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気になる終末空模様  作者: 永見坂
第一章〜テウルギア編〜
21/35

その隙を突け

 ——どうする……。


 思考する。

 現状、完全無欠の戦士となっているアルマンを打破する方法はない。いや、彼自身の動きは単調だ。攻撃と追跡、大きく分けてしまえばこの二つだけ。防御すらしていないのだ。その攻撃の隙を突くことは可能。既に何度か行っている。


 問題なのはその背後にいるメアリー・キャンベルだ。

 彼女の魔術は短い詠唱を持って力を発揮する。影をあの漆黒の甲冑の中に潜ませて、迎撃の時を待っている。

 それがアルマンの隙を埋める。戦っているアルマン自身の認識ではなく、後ろで静観している術者の意思によるものなのだから尚更厄介だ。

 ふと、違和感が頭の中に残った。


 ——二人の魔術を一人に収束し、一人の完全無欠の戦士を作り出す魔術? おかしい、ただの魔術戦ならこれはむしろ悪手だ。僕達たちみたいな凡人相手なら、アルマン一人も抜けずにお手上げだろう。

 しかし、魔術師二人を相手取るならこんな戦法は取れない! 普通なら取ったと思える戦況を簡単に抜け出すのが魔術。アルマン君を対処し、要であるメアリーさんを取ることなど造作もないはず! なのになぜ……!


 不意に一つの結論に至った。

 客席の方に視線を向ける。——見つけた。金髪で眼鏡をかけた男の姿、マリエルの父であり、現二年生の担任でもあるクリストフ・クーヴレールの姿が。

 唇を噛んだ。


 ——そうか、そういうことか……。あの人は凡人である僕らを徹底的に叩き潰すつもりなんだ! その為の人選、戦法なんだ! 他の試合なんて関係ない、自分の娘に教育する気だ。魔術こそが絶対であると……!


 リアムはマリエルを抱えたままその場で動かなくなってしまった。

 そのリアクションに会場もざわめき始める。

 ビビっているのだ。考えているのだ。恐怖で足も動かないんだ。だらしないやつだ。様々な声が出始めた。


「り、リアム君?」

「……せない」

「え?」

「そんな呪いみたいなこと、絶対にさせない」


 リアムの目つきが変わった。

 ぞくっと、間近で見たマリエルの背筋に寒気が走る。


「凡人でも魔術師に追いつける。それを証明するために僕達は頑張ってきた」

「え? そ、そうだね」


 吸って、吐いて、深呼吸。今一度呼吸を整える。今一度あの一ヶ月の鍛錬の日々を思い出す。

 ウィルフレッドが言う無情剣という技術は結局掴めなかった。

 ウィルフレッドは言った。あれは経験の賜物であると、魔術師との戦闘経験から得られる技術であると、しかし、生憎、魔術師との戦闘なんてウィルフレッド一人としかやったことがない。

 ……いや、ウィルフレッドは本当に無情剣のやり方を教えていたのか?


 考えろ。

 無情剣は隙を突くことで見せかけの圧倒、魔術師の計算を狂わせる技。

 リアムは果たして何をしていた? 歴戦の魔術師であるウィルフレッドの隙を一度だって突けたか? 圧倒できたか? ……出来なかった。それはむしろ逆で、


 ——隙を突かれて圧倒され続けたのは……僕の方?


 呼吸を盗む。その言葉の意味。自分はどんな呼吸をしている? そして、圧倒された時はどうだった?


 ——僕はどうやって圧倒され続けてきた?


 ウィルフレッドが教えてきたのは無情剣などではなかった。

 無情剣を受けた側、やられる側の心理だった。


 ——そうか、だったら……彼らの視点になればいいんだ! 魔術の計算って言うのがどう言うのかは分からない、でも使うタイミングが大まかにでも分かれば、無情剣にはならなくとも、そこに生じる真の隙を突くことが出来るんじゃないか!?


 ぐっと拳を握って、握った拳で頰の汗を拭った。


「マリエル、剣を一本貸してくれないか?」

「え? いいけど……」

「それと少し、試してほしいことがある。それが失敗すれば、たぶん僕達の負けだ」


 マリエルから短剣が一本リアムへ手渡された。と同時にボソリと耳元で呟く。

 左右それぞれにリーチの違う剣を持ち、今までとは違うスタイルになってリアムは突撃する。


「ち、ちょっと!? リアム君どういうこと!?」

「うぉぉおおお!!」


 突撃した先にいるのは漆黒の甲冑に身を包んだアルマン・パーカー。

 彼は正面からリアムの剣撃をその装甲で受け止める。しかし、リアムは怯むことなく新たに加えられた短剣で追撃。だが、それも同じように受け止められる。


 ——ここ!


 横に回り込んで、剣で関節部を狙った一撃。しかし、


「我が影は鋭利なる騎士の剣!」


 それも今までと同じように詠唱に従って伸びる影が迎撃する。


「まだだ!」


 リアムは剣を捨てた。


「なに!?」


 そして、短剣へと瞬時に持ち替えながら反対側に回り込み再度関節部への一撃!


