1.目が覚めたら異世界
「ようこそお越しくださいました、勇者様!」
······その言葉を受け、彼女はぱちぱちぱちぱちと何度もまばたきをした。
ぐるりと回って周りを見渡してみれば、石造りの壁に囲まれた空間は大勢の人で溢れ、天窓から差し込む光が彼らは金色の髪を照らしていた。よくみるとその耳は長く、金髪長耳という特徴からファンタジー作品でよくみるエルフを思わせる。彼らは祈るように胸の前に手を組み、彼女に目を向けていた。
後ろにあるのは祭壇だろうか? その中央に置かれた杯は自らが正なるものであることを主張するかのようにまた光輝いており、その中は真っ赤な何かで満たされていた。
十字架こそ見当たらないがここは神殿?教会? 勇者と呼ばれた彼女は思う。少なくとも、彼女が今まで生活をしてきた中で見たこともない光景であったことは確かであった。
······周囲を見渡し終えた彼女は、ゆっくりと深呼吸をして始めに声をかけてきた人物に対して向き直る。
「ここは······どこでしょうか?」
正直なにがなんだか分かっていない彼女ではあるが、それでその口調はそれを感じさせないはっきりとしたものであった。そうさせたのは夢であるのであろうということが一点、そして彼女の今までしてきた努力の成果というのが一点だろう。
そう彼女――――――久遠愛香はこれまで並々ならぬ努力をしてきていたのだ。来るべき高校デビューに向けて!
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中学時代、根暗ぼっちオタクであった彼女は2年度の中頃にあったとある出来事を期に――やっぱり人と仲良くなりたい! と思い立ち、「高校からは絶対リア充になって見せる!」と努力を始めたのだった。
いままでは机に突っ伏していて寝た振りをしていた学校での休み時間ももくもくと勉強を続け(結局友達いなくて他にすることないからでしょ?と思われてるんだろうなぁ......と思いつつも!)
放課後は好きだった漫画アニメゲームを最低限に押さえつつ(完全に止めることはできなかった、なぜなら彼女はオタクなので!)、はきはきしゃべるための発声練習、鏡の前での笑顔の練習、自己啓発本の読書、流行の衣服チェックに化粧の練習etcetc...と思い浮かぶ限りの自分を変えるための全てに着手してきた。(自分でも効果あるのかな?と思うものに対してもくじけることなく!)
そして勉強の甲斐もあり自分を知ってる人は来ないであろう超難関高に合格を決め、卒業間際にはご近所さんにどもらずに「こんにちは!」もできるようになり、自分で鏡をみても「あれ、私ってかわいいのでは?」と思えるほどになっていた······。
そう、彼女の高校デビュー計画は完璧であったのだ!
ついに高校入学式前日、これまでの努力から新生活に何にも不安を思うこともなくぐっすりと床についた愛香であったが目を覚まして見ればそこは······。
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「ここは一言でいうと、異世界でございます。勇者様」
なんと異世界であった。
そもそも勇者ってなんですか?そう思いつつも、愛香はにこりと高校デビューに備えて培ったかわいらしい笑顔で返すことに成功していた。
うーん、昔の自分を知ってる人に絶対に会わないわけだし、異世界デビューもありかな······とか考えながら。
処女作なので拙いとこ多々あると思いますがよろしくお願いします。
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