その11
自分は初めからこの依頼には嫌な予感しかしていなかった。
そもそもの話。この依頼の主は先の依頼で報酬をごまかしたクレハであるし、ここ連日のハプニングの原因は元をたどればクレハが原因なのだ。
普通に考えれば、二度あることは三度ある理論で今回も高確率で面倒ごとに巻き込まれるかもと考えてしまうのも当然の流れであろう。
無論、依頼を受けた後にこんなことを言うのはあまりに女々しすぎる。
が、それでも愚痴を言うくらいは許されると思うし、実際にその予感は依頼を受けて間もなく的中してしまったのであった。
しかも、1つではなく3つもである。
「よ~~し!というわけでぇ!
他の和人達の了解も得たし、温血も自分が留守の間のこの新地球の守りが不安であろう!
なればこそ、代わりに余がお主の外出中にこの星の和人代表として、きっちりこの星を守り切って見せるからな!
あ!ちゃんと荷物回収に必要な生体パスはきっちり渡しておくから安心しておくがいい!」
「そういうわけでしてね~~。
お嬢様がいかないのなら、侍女の私もそのそばを離れるわけにいかないんですよ~~♪
というわけですいませんね、ちゃんと私の分の滞在費等はお嬢様の家にある家財の2つや3つ位持ってくことで立て替えておいてくださいね~」
まず第一に今回の依頼はクレハ達を追い出す為に受けたのに、結局クレハをすぐさまに実家へ送還させる事が叶わなかった。
一応は依頼さえ達成すれば、ジートライへと帰ってくれると契約書まで使って約束させることは出来たが、それだってなんでこちらが不法滞在者に対して妥協しなければならないのであろうか?
「はふっはわわわわわわわ!!!」
「ひゃふ~~ひゃふ~~!!」
「ん、遅いぞマスター様、このままバレずに目的地にまでつくかと思ったぞ?
あ、それともお父様やパパ、それともオトンといった方がいいか?」
第二の厄介ごとは宇宙船に乗ってから数日で起こった。
なんと今回の航行には3人も和牛人間が密航していたのであった。
「え、えっとその、私はお父さんのお手伝いを少しでも出来たらと思って……」
「わ、私はミカちゃんの親友としてお手伝いのために乗りました!はふっ!」
「残念ながら、他の娘たちと違って私は単純な好奇心だぞ。
そもそもマスターは私たちのパパを名乗るなら、もっと私達愛娘を甘やかすべき。
だから、これくらいのわがままは許すべきだぞ」
密航方法はシンプルに家畜用の貨物室に羊や鶏などの食用家畜に紛れるというシンプルなものであった。
こっそり侵入する方法はいろいろあるとは思うが、それにしたってこれはお粗末すぎる方法ではなかろうか?
「……でも、そんな方法で実際に侵入されているお前は本当に大丈夫か?
流石にこれは真剣に故障を真面目に疑うレベルだぞ?」
「奇遇ですね、私もマスターの頭の病気を疑ってますよ。
だから言ったではないでしょうか、【貨物室にいつもと違う生物が侵入していますがよろしいですか?】と」
このポンコツ、必要ないときは貨物についた家畜についた微生物の一匹一匹全部報告しようとするくせに、やめろと言ったとたんにこのガバガバっぷりである。高性能すぎて涙が出そうだ。
一瞬、制御装置を外してでもこいつらを無理やり新地球に送り返そうと思ったが、すでにワープ航行を開始してしまっているし、引き返すには少々新地球とは距離が離れ過ぎている。
数日間悩んだのちに、まぁ今回の任務はそこまで危険なものでもないだろうという予想のもとで一緒に連れていくことにしたのであった。
そうして、最後にして最大の問題点の三つ目は実にシンプルだ。
―――なんと、本来荷物があるべきクレハの別荘が、瓦礫の山となっていた。
現場に到着しても思わず現実を受け止めきれず、何度か地図を見直したり、地域住民に話を聞いてみたが、どうやらあの瓦礫と硝煙の匂いあふれた廃墟が本当に元クレハの別荘であることは間違いないようだ。
いったい何があったらこうなるんだ。
「ヒャッハ~~!!!!そういう貴様は、あのクレハとやらの知り合いってことだなぁ!
おら!命が惜しくなければ、さっさとあいつがどこにいるか居場所を吐けぇ!
今なら首から下だけで勘弁してやるぞ!!」
「ゴバラァゴバァラ!こちとらブリザードの中での探索でむしゃくしゃしてんだ!
