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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第一章〜テウルギア編〜
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四葬司教

 蒼炎が唸る。

 住宅に囲まれた路地を蛇のように柔軟に、獅子のように獰猛に駆け回る。

 その口が捉えるのは一つ、赤い装束に白い仮面の女。


「ふん、その程度か?」


 ビッ! と指で空を切る。火花にも似た閃光が走り爆発が起こる。

 蒼炎はその勢いを殺され、進行が阻まれる。


「爆破の魔術……まさか教団の連中が口々に呟いてた『爆弾教』と言うのはお前のことか?」


 炎の向こうから、同じ色の髪を揺らした少女が姿を現わす。

 にっと顔の下半分だけを見せた女が笑った。


「そうだと言ったら?」

「ここで始末するまでだ」


 蒼炎を纏った右手を突き出す。

 その炎は勢いを増しうねり、再び巨大な蛇のようになって仮面の女を襲う。


「芸がないな! 通じなかった手を再び試すのか?」


 指を振るい線を描く。眼前で爆発が起こり同じように蒼炎はその勢いを殺される。

 しかし、炎の中に一つの影が見えた。


「なに!?」


 ヴィオラ自身が炎とともに突撃を仕掛けていた。

 肉薄した距離にまで迫り、蒼炎を纏った右足で蹴りを一発入れる。

 宙を舞い、一回二回と小さく弾みながら石畳の道を転げ回る。


「遠距離だけが私の攻撃ではない。必要とあらば肉弾戦でもこなしてみせよう」

「そうか、だが失念するなよ? 私とて一芸だけではないよ!」


 ヴィオラの足元が光りだす。

 石畳にいつのまにか刻まれた幾何学模様が複数輝いているのだ。


 ——法陣! あの一瞬で書いていたのか!


 刻まれていた法陣の数だけの爆発が起こる。煙が上がり、炎が炸裂した。

 だが、それら全てを蒼炎が食らう。


「残念だが、炎に属する魔術はほとんど私には効かない」


 蒼炎を衣のように纏い、毅然として立つヴィオラの姿がそこにはあった。無傷、爆発などなかったかのようだった。

 クックック、と可笑しいように女が笑った。


「炎は効かないか……ならば、これはどうだ?」


 再び法陣が輝き出した。先程足元で爆発したものとは違う。描かれているのは左右を挟む住宅の壁。

 ドンッ! という轟音とともに家が崩れ始める。


「芸がないのはどちらだ」


 右手を掲げ、火球を放つ。

 衝撃で拡散する蒼炎は降り注ぐ瓦礫を外へ外へと追い出す。


「……!」


 今度はその隙を突いて仮面の女がヴィオラの懐まで飛び込んだ。両手を突き出す。まるで首を絞め殺すかのように。


 ——下らないわね。


 冷静に冷淡に空いている左手を前に。蒼炎が噴き出す。仮面の女は大きく宙返りをしながら後退。


「この程度か?」

「これからさ!」


 ヴィオラの周囲から光る。

 見れば、宙に浮いた模様が輝いている。


 ——空中に法陣!?


「アッハハハ! 吹き飛べぇ!」


 炸裂する。今までと違い爆炎はない。代わりに破裂した空気が無数の刃となって少女を襲った。

 砂塵が舞う。視界が潰されて向こう側を一時的に認識できなくなる。


「さて、どうなる?」


 ニタリと口元が綻ぶ。

 砂塵の向こうから影が迫ってくるのが見える。自然、仮面の女は構える。

 突撃してきたのはヴィオラ。ではなかった。

 灰色髪の少年。リアム・バージェスが懐に飛び込んできたのだった。


「なにっ!?」


 突然の乱入に困惑するも、女は冷静に対処を始める。

 この距離で爆発は巻き添えを食らうが致し方ない。そう判断して、指を振る。

 ドンッ! と轟音が体を揺らす。その衝撃は我ながら辛いところではあったが、


 ——惜しかったが、これで終わり……!?


