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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第一章〜テウルギア編〜
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裏切り

 息を切らせてリアムはテウルギアの市街地を走り抜けていた。

 胸に一物の不安。それは試合開始前から有ったのだ。自分の色ではない色に輝く右眼に触れる。

 触れたと思ったのに少し遅れて、顔に手が触れた感触が来た。


 ——やっぱり、この目は……! くそっ! もう少し早く気付けていれば!


 悔やむ。悪態は心の中に留めて走り続ける。

 突如としてビキッ、と破れるような痛みが右眼を襲い閉じる。


「くっ!」


 ふらふらと一度、路地の一角に寄りかかり足を休める。

 吸って、一度止めて、長く吐く、上がった息を整えていく。これからすることから考えるに息が乱れたままでは駄目だろうと思った。

 ふと、民家の窓に映り込んだ自分の顔を見る。慣れ親しんだ青い左眼と初めて見る金色の右眼があった。またズキンと痛んだので瞑る。


 ——参ったな。多分これ魔術なんだろうな……。


 整え終わった呼吸をはあ、とため息をついて締めた。


 ——儀式が無く、その身に身体能力の一つとして備わる機能(スキル)型。もしかしてなくても……。


『それはあなたにとっては望まない力かも知れない。しかし、その力は必ずあなたの助けになる』


 想起するのはビッグホールの体内で出会った純白のドラゴン。名前は確かキリアム。

 アルヴァはあの後キリアムは何処かに消えており、その後、ビッグホールの始末をしたセイヴスの調査でも上級クラスの魔物は何体か遭遇したらしいがドラゴンは見つかってないと言っていた。


 ——確実にあの時何かされて僕の目がこうなったんだろうな……。流石にウィルフレッドさんから魔術の使い方なんて教わってないし……っていうか教わる理由もなかったしなぁ。


 ふう、と息を漏らす。寄りかかっていた壁から背を話して煙の上がる市街地を見渡す。


 ——今のところ爆発以上に目立ったことはない……とりあえず煙が上がったところをしらみつぶしだ!


 行動再開。リアムはまた市街地の中を駆け巡って行った。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 同じく市街地。しかし、リアムがいる地点からは大きく離れている。