もういい!ぶち殺して、直接脳みそから情報をすすってやる!!死ね!!!」
「ん、情報ありがとうな、プレゼントどうぞ」
訂正、現地での初情報収集でさらにもう一つ厄介ごとが増えてしまった。
袖口から取り出した次元刀を素早く起動し正当防衛を開始、そのごろつきどもが引き金を引く前に素早く四肢や首を切り離した。
普通の人間ならこれで死ぬであろうが、こいつらは腐ってもごろつきや軍人崩れ、どいつもこいつも戦闘用肉体改造済みのようで、腕がもげたり首だけになろうと即死するようななまっちょろい奴はいなかったようだ。
そのせいで悲鳴やら怒号がうるさいのなんの。
『あら、今回は即死させないんですね、珍しい』
「子供の教育によろしくないだろ。
それに今は一つでも情報や金が欲しいからな」
賞金首なら生きたまま引き渡した方が高く引き取ってくれるし、殺すならいつでもできる。
しかし、よく見たらすでに半分くらいの暴漢たちが周りの極寒と磁気に切断面がさらされているせいで、どんどん重体から死にかけへと移行していた。
いや、別に無駄にこちらとしては無理に痛めつける気はなかったのだ、正直すまんかった。
本当ならもう少しここで情報収集をしたかったのだが、こうなっては仕方ないと気持ちを切り替えて、まだ生きている生首をいくつか回収する。
「……ま、それじゃ、そろそろ一旦離れるか。
おまえ……いや、ミカも適当に無理のない範囲で良さそうなパーツや武器を持ち帰っていいぞ~。
まぁ、どれも俺の一撃でも壊れてしまう程度の安物みたいだけど、どんなものでも使いようだからな。
この銃とかいい感じだぞ、2世代前だが帝国中央で正式採用されていた奴だ、威力は最低限はある上壊れても予備を探しやすい良い銃だな。
お土産には最適だ」
「はわ、はわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!!!!!!!」
義娘のミカが、おそらくは善意や倫理観からであろう、一人でも多くのバラバラごろつきを連れて帰ろうとする姿にわずかなほほえましさを感じる。
この娘、こんな顔をしながら新地球ではバリバリ生きたまま家畜を捌いたりしてるからこういうのも割り切ってくると思ったがそんなことはない、普通に人情派の優しい娘だと確信し、吹き荒れる霧爆風の中でもほっこりした。
それと同時に、こんな面倒ごとを引き起こした原因の、今は遠くの新地球でのんびりしている依頼主にたいして、心の中で再びボコろうと決意したであった。
「……というわけで依頼は終了、閉廷!
もう帰っていいよな」
「はひふっっ!?!?」
「はふーふー、まだ私達はまともなショッピング一つできてないぞ〜。
そんなんじゃ詐欺だ、謝罪と賠償を要求するー」
そんなこんなで現在は場所はうって変わって星屑ギルドの食堂。
本来なら食事やら話し合いは個室をとったり、素直に宇宙船に戻った方が数段治安やらプライバシーが守られるのだが、今回は愛娘達たっての願いでこちらで食事する事となった。
「あ、あのお父、いえ、マスター様!
結局今回の依頼はどうなるんですか?」
「どうもこうもないな、普通に依頼失敗&即帰還だ。
無論、言わずともわかると思うが、今回の自分が本来するべき依頼は只の輸送任務だったはずだ。
が、残念ながら今回はいろいろと不幸が重なって、おそらくはクレハの日ごろの行いの悪さのせいで、リストにあるクレハの私物は爆発四散済みの回収不可能になっていた。
さらに非公式ではあるものの、どうやらクレハは一部の集団から指名手配されているんだそうだ。
流石にこれ以上の任務続行は困難だし危険だ、早々に帰還した方がいいだろ」
この辺の海賊ギルドか軍閥に伝手があればなぁ、今回の輸送費位取り戻せるかな。
いや、でもクレハの別荘跡地にいたごろつきの質を考えると、あんまり賞金はよくなさそうだ。
などと、しょうもない考えができる程度には実に骨折り損な依頼ではあったが、それでも今回この依頼を受けてこのジートライに来たことで、一つ収穫を得ることができた。
そう、それは【クレハ】の別荘がいくつか爆破される程度にはジートライの治安が緊迫しているという事実を知ることができたことだ。。
ならば、もし自分の故郷がピンチだと【クレハ】はどうなる?
