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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第一章〜テウルギア編〜
22/35

混乱

「リーアームーぐぅぅぅん!!」

「ぐふぉ!?」


 泣きじゃくりながらマリエルがリアムに突進を食らわしてきた。

 感極まっているのだろう。そのまま抱きついきながらびーびー泣いている。って、


「苦しい苦しい! 絞まる絞まる絞まるしま……っ」


 リアムの中から大切な何かが抜けていった。また緩まっていたのだろうか、右眼の眼帯も外れる。


「うわぁぁぁああ!? ごめんごめん! 戻ってきて!?」


 そんなこんなで勝利の余韻に浸りながらも愉快にバタバタしてる中、一人の男がコロシアムに姿を見せた。

 その気配に気づき、マリエルは振り返った。


「……お父さん」


 マリエルの父、クリストフ・クーヴレールその人だった。

 二人はそれぞれ歩み寄って、一歩先の距離まで近づく。


「よくやった……とまずは言っておこう」


 くいっと眼鏡を弄りながらクリストフは言った。


「認めよう。私の負けだマリエル。魔術という力を過信していたようだ。私が……間違っていた」


 意外にもあっさりとした答えにマリエルはきょとんと目を丸くした。


「お、お父さんからそんな言葉を聞くなんて思ってなかったわ……」

「そうだな、自分でも意外だ。なんでだろうな、とても晴れやかな気持ちなんだ」


 ふっ、とその父親は笑った。


「これから自由に生きなさいマリエル。父としてお前には何もできなかったが、せめてその背を見守らせてくれ」

「お父さん……!」

「そう、それが答えなのね。お父さん」


 突如して響いた声。二人には聞き覚えがあった。


「マリエル危ない!」


 駆け出したのはリアム。勢いのままマリエルを突き飛ばしてその場から遠ざける。

 瞬間、リアムの頭上をそして、クリストフの体を貫いた閃光が入った。


「ぐふ、かっはっ!?」


 口から血を吐き出し男は倒れる。


「お父さん!!」


 マリエルが駆け寄り、仰向けに倒れた父親の身を返して呼びかける。

 腹部には空洞が見え、血が止めどなく溢れている。

 青ざめる。そして、チラリと前方に佇むその小さな影を見た。

 自分と同じ髪色のロングヘア。小さく華奢な体躯をした少女がいた。


「り、リリー?」


 唖然としながらもその名を呼んだ。


「久しぶりマリー姉」


 リリーと呼ばれたその少女も答えて、姉の名を呼んだ。


「リリーってまさか……リリエル・クーヴレール!?」


 リアムが剣を構えながら問いかける。

 話だけには聞いていた。マリエルの妹、リリエル・クーヴレール。

 姉とは相反して、類稀なる魔術の才能を持ち、現在11歳という年齢でありながら、その実力はAランク冒険者以上とも呼ばれる天才少女。


 ——そんな子が何故ここに……いや!


 チラリとマリエルが抱き抱えている男の姿を見る。腹わたから貫かれ、血を吐き、徐々にその体から色が失われつつあるのがうかがい知れる。


「……なんで殺した?」


 静かに怒気を放ちながらリアムが問いかける。

 リリエルは答える。子供らしからぬその冷たい表情からは、何も読み取れない。


「負けたから」

「は?」

「負けたからよ」


 ズガンッ! と雷がリアムを襲う。神速の一撃は人の反応速度を超える。しかし、リアムはそれをかわしてみせた。


「……! 避けた、強いのね」


 ピクリと少女の表情に変化が見えた。

 包帯が外れ、曝け出された右眼に触れる。自身からでは見えないがその眼は爛々と金色に輝いている。


 ——さっきもそうだったけどこの右眼……そういうことなのか!?


