その9
さて、あの後幾ばくかのいざこざはあったものの、無事に自分はクレハ一行を連れてジートライから出発。
途中、単調な宇宙の旅が暇すぎて、クレハや侍女が口がうるさかったりこっちの宇宙船に飛び乗ってくるハプニングはあったものの、おおむね道中は平和であり、何事もなく新地球(命名・義娘)へと帰還することができた。
「おかえりなさい!マスター!!」
「はっふ!はふはふはっふ~~♪♪」
「おみやげ~~おみやげ!!」
そうして、帰ってくるとともにこちらにある意味では自分の子供ともいえる和牛人間たちが駆け寄ってくる。
その無邪気だったり好意的な態度はこちらの心を温かくする。
が、それと同時に、どこか池魚故淵ともいうべきか、どうしようもない寂しさとノスタルジーの両方を感じてしまうのも事実だ。
そうなのだ、自分はまだこの新地球には完全になじんでいなかった。
おそらく、これは自分と和牛人間たちとの根底の意識の違いからによるものなのだろう。
なぜなら、和牛人間達にとってみればここは生まれた土地であり故郷、なじみ深い場所なのであろう。
しかし、自分にとってはこの新地球はいまだに開拓地であり新居なのだ。
それ以外にも、和牛人間たちはかなり人間には似ているものの人間ではない、ここで出てくる食べ物と地球の食べ物の似ているが故に明らかに違いがわかってしまう味など。
いうなれば、友人の家で振舞われた味噌汁ともいうべきか、なんとも言い難い居心地の悪さを感じる事が本音であった。
「わふっ?大丈夫でふか?」
「わっふ!新しいソーセージで来た~!!新作新作♪」
「ぼ、僕は男の娘ですけど、愛してくれますか?」
しかし、それでも彼彼女らはこちらに積極的に接してきてくれる。
ある時は冗談を交えたり、ある時は子供の様に、またある時は親友やまるで恋する異性のようにだ。
自分としては彼女らのそんな行動のうち、何割かが打算によるものや演技であることは十分に理解はしている。
しかし、それでも彼女らの自分をここに馴染ませようとしてくれる誠意ははっきりと感じていることができた。
だから自分もいつの日か彼彼女たちの誠意にこたえられるよう、自分もこの新地球を第二の故郷と思えるように頑張ろうと思っていた。
‥‥そう、思っていたのだが‥‥
「ほお〜!!ここが温血の現在の拠点星か!
うむうむ、空気は綺麗だし、気温も快適!!殊更に危険な生き物もない事を考えて、実にいい星ではないかぁ!!」
「ムムム!!食事だとぉ?
ふっふっふっ、余は食事に関しては少〜しうるさいぞ〜?
そんな余をそう簡単に満足させることができるとでも‥‥うっま〜〜〜い!!なにこれ、すっごく美味しいぞ!!
これはなんだ!!‥‥ほうほう、この有機物はこの星オリジナルの有機物作物と!!
いやー!!嬉しいな!!これ、余の実家にも持って帰れない?ついでにシェフも!!
えっ、ダメ?そんなー」
「おおっ!!虫取りとな!!そういう事なら余も参加するぞ〜!!
どうせならば、みんなで大会にしようではないか!!そう、虫取り大会!!
一番でかいのを捕まえたやつが優勝だ!!」
「ふっふっふ、天体観測ならば我を呼ぶがいい!!
この星名検定準2級クレハがこの銀河のありとあらゆる惑星恒星をずずいと紹介してやろう!!
なんなら、一般教科データになっていない銀河帝国のあれやこれや付きでだ!
今夜は夜更かしパジャマパーティだ!!」
なんでこいつは初来星であるはずなのにかかわらず、到着数日でこの新地球に馴染んでるんですかねぇ?
しかも地球人の食事や娯楽にも適応するだけではなく、自分よりも数倍以上満喫してるのは宇宙人としてどうなんだ。
「む?どうした温血?無表情でこちらに近づいて?
お主も我が銀河帝国の素晴らしい歴史について聞きたいか?
おお!それともいわゆる真面目なお話、告白というやつか!無論ヨロコンデ……
て、ぬおおぉぉ!!アタタタタだ!!
ちょ、温血!!そっちからスキンシップしてくれるのは嬉しいがいささか過激すぎて、ぬおおぉぉぉ!!!