そう、おそらくは流石に帰還するべきであろう。
そもそもクレハは頭こそあれだが基本的には善人な人柄だ、そんな彼女がもし自分の領地や投資先の都市が襲撃されていると知ったら、流石にあんな骨抜きのんびり状態から少しは現実に引き戻されるであろう。
もしかしたら、それとは別に自分の家や持ち物が吹っ飛ばされているという状態に怒りをあらわにしてそのためにすぐに帰還を考えるかもしれない。
なにはともあれ、この情報さえきちんと伝えればいくらあのクレハでもちゃんと現実と向き合って、ジートライへと帰還してくれるはず。
「え、えっとね!お父さん。
その新地球にいる委員長とテレパシーを通してクレハさんに報告してみたけど……
どうやら、せめて回収出来るものを回収してくれなきゃ困るだって。
あと、治安が安定するまで、いや、できれば一生帰りたくないけどいいかな?だって」
なお、現実はそこまで甘くなかった模様。
いや、なんであんなにクレハが新地球に入れ込んでいるかを考えた場合、自ずとそんな可能性があるとは思ったものの嫌な方で自分の予想は当たってしまったようだ。
こんなことになるなら、そもそもクレハが新地球に来たいと言った段階で怪しむべきであった。
え?取引先の素性や状態ぐらいきちんと逐一把握しておけって?
無茶を言うな、こちとら基本は根無し草の星屑な上に、ここしばらくは新地球開発に掛かりつけだったのだ。
数年前までは普通の治安レベルだったのにどう気を付けろというのだ。
『というかですね、マスター。
このまま何もせずに帰るのは念油と時間の浪費のみでの大赤字です。
せめてクレハ様の家財の1つや2つ奪い返して横流ししなければ割に合いませんよ』
「……やべぇ、クッソ思った以上にめんどくさい事態だなこれ。
本当にクレハに最終手段になってもらうか?
……いや単なる冗談だ、その危険なものを見る表情でこちらを見るのはやめてくれマイ・ドーター」
ちょっと殺気が漏れたせいか、ミカの青ざめた顔に気が付き何とか落ち着けようとした。
しかし、どうやら話は自分の考えがばれたからではなく、もっと別の理由なようだ。
「い、いや、そういうのじゃなくて……
クレハさんからの伝言で、『無論、本当に余が原因でこの新地球や温血に迷惑をかけそうならいうがいい。その時は速やかに新地球の大地と完全融合して文字通り自我を消して土と海に還るから安心するがいい』という内容のが来て……
え、えっと、その、クレハさんは確かに色々変身ができるのはしってたけど、そういうことができるのはいろいろとすごいなって思って」
クレハ、お前は本当にこの星で何があったんだ?
生まれた星を捨てて、気に入っただけの星に入れ込み、あまつさえその星のためにダイナミック自殺予告ができるほどというのは重すぎるというレベルを超えて気持ち悪いレベルだぞ。
というか入れ込むにしても、なんで俺と新地球にそんなに入れ込む、味方に引き入れるならもっと引き入れるべき人がいるだろ、流石に巻き込まれの交通事故すぎてまともに事態の把握すらできんぞ。
「……なんかいろいろと疲れたけど、まぁ流石に手ぶらで帰るのもなんだ。
しばらくはあの別荘以外にあるクレハの私物をできる限り集める。
そうして、なんとか物を集めたうえで、何とか説得して、とっととこの星に帰ってもらう。
そういう流れで頑張ろうや」
あの後、遠く離れた惑星でのクレハの自殺未遂止めやら、任務の再確認やらでなぜかどっと疲れがたまったが、それでも結果的には自分のすることは変わらなかったのは幸いである。
ようは、今回の私物回収依頼は難易度が少々上がった、それだけの話だ。
そう、たとえどんなに背景が複雑であっても一介の星屑の自分には何の関係もないし、依頼さえ終わればちゃんとクレハも家に帰ってくれるはず!
そうなるはずだ……といろいろと面倒ごとから目をそらしつつ改めて依頼に着手することとなったのであった。
「は、はっふ!それなら、お父さんの手伝いは私に任せてください!
精一杯、できる限り頑張ります!」
「はふっ!ミカち~も一緒に頑張ろうね!私もついてるよ」
「はふっ、もう数日観光できるのか、よかった。
それはそれよりおとん、結局何皿でもいいというのはつまりはメニューのここからここまで全部頼んでも問題ないという意味だな?
特に、この水銀風ミエンと宇宙汁のウシマっていうのが普通においしそうな見た目と匂いなんだよな。
なんか、機臓の方は警告音出してるけど、危険度イエローだし、きっと食べても死なないから無問題だよな?」
なお、自分の暗い顔とは対照的になぜか連れてきた娘2人と友達はテンションが上がっていたのがやけに印象に残っていた
感想ありがとうございます!
励みに頑張ってます
この作品は当初の目標としてはなろうっぽさ+SFを混ぜた感じを目指してましたけど
感想を見る感じもう少しなろう感は薄い方がいいのかな?
感想をただけると幸いです、泣いて喜びます