由は······反撃してくるのが楽しいからってことですか?」
「······まあ、奴らと会話を会話を交わしたことがあるわけではないが。そう言われている」
弱肉強食、食物連鎖なんて言葉があるように私の世界では"食べる"ということを前提に動物の世界が成り立っているけど、魔獣っていうのはそれ必要としない······。飢えることのない生活を送ってきた私が漫画とかゲームとかを生きることの目的にしてきた娯楽が魔獣たちにとって人を襲うってことなのか。
······こう例えるとなんかもにゅもにゅするけど、魔獣が討伐される理由は分かったかも。
ってあれ? 当たり前に話してたけど、なんかおかしいような······?
愛香が何か違和感を覚えたのとほぼ同時に、クーシェが愛香を庇うように自分の体に抱き寄せた。いつの間にかグレイも腰につけていた剣を抜き、目付きを鋭くしてフェイスレスに向けて身構えている。
「――――――説明してもらったのはありがたいが、そんなこの世界に生きていたら当たり前のように知ってることを教えてくれるって言うのはなんかおかしいってこと気づいているか? 顔なしさん!」
「ええ、まるで彼女が別世界から来ているかのような話ぶりですね」
突然抱き寄せられてわわわっと顔を赤くしていた愛香もそこで違和感の正体に気づく。確かにさきほど会ったばかりで自分が勇者であることを教えていないはずの彼が、まるで全てを知っているかのように説明を行ったことのおかしさに。
魔獣狩りに来たはずなのに全く別のことで訪れたこの緊張に、愛香はクーシェからどくどくと伝わる心臓の鼓動を聞いてその不安を落ち着けていた。
何故彼がそれを知っていたのか。そんな視線を三人から向けられた彼の表情は仮面に隠されていて分からない。だが失言をしてしまったことに気づいたように息を吐くと、フェイスレスは背を向けてゆっくりと歩きだした。
やがて十分に距離をとったところで向きなおすと、こほんこほんと咳払いをして口を開く。
「できるだけ隠しておくつもりだったんだが、こんなに早く気づかれてしまうとはな。自分の頭が悪いことは自覚していたがなんというか······」
「彼女が······彼女のことを知って近づいてきたと?」
「こっちはあんたがよく分からないやつだってことしか知らないって言うのにな。目的くらいは話してくれる気はあるのか?」
距離をとり、ただ立っているだけのフェイスレスに対してクーシェとグレイは身構え続ける。二人は恐れていた。少し腕の立つ冒険者であれ知らないものはいないほどに名を知られたパーティを組んでいた彼らからこそ、一人で魔物を狩り続けていたという彼がどんな存在であるのかは分かっていた。
先ほどはそんな彼が共に災厄と戦おうと冒険者の身の置いてくれるのであれば心強いものであろうと感じていただけだったが、そんな彼が悪意を持って向かって来るのであれば、自分たち二人で立ち向かうことが出来るのであろうかと。
愛香は先ほど冒険者ポータルで感じたように、やはり不思議とフェイスレスから怖さを感じてはいなかったが、その雰囲気に体を固めていた。
「そうだな、確かに俺は彼女が勇者であることを知っている。力を求めて名も顔も捨てた俺の目的と言えば―――――」
言いながらフェイスレスは背中にある剣を下ろす。その行為から伝わってくるような目的に対し、グレイはいよいよ本格的に剣を構えた。
――――――行くべきか否か。力を求めるものの目的、勇者の力がどんなものか知りたいってところか? 分からない訳じゃない。実際俺も勇者の力ってものまだ実際に見た訳じゃないし冒険者として、武人として興味はある。でも世界がこんな状況だって言うのにバカじゃないのか!? しかしそんな気持ちをぶつけにいって俺が勝てるのか? 俺も腕には自信があるつもりだが、仲間から聞いていた話でも実際に対面してみても絶対に勝てるっていう気持ちは確かにしない。行くべき否か――――――
刃を向けて思考を堂々巡りするグレイを見ても、フェイスレスは剣を下ろしこそすれど構えることはなかった。近づくこともない。ただ口元を不器用に歪ませた後、とんとんと剣先で地面を小突いた。
かかってこい、そう言っているかのようなその音にグレイは飛び出さざるを得なかった。
対話はできないと判断したのか、バカにされたと感じたのか、自分で気づくこと間もなく、クーシェが割り込む暇もなく、地面を蹴る。
「オオオオッ――――――!」
剣が振り下ろされる。
――――――ガキン。自らの声をかきけすように金属と金属がぶつかった音が響く。
しかしグレイに驚きはない。ただ剣と剣がぶつかっただけだ、あの重そうな剣を即座に合わせてきたのは感じた雰囲気通り流石だとは思うが今すべきは感心ではなく一度下がって体制を整えることだ。
弾かれた剣を握り直し向き直る。
しかしそこでグレイは驚き目を丸くした。
――――――フェイスレスが剣を捨て、手を上げていたからだ。
「どうだ? 見ての通り、そこそこ腕が立つものでな。勇者様の力になろうと思った訳だ」
「「「······は?」」」
殺伐とした雰囲気を壊すように、そもそもそんなものがなかったようにいい放ったフェイスレスの言葉に、三人は魔の抜けた声をあげた。




