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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第二章
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前時代の街

「来るとこまで来た。って感じね」


 砂塵を含んだ穏やかな風が少女の蒼い髪をなびかせる。

 砂を踏む。テウルギアより北へ北へと進み続けて既に三週間ほどの月日が流れていた。

 道中、魔物に襲われ、賞金狙いの冒険者に襲われ、それらを一蹴して、生きる糧にしてきた。

 そして、辿り着いたここは、草木が生い茂っていた平野とは少し、違った。


「五〇〇年前の……街か」


 五〇〇年前、世界は突如として現れたドラゴンによって文明は蹂躙され、人類の衰退は余儀なくされた。

 ドラゴンに蹂躙される中、後に魔導師と呼ばれる世界で初めて魔術を行使した七人の魔術師は、協力して都市一つを包み込む大結界を生成。

 以降、結界の中でのみ人々は生活し僅かながらに繁栄した。

 その都市は現在、テウルギアと呼ばれている。


 そして、結界が生成されなかった外の世界、外界はどうなったのか。


「思ったより形は残っているのね。植物だらけだけど」


 ヴィオラが煉瓦造りの建物の壁に触れる。少し擦れば、埃と砂が崩れるようにサラサラと落ちていく。

 建物を見上げた。

 内も外も緑に侵食されている。

 衰退以前、前時代の頃には何か特別な意味を持った建物だったのだろうか。

 欠けて傷だらけのステンドグラスには何かが描かれていた痕跡だけが残り、アーチ状の高い天井には豪奢なシャンデリアがいくつも並んでいる。しかし、ほとんどが割れてしまっているためその光を再び目にすることはできないだろう。