 クーヴレール冒険者育成学校、その周辺の中央区が誇る市街地は非常に広大なのである。

 そこで起こった複数な爆発。

 その発生地の一つに今、ヴィオラ・リーヴィを筆頭にした小隊が辿り着いた。


「ふむ、やはり法陣による爆破魔術か」


 焦げた石畳の床に手を触れる。そこには黒い幾何学模様が刻まれていた。


「この法陣は以前あった孤児院襲撃を行った連中に刻まれていたものと一致しますね」


 小隊員の中の一人が言った。


「うむ、犯人は教団で間違いないだろう。しかし、爆破法陣か……」

「どうかされましたか?」

「この法陣が刻まれている連中は口々に爆弾教なる者の名を呼ぶ。そいつが仕込んでいる法陣なのだとすれば、少し厄介かもな」

「ご明察。正解者にはプレゼントだ。受け取りたまえ!」


 バッ! と小隊メンバー全員が声のした方向を向く、屋根の上、赤い装束と白い仮面をした女が立っていた。


「……! あなたは!」

「さあ破壊の時だ。全て砕け散れ!!!!」


 ドンッ! と幾重に重なった爆音が狭い通路の中で轟いた。周囲の家々が崩壊を始める。土台を失い倒れる。通路を埋め尽くすように、ヴィオラ小隊の真上に。


「舐めるな!」


 ヴィオラが両手広げ、蒼い炎が猛り出す。

 パンッ! と手を合わせてそれを拡散、降り注ぐ瓦礫を弾いていく。


「総員無事か!?」

「被害は出ておりません!」

「よし、では改めて聞こうか貴様はなんだ?」


 崩れた屋根の上に立って女はクスリと笑う。


「私が誰か? それは君も知っていることだろう? セイヴス二番隊隊長のヴィオラ・リーヴィ」

「私が知ってる貴様はそんなことはしないはずだが……」

「いつだって本当の敵は内側にいるものだよ。そう、いつだってね」


 ピッと女はヴィオラの後ろを指差した。

 しかし、敵を目の前にして余所見などする彼女などではなかった。むしろ一層剣幕になって仮面の女を睨む。だから、


「だからあなたは死ぬんですよ。リーヴィ隊長」


 背後からの声。引き連れて来た副隊長クーラが剣を抜き、ヴィオラの背後に迫っていた。

 ニタリとそのクーラは笑う。念願を叶えるように、それか復讐を果たすように。


「させるかぁぁぁああ!!」

「!?」


 そこ割って入ったのは灰色の髪をした少年。既に抜き身の剣でヴィオラの背を貫かんとしていた刃を防ぐ。

 想定してなかった自体にクーラは驚愕、ぐらつきながら一歩二歩後退する。

 はあはあ、また息を切らせている少年。その左右非対応の瞳には、怒りが共通して宿っている。


「や、やあ、久しぶりだね。クーラ……ってそんな挨拶してる場合じゃないかな?」

「お、おお、お前、リアム!? なんでこんなところにいるんだ!?」

「残念ながら質問をするのは僕の方だ。なんでこんな事をした!?」


 絶え絶えになりながらも声を張り上げて問う。声圧に臆しながらもクーラは勢いよく踏み出し、剣を振るう。

 ギンッ! と剣が交わる音。両者引かず、迫合いを起こす。


「答えろクーラ! 元だってクラスメイトだろ!?」

「クラスメイト……大凶作の八十期生……」


 キシキシと刃がなる中でボソリと呟かれた。


「魔術師が羨ましいって思ったことはないか?」

「は?」

「最初っから力を持ってる魔術師が羨ましくはないかって聞いたんだよ!? お前も同じ八十期生だ。一度くらい思うだろ? なんで魔術師だけが評価されるんだ。なんで俺達の上をさも当然のように行ってるんだ……」

「そ、それは……」


 クーラの言葉に否定できなかった。事実なのだから。


「そこの二番隊隊長様の事を知ってるか? 11歳で機関にスカウトされてセイヴスに入隊。クーヴレールでの授業なんか一切受けずにSランク冒険者になって、そして今! 俺達より歳下のくせに上司気取りだ!」

「クーラお前……!」

「もう、うんざりだ……。大凶作って罵られるのも、ガキに指図されるのも! だから上に登ってやるんだ!」


 クーラの剣により一層強くなる。物理的な力だけではない。黒い感情が乗せられているのが分かる。


「革命だ! 魔術師どもを引きずり落としてやるんだよ! これはその為の一歩だ! だから……」


 迫合いが解かれ、クーラがすかさず追撃を行う。


「リアム! そこをどけぇぇええ!!!!」

「どかないよ! 僕達がするべきことは魔術師を殺すことなんかじゃない!」


 リアムは冷静にその一撃に対処する。敢えて剣の間合いより詰めてクーラの体勢を崩しそして、懐に蹴りを一発入れる。

 ぐふっ! という悲鳴とともにクーラの体は吹っ飛んで瓦礫の山に埋もれる。


「な、なんでだぁ……リアム、お前なら分かるはずだ……」

「確かに分かるよ。もしも僕が魔術師だったなら。むしろ考えない日の方が少ないくらいだ。でもね、魔術師にだって色々あるんだ。僕のよく知ってる魔術師は人を小馬鹿にする人で、鍛錬に容赦がなくって、何だかんだ気を使ってくれて、でもちょっと口下手で、あとカルーアミルクが好きだ」

「…………?」

「人間なんだよ。魔術師も僕達も。笑うし泣くし、生きてて辛いことがあるし、嬉しい時もある。そこに凡人か魔術師かなんてなかった。僕達は同じ人間だったんだ!」


 クーラは目を閉じながら空を仰いで、わけわかんねぇよ。と言って気絶した。


「リアム・バージェス……なぜ君がここに?」

「ちょっと嫌な予感がしましてね。市街地をしらみつぶしに回ってました。で」


 リアムとヴィオラは同じ方向に向き直った。その目線の先には赤い装束に白い仮面で顔の上半分だけを隠した女の姿がある。


「あいつはなんですか?」

「私の認識が正しいのであれば、あれは原理委員会(プロビデンス)(ファイヤ)のはずなんだがな」

「ぷ、原理委員会(プロビデンス)!?」


 思わずそのまま聞き返す。

 原理委員会(プロビデンス)とはテウルギアを統制する『機関』の中でも最高意思決定権を持つ七人で構成された組織である。

 そのメンバーは冒険者も含め、多方面から選抜された人材で構成されており、構成員七名はそれぞれが(ライト)(ファイヤ)などのコードネームで呼ばれており、本名やその他素性は一切公開されてはいない。


「な、なぜ原理委員会の炎が……」

「私も是非知りたいものだな。ここまで来たからには君にも手伝って貰うぞ」

「言われなくとも!」


 リアムは剣を構え直す。


「覚悟しておけ、これから君が身を投じる戦いは、今まで見て来たものとは、次元が違うだろうからな!」


 ボンッ! と弾ける音とともにヴィオラの両手が蒼い炎で包まれる。

 ニタリとその口元が笑う。白い仮面の下でその目はじっとりと二人を鑑賞しているようだった。

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