つらい!!温血からの愛が痛い!!のおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「はわわわわわわ!!」
「は、はふっ!!それ以上いけない!!」
「……ふむ、これが有機生命体特有の理不尽な衝動的矛盾行動の一つ。
いわゆる嫉妬というやつですか、なかなかに興味深いですが私には理解できないものですね」
ESPを使用しながら複数の関節技をきめつつ、彼女と自分へと群がる和牛人間たちとすっかり違和感なく人型形態に変形できるようになってしまったクレハに対して何とも言えない気持ちになるのであった。
「で、結局この和牛人間たちのESPの結果はどうなった」
「言わずともわかってるでしょう。
テレパス以外のESPは大体一般的帝国民程度。
【テレパス】に限っては、詰めるだけ全部測定器を持ってきましたがどれでも測定不能。
かろうじて、【テレパス】能力ありということしかわかりませんでしたよ~」
さて、新地球に到着から数か月、和牛人間たち全員へのESP能力検査は一通り終わった。
が、結局はこの和牛人間のESP能力はだいたいは、ジートライで検査した義娘たちと大まかには変化なしということが分かった。
つまりはどの個体でもテレパシー以外は帝国民平均、なぜかテレパシー能力のみ検査困難といった具合である。
「……まー、大体想像済みだけどよ。
せめて、一人くらいは検査装置で検出できればよかったのにな。
それに、あくまで星系外でのテレパシーは義娘ぐらいしかできないみたいではあるし。
残りの和牛人間たちはよくてランク3、4程度だからな、ESP能力による一般帝国民入りは無理か」
「……私としてはお嬢様のはしゃぎっぷりを見ていると、検査できなくて正解だった気がしますけどね。
正直全員がランク3以上のテレパシー能力でもかなり危ういですよ。
それこそ、この子たちの存在を下手に外に持ち出さない方がいい程度には」
クレハの侍女はなぜかやけに真剣な表情でこちらに向けて指をさしながらそう警告してくる。
「いや、無論言われずともそうするつもりだが……
言うほどやばいものか?今の銀河帝国にとってみれば所詮はランク3のテレパシー能力なんて大体において通信具の類で代用できるだろ。
無論、訓練すればそれなりの使い手になる保証付きなのは大きいけど、こいつらの繁殖方は普通の交尾と妊娠だぞ、産卵でもない限り爆発的に人口が増やすのは困難。
複製機を使って増やすとしてもどう考えてもそのコストを通信機増産に回した方がいいだろ」
「……温血様は実に理性的で優しく恵まれている方なのですが、そう思うでしょうけどね~。
この銀河にはそう言う判断の出来ないアホな奴や切羽詰まった奴なんてのははき捨てるほどいますからね~。
それこそ、その辺の事情は私なんかよりも、いくつもの星を渡ってきた星屑である温血様の方がよく理解してると思いますよ〜?」
「……あー……うん、了解」
この侍女の言いたいことはなんとなく理解できた。
そもそも星屑ギルドにおいて、頻繁に現れる依頼の一つに運搬や販売、採取などがあるが、その中で比較的よくみるのが【珍しい生き物が欲しい】とか【食べたらESP能力が上昇しそうな生き物をくれ】なんて、ずいぶんと雑な依頼だ。
無論そんな雑な依頼など受けるやつは滅多にいないがそれでも一定層いるのが現実だ。
で、もし仮にそんな依頼を受けている星屑が、このまだ帝国民登録されていない和牛人間を見たらどうなるか?
そんなもの、火を見るよりも明らかである。
「……ま、なればこそさっさと帝国民登録をしたかったんだが、世の中そうそう上手くいかない……か。
寧ろ、下手に検査してテレパシー以外があまり高くない事が判明した今の方が危ないかもしれんくらいだな。
ならばやっぱり、今からでも1500万分集めなきゃならないか」
「そう言う話になりますね〜♪
でももし本当にどうしようもなくなった際は是非私に教えてくださいね〜♪
そうすれば和牛人間の娘たちを高く売る最適ルートをご紹介できますからね〜♪
例えば、新しい製薬会社なんてどうでしょう?」
「今の話の流れで、どうしてお前に売ると思った?
というか、その製薬会社の依頼って食べただけでESP能力上昇薬の材料になりそうな生き物を取ってこいって依頼だろ、だまされんぞ」
「テヘペル★」
かくして、色々と議論した結果、折角新地球に帰って間もないのに、新しい金になりそうな依頼を求めて、星屑としてまたあの広すぎる宇宙と言う名の大海原に旅立たなければいけなくなってしまったであったとさ。
一応は和牛人間たちの健康診断も終わったし衣料品や消耗品の類もすでに補給も新地球側もこちら側も十分に終わったので当面の心配ごとは無くなったし、そもそも自分は星屑である、本来ならば、自分は宇宙をさすらう何でも屋なのだ。
「はわ!はわわわわわ!!!」
「ふわぅぅ……も、もう行っちゃうマスター?もっとここに居てよ!」
「はふっ!!お願いですマスター!どうか私も一緒に連れってってくださ……え!だめ!!ふわうぅ……」
無論、多くの和牛人間達にそれを伝えた時はそれを嫌がったり、明らかな引き留めにかかってきた。
それでもこれは自分のアイデンティティーでもある上に、この問題は彼彼女らも大事な事だとわかっていたのであろう。
説得すれば、和牛人間達はきちんと数日後に行われる出稼ぎと離星を快く納得してくれたのだ。
そう、これはあくまで和牛人間達が認めてくれたのである。
「……やだ。
やだやだやだやだやだぁあああ!!!!!!!!!!!!!!