 街は一見して高い建物が多く存在しており、ついつい目線を高くしてしまう。

 そして、リアムは足元の注意が疎かになっていたために、それを踏んづけた。


「うん?」


 石。にしては細長く、そして硬いわけではなさそうだった。

 気になってその周囲を見渡すと、並べられたようにそれから続いて細長かったり、複雑な形状なものがあった。

 そして、一目で何かわかる造形。

 それに視線が辿り着いた時、自分がなにを踏んだのかも分かった。


「ず、頭蓋骨っ!?」


 人の頭の骨、頭蓋骨が砂の上で転がっていた。そして、自分が今踏んだのはその頭蓋骨の持ち主の腕の骨だったのだと知る。


「何かあったの?」


 ひょっこりとヴィオラが顔を出してきた。


「うわ、人の骨じゃない……」


 二人ともあまりいい顔はできなかった。


「人骨と形を残した街並み……一体なにがあったらこんな風になるんだ?」

「考えられるのは毒……かしら? 毒素を振りまいたり病原菌に感染させたり」

「ドラゴンの影響……なのかな」

「ピンポーン。ここを襲ったドラゴンの能力は毒。毒霧を吐き、この地域の人達は皆、悶え苦しんで死んだんだよ」


 聞き覚えのない、幼さを残した声がどこからともなく聞こえた。

 ハッと人骨から目を離して、二人は周囲を見回す。


「ここは昔、大きな聖堂だった。皆、見たこともない神様に祈りながら死んだ」


 廃墟都市の中で反響する声。

 前後左右を見回しても残響が鼓膜を刺激するだけ、ならばと上を見上げた。

 聖堂と呼ばれた建物。その尖塔に黒髪の小さな少年が座していた。


「やあ、お兄さんお姉さん」


 右手をヒラヒラさせながら、少年は二人を見据えて笑顔を浮かべる。


「い、いつのまに?」

「ただの子供……なわけないわよね。あんた一体なに? 私達になにか用?」


 にんまりと口角を上げてからくすくすと笑う。


「嫌だなぁ、ボクは見かけ通りの子供だよ? ただちょっと、お姉さん逹と遊びたいだけ」


 トンッと少年が聖堂の屋根を蹴って飛んだ。しかし、無論その後は重力に従って落ちる。

 塔にも匹敵するほどの高さを誇る建物だ。そこから自由落下すれば小さな子供など、いとも容易く地面に殴られて事切れる。

 しかし、リアムの右眼は捉えた。


「離れろヴィオラ!」

「——っ!」


 従い、ヴィオラはその場から駆け足で去る。リアムも別の方向へと散開する。

 そして——ドスン! と二人の元いた地点を中心に衝撃が走る。

 落下したそれがそれほどの質量を持ってた。

 小さなクレーターを作った張本人が、ゆったりと身を起こして二人を見据えた。


「ふうん? 避けたね?」

「あんたっ! その腕!」


 砕けた道路からおよそ人のものとは思えない漆黒の右腕が顔を出した。

 牛や馬を一掴み出来そうなほど巨大で鋭利な爪が付いた指、それが少年の右手に生えている。


「なんなんだその腕は?」

「あっはは! なにって……分かるでしょ? 少なくともお兄さんもお姉さんも似たようなものは見たことあるはずだよ?」


 くっ、と短く唸り、額に汗を垂らす。

 その通りだ。あの腕、あの爪、そして硬い鱗。

 見間違うことなどない。あの腕は……


「ドラゴンの……腕?」


 にいっ、と口を半月の形にして少年が笑った。


「ピンポーン。せいかーい!」

「……! 信じられないわ! それに仮にドラゴンの腕だとして、それを持ってるあなたはなんなの!?」


 すっと無表情になる。


「分かんないの? いや、分かってるでしょ? 分かりたくないだけでしょ?」

「……付き合ってられないわ」

「っ! ヴィオラ待て!」


 ヴィオラが右手を少年に向かって突き出した。

 手のひらに蓄えられる蒼い火球。頭ほどの大きさになったところで——放つ。

 火球が動く度に軌道上が照らされる。

 古代の建築物、舗装された道、それらを覆う草木。そして、最後に少年の黒い髪が蒼く上塗りされて、


「あわてない、あわてない」


 少年の一言と共に火球が陽炎にも似た空間の歪みに包まれて消えた。


「消えた!?」

「ボクは遊びたいだけだって」


 消えた先から少年の姿が見える。その腕は元の細い子供のものに戻っていた。


「ま、本気は出さないであげるよ。初回サービスってやつ?」


 言い終わると同時にその姿が掻き消える。


「ヴィオラ、後ろ!」

「っ!」


 咄嗟に蒼炎を背後に放つ。

 ヴィオラの目には見えなかった、幼い子供の手が眼前にまで迫っていた。


 ——この距離で気がつかなかった!?


「うおおおう?」


 ぴょんと軽々と身を翻しながら子供は蒼炎から離れる。


「うーん? ボク、だるまさんがころんだは得意なんだけどなー?」


 首と共々胴体ごと右へ傾けて少年は疑問符を浮かべる。

 無邪気な子供の行動。しかし、決してそれからは微笑ましさは感じられず、薄気味悪い、得体の知れない恐怖感を覚える。

 突然、ポンと少年が手のひらに拳を乗せた。

 グルン、首が回って灰色の双眸がリアムを覗いた。


「お兄さんのせい?」


 ——っ来る!?


 再び少年の姿が掻き消える。

 ほんの数秒経って、リアムが刀を右方向へと振り抜いた。

 刃が空を切る。と同時、陽炎に似た歪みが切り裂かれていた。


「うわっ!」


 歪む陽炎の中、少年の黒い頭がチラリと覗いた。

 また軽々と身を翻して後ろへ飛ぶ。


「凄いねお兄さん! どうして見えるの!?」


 キャッキャと子供がはしゃぐ。


「ねぇねぇ! なんで見えてるの!? もしかしてその色違い目のおかげ!?」

「……答える気はない」


 しゅん、とさっきまで子供が纏っていた明るいオーラが消えた。


「じゃいいよ。勝手に遊ぶから」

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