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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第二章
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ヴィオラの始まり

 物心がついた頃にはその子供にとって、真っ白な部屋が全てだった。

 定期的に美味くも不味くもない。味があると思えば少しはある。と言った程度の食事が白いトレーに乗せられて運ばれてくる。

 時計はないので正確な時間は分からないが、眠気を感じ始めて一時間ほど経った頃に部屋は消灯。その十分前には白い服を着た大人がベッドまで案内して寝かしつけた。

 寝て、起きて、食べて……それと何をしていたか。

 子供はまたベッドの上に寝かせられる。

 しかし、就寝のためのベッドとは違う。真っ白なシーツも布団もない、無機質で硬いベッド。

 その上で子供は目を瞑る。別に眠くはない。

 何をしてるかは知らない。何が目的なのかは知らない。

 ただ同じ部屋にいる数人の白い服の大人がその子供を調べ上げようとしていた。

 一見して普通の、強いて言うならばその赤い髪が特徴的なだけの女の子が、遊ぶことも学ぶこともなく。

 ただ繰り返される無機質な毎日を送っていた。

 そこに彼女の意思はなく。彼女の意思はすでに止まっていた。




 転機は起こる。

 白い部屋。彼女の世界。

 白い服の大人に呼び出されない間はいつも本を読んでいた。

 静謐を絵に描いたような空間。

 扉が開かれた。それはいつもより、乱暴だった。

 その開閉音に反応して女の子は顔を上げる。そして、頭を傾げる。

 いつもの白い服の大人。ではない。

 黒い服を見にまとった二人の男女が部屋に入ってきた。

 二人とも少女が見たことのない綺麗な白い髪と琥珀色の目を持っていた。


「?」

「初めましてお嬢さん。名前を教えてくれるかな?」


 前に立っていた女が訪ねてきた。


「名前……」


 あった気がする。確か五十なん番かそんな感じで呼ばれていたと思う。


「ヴィオラ・リーヴィ。だそうだ」


 後ろに立つ男が手元の資料に目を通しながら言った。


「そうかそうか、ヴィオラか!」

「ヴィオラ……」

「そうだ、君の名前はヴィオラだ。で、ヴィオラ。君に提案が一つあるんだ」

「……てい、あん?」


 ニッと八重歯を光らせる。


「私の妹にならないか? ヴィオラ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「私には大きく分けて二つ、転機があるわ。一つは、私とお姉ちゃん達との出会い。

 当時の私は優れた魔術師になり得る逸材として、機関の研究室に収容されていたの」

「収容って、そんな……!」

「危険だったのよ。まだ子供の頃の私には分からなかったけど、無意識のうちに式に触れてしまう。それほどにまで私の権限は広いみたいなの」


 手のひらで、難なくヴィオラは蒼い炎を燃やして握り潰した。


「その頃はセイヴスが発足したばかりでね。お姉ちゃん達も各方面を回って人材を確保していたみたいなの」

「それでヴィオラさんの元へ?」

「そうね。あの頃は確か十二歳だったかな、言わずもがな、最年少隊員だったわ」

「十二歳で……」


 苦虫を噛み潰したような顔をして、レイチェルはその数字を反芻する。


「そして、私のもう一つの転機。今から二年前の南海峡解放戦と呼ばれる戦いよ」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 その作戦はセイヴス発足して以来、最も重大な任務であった。

 当時からテウルギアにおける最大人員数を誇るギルドであったセイヴスの過半数の人員を導入し、その他多数の討伐(ハンター)ギルド、探索(シーカー)ギルドも参戦。

 集められた冒険者の数は、実に五千人にも上った。


「今作戦の成功はテウルギアの発展、否、世界をドラゴンから取り戻す第一歩を意味する!

 諸君らの働きにより、我々残された人類の悲願。世界再生への一歩が果たされるのだ!

 剣を持て! 弓を構えろ! 魔術を放て! 南海峡を塞ぐあのどデカイ蛇の首を切り落とせぇ!」


 筋骨隆々とした壮年の男が軍勢の先頭に立ち一際目立っていた。

 セイヴス一番隊隊長にして、セイヴスのギルドマスター、エドワルド・ベルトランが士気向上の為の苦手な演説を放っていた。

 ベルトランの言葉に続き、セイヴスの隊員は武器を握りしめ、あるいは自身が用いる魔術を灯しながら右手を上げて叫び出した。

 朝日が昇るキャンプ地に轟く。他の冒険者は呆れて耳を塞いでいたり、無視して精神を落ち着かせていたり、続いて叫んでいたりしている。

 ヒソヒソ、とその中で話し込んでいる者もいた。


「あの赤髪がそうなのか?」

「ああ、機関の連中がつい最近まで実験室に監禁してたってガキだ。あのなりでランクはすでにAらしい」

「マジかよ。羨ましいねぇ、恵まれたやつってのは」

「そうさ、自慢の妹だよ」


 そこに割って入った人物が一人、当時のセイヴス二番隊隊長シャーロット・リンステッドだった。


「て、てめぇは!?」

「ヒソヒソヒソヒソと、あまり愉快じゃないな。仮にも今は同志だ。仲良くしようじゃないか?」


 冒険者の一人がけっ、と悪態を吐く。


「知るかよ。第一、俺はセイヴス(おまえら)が嫌いだ。機関に尻尾振って、何が治安を守る特務ギルドだ! 機関の犬がいいとこだ!」

「お、おい、よせって」


 静止するもう一人をシャーロットは手で静止する。


「君がそういう考えなら別に否定はしない。だが、この作戦。我々が団結しなければ勝ち目はない。それを踏まえて、君が口にするべきは何か考えろ」


 流石に獣のような金色の瞳を光らせたシャーロットは、その場を後にした。


「おお、ようやく見つけたぞ。おい! シャーロット!」


 キャンプ地内を散策していた彼女に野太い男の声がかかる。

 一見壮年でありながらも、黒い制服の上からでも分かる筋骨隆々の体躯。

 一番隊隊長にしてギルドマスターを担うセイヴスのリーダー、エドワルド・ベルトランが手を振りながら歩み寄って来た。


「ベルトランさん、一体どうしたんだい?」

「至急、伝えなければならないことができた」


 首を傾げ、耳を傾ける。


「機関からの伝達だ。一番隊は至急テウルギアに帰還せよ。とのことだ」

「なんだと!?」

「故に俺は作戦から外れる。セイヴスの指揮は二番隊隊長であるシャーロット、お前に託されることになる」

「ま、待ってくれベルトランさん! 私は確かに隊長を任されてはいるが、こんな大人数の指揮なんてしたことないぞ!?」


 はっはっは、と大口を開けて笑いながらベルトランはシャーロットの狭い肩を落とすような勢いで叩く。


「心配ないさ。お前なら、お前達ならできる!」

「……簡単に言ってくれるなよ」

「ともかく、上からの命令である以上、俺も逆らえん。頼んだぞ」

「機関の犬……か」


 ニヒルにシャーロットは笑う。


「……気をつけろよ。ただでさえドラゴン討伐なんて望みの薄い任務だ。何があるか分からん」

「分かってるさ。命に変えてもこの任務は成功させよう」

「ガキが命かけるなんて十年早い。敗走でも構わない。生きて帰ってこい」


 ふ、とバレない程度に小さく息を吐く。

 右手を額まで掲げて、敬礼。ベルトランも敬礼で応える。


「死ぬなよ」

「分かってるさ、期待して待ってなベルトラン隊長」

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