 キッと眼を凝らす。いくつもの雷撃が見える。

 それらの着地点に重ならないように駆け出し、リリエルとの距離を詰めていく。しかし、


「そこまでだ」


 眼前に立ちはだかったのはいつか出会った赤髪の青年。バレルの長い拳銃を片手に持ちリアムの眉間に突き立てた。


「どけぇ!」

「くっ!?」


 更に乱入してきたのはウィルフレッドだった。

 拳銃のバレルを刀で弾き、リアムとデュリオの間に張り込み、蹴り飛ばす。

 一時的に重力から解放されるもすぐさま宙で体勢を整えて着地。


「よお、久しぶりじゃねぇか?」

「ええ、実にお久しぶりです」


 どこからともなく黒い霧が現れ、デュリオの隣に立つ。


「てめぇもいやがったか……」

「以前お会いした時は名乗り損なってしまったね。僕の名前はバーンハード・オールディス。以後お見知り置きを」


 そうか、と生返事。


「じゃ、よろしくな!」


 高速で飛び、一息で距離を詰める。

 振り抜かれる剣線、しかし、しっかりと見極めてバーンハードは剣で受け止める。


「うーん、素晴らしいね。数度見ただけで僕の魔術の発動を阻害してると見た」


 ちっ、とウィルフレッドが舌打ちをした。


 ——よく言うぜ。魔術が発動できないと分かったらすぐに物理的な防御に切り替えやがって……。


 一度愉快そうにニタリと笑って、その身を黒い霧に変性し後退する。

 その先にはリリエルの姿があった。


「残念ながら僕達の仕事はここまで、後は爆弾教に譲るとしよう!」

「まて!」


 その制止を聞かず、黒い霧はリリエルを包み込む。

 ウィルフレッドは即座に追撃に移る。しかし、割って入ったデュリオ・ロッソがそれを妨害した。


「また会うようであれば、その時に決着をつけよう」


 赤髪の青年の体も程なくして黒い霧に包まれ、その場から掻き消えた。


「くそっ!」


 着地。と同時にウィルフレッドは辺りを見回す。父を抱える娘の姿が視界に入った。


「おい! 大丈夫か!?」

「うぃ、ウィルフレッドさん……」


 マリエルは涙を流して抱きついてきた。勝利した時の嬉し涙とは違う。それは、悲しみであったり、怒りであったり、やるせなさであったり、そういった負の感情で流す涙だった。


「お父さん……お父さんがっ……!」

「……!」


 胸元で響く嗚咽混じりの声を聞きながら、


「くそっ!」


 また、悪態をついた。

 仰向けになって静かに眠る男の姿を見る。安らか、とは言えなかった。

 絶望か後悔か、その顔が何を語りたいのかは分からなかった。


 ——ようやく仲直りできそうだったってのにな……。


 それでも、娘に見せる顔がそれではあんまりだろうと、右手を被せて、そっと目を閉じさせた。


 ドオン! と爆発音が観客席の方から響いた。

 それも一つや二つではない。幾重にも重なった爆音がすり鉢状のコロシアムの中で反響する。


「な、なんだ!?」


 周囲で火の気が上がる。

 会場が崩れ、瓦礫が降り積もる。

 混乱の渦の中で人々の波は荒々しくうねる。


「こいつぁやべぇな……リアム!」


 少年の名を呼ぶ。


「……リアム? どこ行った!? リアム!」


 もう一度呼ぶ。しかし、返事をする者がいない。

 リアム・バージェスの姿がコロシアムから消えていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「何事だ!?」


 赤い装束に白い仮面をした女が叫んだ。


「会場内にて突如複数の爆発が起こった模様! 現在一番隊で原因の究明、解決に当たっています!」


 レヴィン・アルドリッジが敬礼をしながら答える。そして、二人の後方から走ってくる人影。

 青い髪、ヴィオラ・リーヴィだった。


「報告、市街地でも同様のものと思われる爆発が複数発生!」


 コクリと状況を飲み込み、白い仮面が頷く。


「一番隊は引き続き、原因の究明と会場内の避難誘導を! 二番隊は市街地の爆発を調査をせよ!」


 はっ! と隊長二人が敬礼。すぐに散開して行動を始める。


「クーラ副隊長ついて来い!」


 ヴィオラの指令に従い、一人の隊員が後ろについて行く。

 駆け足で会場を抜け出し、市街地へ、既に複数の煙が各地から上がっている。


「酷い有様だな。まったく最低の気分だ」

「隊長、指示を!」


 青い髪の少女の眼前に敬礼をしながら整列した集団が一斉に言う。


「小隊規模に分かれて各爆破地点の調査に当たれ! 相手はおそらく教団だ! 遭遇した場合、遠慮はいらない、叩き潰せ!」


 はっ! と敬礼が響く。

 迅速に部隊は動き出し、市街地の中に入って行った。


「我々も行くぞ、副隊長!」


 続いてヴィオラ含む、十人の正体も動き出した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「レヴィンさん!」


 会場の中でレヴィンを呼び止めたのはリアムだった。

 息を切らせながら走り込んで来た少年の様子に驚きながらも冷静にレヴィンは返事をする。


「リアム君! どうしたんだい?」

「お、お聞きしたいことが……!」

「なんだい?」

「リーヴィさん……ヴィオラさんは今どこにいますか!?」

「ヴィオラなら今は市街地で起こった爆発に対応しているが……」

「ありがとうございました!」


 それだけを行ってリアムはまた駆け出した。少年の灰色頭が人波の中へと消えて行った。


「ど、どうしたと言うんだ……?」

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