余はまだここにいるのぉぉぉぉ!!!!
まだまだ遊び足りないのぉぉぉ!!!!
まだ帰りたくないの!!余は一生ここにいたいのぉぉぉ!!!」」
「おい」
「おい」
「はわ、はわわわわわわわわ」
そう言いながら、地面に転がり全力でクレハだけはどんなに理由を説明しても、帰還を拒否し続けていたのであった。
「お嬢様、おバカなこと言ってないで帰りますよ~。
そもそも今回クレハ様の外出がこれほど長くなったのも予定外ことなんですよ~~?
それにほら、お爺様含め従姉妹兄妹やジートライの皆さんも心配しているだろうし帰りますよ~?」
「やだ!!というか、あいつらが余のことを心配しているわけがないだろ!!
いい加減にしろ!」
「というか、クレハ様はなぜ今回この惑星に来たのですか?
ESP検査の協力目的と事前の証言ではおっしゃられておりましたが、現在までのクレハ様のこの惑星での行動記録を見るに、大体がそれとは関係ない行動しかしていないと思われます。
正直に言えば、サーヤ様さえくればクレハ様がここに来る必要は微塵もなかったのでは?」
「ひどいっ!!」
「そういうわけで、さっさと諦めて帰るぞ。
……、っておっも!!何さらっと重力制御装置をいじってんだ!!
くっそ、重すぎて地面にめり込んでやがる!!少しは加減しろ!!」
「はわわ、はわわわわわ!!!」
「マスター、悲報です。
地味にこのクレハ様はいい機臓とナノマシンを搭載している為、強制テレポートは厳しそうです」
なお、クレハの抵抗はかなりの物であり、物理的にはまず重機を使わないと厳しく、さらに言えば本人の力も強い故、ただの重機では逆に持ち上げられてしまう。
そのうえ、睡眠薬や毒の類は当然効果がないし、ESPだって高級ナノマシン特有のジャマー装置が搭載されており、強制的な念動や瞬間移動の類は無効化されてしまう。
無論口での説得はご覧の通りまるで聞こうともしない。
割と八方塞りである。
「というか、温血よ、レディーたる余に重いとか言うのは不快であるぞ!!
余も思わず大激怒、謝罪を要求する」
「あほか、別にお前は人間でもないのになんでそんなことで怒るんだよ。
ジートライでは別にそんな文化無かっただろ」
「ヘッヘーン!!余の心はもうこの新地球の民、いわゆる和人の一員である!!
ともあれば、ここは一和人のレディとして、怒る権利くらいはあるはずである!!そうであろう!!」
「この惑星の正式な所有者兼管理人としてとして、その意見を却下します。
といくわけでさっさと不法滞在者は帰れ」
「温血のケチーー!!
冷血ーー!!甲斐性無し〜〜!!」
なんでこいつは自分以上にこの星に馴染んでるんですかねえ‥‥?
故郷の星に帰れるだけ色んな意味で羨ましいのに、こんな発言をしてくるのは色々とこちらの心にくるので本当にやめていただきたい。
その後、数日間に渡りクレハの説得が続き、その結果出た結論がこうであった。
「と言うわけで!!!
余は依頼主として星屑《温血》に納品依頼として、リストに書かれた余の私物の回収と買い物を依頼する!!
成功報酬として3000万!
そして更に2000万追加でそれをこの新地球での今までの生活費と余を名誉和人として認める事為の料金として、5000万!!
更にその上今なら無料で余の1億相当以上の可愛いキスを受ける権利もプレゼントだ!これでどうだ!!」
「ちょっとなに言ってるかわかんないですね〜」
「‥‥奇遇だな、俺もだ」
しかし、泣く子と地頭には勝てぬと言うのはこの銀河でも共通の事実であり、ましてや今回の相手はその両方を兼ねたクレハである。
かくして自分等は色々な意味でその依頼を断ることが出来ず、結局その依頼を受ける流れになりましたとさ。
感想と誤字脱字報告ありがとうございます!
感想は本当に励みになります。