 少年の勢いは止まってはいなかった。

 むしろ更に踏み込まれた一歩により、力強さが増し、鋭くなった剣筋が女の被るその仮面を捉えた。

 ピキッと仮面に亀裂が入る。

 狼狽しながらも距離を保とうと後退する。


「な、なんだと……?」


 すうっと少年が息を吸う。止めて、一息で距離を詰める。

 咄嗟に爆破法陣を描く。しかし、少年の姿が眼前から搔き消える。

 否、深くかがみ、爆発を紙一重でかわした。

 一閃が再び女を襲った。


「ぐあっ!」


 短い悲鳴。そして、仮面が割れる。女の深い緑色の双眸が露わになった。


「ようやく、顔が見れたな……!」


 煽り気味に少年が言った。

 その左右非対称の目が爛々と輝いている。


「リアム・バージェス……試合の時とは偉く動きが違うな? ……その右眼か?」

「さあ、どうでしょう……ね!」


 追撃。間合いを詰めた一閃が再び女を襲った。

 迎撃を捨て一度回避に専念する。しかし、その剣線は急激に緩み、その後を追った蹴りが腹部に炸裂した。


「ぐふっ!?」

「急に前に出てきたからどうしたと思ったぞ」


 ヴィオラが少年の後ろから歩き出てきた。


「すみません。あの時はああするしか思い浮かばなくて」

「まあ、結果として助かったからいいさ」

「……なるほど」


 くっくと女は笑った。


「リアム・バージェス。君のその右眼、未来を見ているな?」

「……っ!」

「図星。と言った顔だな? さっきの爆破はヴィオラ・リーヴィでは対応できないと予知して前に出た。空間爆破を回避したのもそれか……」

「リアム・バージェス……それは本当か?」


 少年は自身の右眼に触れる。


「ええ、どうやらこの目はそういう魔術を使えるようです。と言ってもさっき気づいたばかりで上手く使いこなせてはいませんけど」


 ズキンと右眼が痛み。瞑る。


「いや、十分だ。こいつを、爆弾教とやらをここまで追い詰められたのだから」


 ヴィオラが右手に蒼炎を灯し始める。

 その様子を見て、またニタリと女が笑う。


「サブリナ……」

「なに?」

「私の名前さ、褒美だと思え。爆弾教サブリナ、ノーブル教団を指導する四葬司教(フォーグレイヴ)が一人。司るは火葬……私の思想は」


 顔いっぱい、頬が裂けるほどの笑みをサブリナが浮かべた。


「破壊そのもの!」

「なっ!?」


 辺り一面が急激に光を放つ。

 空間に浮かんだ巨大な法陣。それが三人を囲んでいた。


「まさか、自爆するつもりか!?」

「全てを壊す! それが私のただ一つの目的!」


 光が増す。激しい轟音と爆風が炸裂する。

 市街地の真ん中で、数々の住宅を巻き込み、その大爆発は起こった。


「次に会う時はお互い全力でぶつかれるといいな」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「うっ……!」


 ビクッと体が震えた。目が覚めて、丸くかたどられた空が見えた。

 晴天の日だった。太陽が昇っていて、青い空が背景にあって、その周囲を暗闇が覆っている。

 あの爆発の後、テウルギアの地下に通っている下水道に落ちたのだとヴィオラは認識した。

 砂が顔を伝う感覚があった。水が流れる音が聞こえて、少しキツい臭いがする。

 体が動かない。まさか、あの爆発で重傷でも負ったのかと疑う。しかし、それは違った。

 チラリと視線を自分の体に移す。


「……っ!」


 自分の体は映らなかった。覆い被さってるものが遮ったから。

 灰色頭のつむじが見えた。見覚えがある。知っている少年のものであるとすぐに分かった。


「り、リアム・バージェス!?」


 すぐに体を起こし、自身に被さってる少年を横に倒す。

 目を閉じて眠る少年の体には無数の傷跡があった。

 察しがついた。彼の未来が見えるという右眼。

 いち早く大爆発に気がついた彼は、逃げるよりも先に隣にいた少女を庇うことを選択したのだ。

 ギリッと歯を食いしばった。


 ふう、と息を抜いた冷静になる。

 呼吸と脈を確認。正常でだった。しかし、肉体へのダメージは依然として深刻である。


 ——治療を……早くセイヴスの施設で治療して……!


 はっとなって思い返す。

 自分が自分の部下に殺されかけたのを。

 裏切られたのだ。あの時、他の隊員が副隊長のクーラを止めようとした様子はなかった。

 しかし、小隊の編成はヴィオラ自身の采配で決まる。あらかじめ決まったメンバーだけで編成を組むのは不可能に近い。


 ——一体どこまで……?


 まさかと思う。まさか、二番隊の全隊員が……否、セイヴスの全てが自分を殺そうとしているのではないかと、少女の心を疑心暗鬼に駆り立てられる。

 今、セイヴスに駆け込めば、そのまま殺されるのではないか。

 呼吸が荒くなる。息が浅くなる。気持ち悪い。目の前が歪み始める。


 ……パンッ! と自身の両頬を目一杯叩く。

 じーんと痛みが顔中に伝わっていく。


 ——ダメだダメだ! とにかく今は安全な場所へ……信頼できる人の所へ!


 自分より一回り大きい体躯の少年をヴィオラは担いで下水道を歩み始める。

 同時に脳内で当てになりそうな所をピックアップ。


 ——ああ、私……人脈ないなぁ……。


 そんな皮肉を思いながら歩く。


 ——でも、癪だけどあの人なら……!

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