「甘いですよ! 我が影は鋭利なる騎士の剣!」


 伸びる影の槍がリアムの腕を撃ち落とした。

 今までと違うスタイルに戸惑いながらも見事に対処してくるあたり、流石学年一位を誇る生徒だな、とリアムは感心した。だが、


「だけど勝ちは貰うよ!」

「え?」


 グシャッ、突如メアリーの伸ばす腕から赤く噴き出した。


「え? え? あ、あ、あ、痛い。痛い! 痛い!」


 激痛に悶え苦しむメアリー。その腕には短剣が深々と突き刺さっていた。

 それは、マリエルが投擲した短剣だった。


「あ、当たって……よかったぁ」

「クソ! いつの間に!?」

「君が二回連続、魔術を発動させた時だよ」


 リアムが言った。


「僕は今まで剣一本で戦ってきた。だから君は知らずのうちに自分でリアム・バージェスは剣一本で戦うと決めつけ(インプットし)ていた。

 だから、僕がアルマン君の隙をついて攻撃したのを弾いても剣を捨てて、新しい剣で追撃した時に……少し焦った」

「か、完璧だったはずだ。その対処は完璧……っ!」


 何か言いかけて、そこでメアリーはハッとなった顔をした。


「そう突発の出来事にも対応は完璧だった。アルマン君のサポート役としてはね。だから、隙を見せて(ホッと)してしまったんだ」

「く、な……舐めるな! 例え腕が千切られようとも私の魔術は詠唱! 口さえ動けばいい! アルマン!」

「ゔぉぉおおおおお!!!!」


 メアリーの呼びかけに対してアルマンは雄叫びで応える。

 すぐさまに漆黒の甲冑は動き出す。目標は目の前に佇むリアム・バージェス。


 上半身を捻らせ、最大威力の拳を放つ。

 その衝撃で大量の砂が舞った。両者の影が砂塵で掻き消えた。


「力任せに拳を振るってもダメだよ。僕達が今まで交えてきた剣の強さは……こんなものじゃない!」


 ザンッ! 甲冑の弱点、関節部を捉えた一閃。

 砂埃が収まる。と同時にそれに混じった黒い霧が噴き出た。

 しかし、それはすぐに晴れて、うつぶせに倒れ、甲冑を剥がされたアルマンの姿がそこにはあった。


「なっ!? し、しかしは私は……!」

「うぉぉおおおお!!」


 マリエルがメアリーに向かって突撃を開始していた。ヒッと短い悲鳴が出るが、すぐさまメアリーは迎撃に移る。


「我が影は鋭利なる騎士の剣、我は将、軍を率いて千の剣を連なせる者なり!」


 今までとは比べ物にならない量の影がメアリーの足元から這い出てくる。

 一本一本が的確にマリエルを狙い、その華奢な身体を貫かんとする。するが、


「私達が今まで受けてきた剣はもっとずっと速かったよ!」


 黒い剣の雨の中を全速力で走り抜けるマリエル。しかし、その身は一度だって切られてはいない。

 全ての斬撃を巧みに交わし、そして、到達する。メアリーと肉薄した、その距離まで。

 硬く拳を握る。


「そ、そそ、そんな! 私が負ける? ただの人間相手に!?」

「剣は全部貸しちゃったからね! 最後の一撃が土臭くって……ゴメンねっ!」


 渾身の右ストレートがメアリーの顔面に綺麗に炸裂(クリーンヒット)した。

 身体がぶっ飛ばされ、一瞬だけ宙を舞い。ドサリと着地。


「ぐふ、あ……あ」


 メアリーは程なくして気絶した。


『き……決まったぁぁぁああああ!!!!』


 アナウンスと同時、会場が一斉に盛り上がった。手を握りしめて掲げる者。口を両手で抑え感涙する者。ニタリと笑った者。関心を寄せる者。歓声をあげる者。


『学年対抗トーナメント! 今年の優勝は……卒業生チームだぁぁぁあああああ!!!!』


 またアナウンスと共に歓声が湧き上がった。


「うぅぅぅあああぁぁぁぁぁ!!!!」


 リアムもまた雄叫びを上げていた。


「いぃやっっったぁぁぁあああ!!!!」


 マリエルも同様に叫んでいた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「…………な、なんだと!?」

「ふん、やるじゃねぇか。まだまだ荒削りだが、無情剣への第一歩ってとこだな」


 結果に驚愕するクリストフ・クーヴレール。その隣にはウィルフレッド・ローグが佇んでいた。


「お前、一体彼らに何を教え込んだというんだ!?」

「おいおい見苦しいぜ、クーヴレール先生よ? 俺はあいつらとチャンバラしてただけだ。あいつらが今勝ったのは、紛れもなくあいつら自身の力だぜ」

「…………」


 眉間に深くシワを刻み、コロシアムの中心に立つ娘の姿を父親は見ていた。

 しかし、ふと、全身の力が抜けたように父親はスッキリした顔で肩を落として言った。


「……認めざるを得まい。私が間違いであった」

「意外とあっさり引くんだな?」

「娘の成長を喜ばない父親がどこにいる。あいつは課題をクリアしたのだ。教師としても喜ばしい……かな」

「……やっぱ教師って生き物はめんどくさくっていけねぇや」


 クリストフは踵を返して歩を進めた。観客席の出口に向かって。


「どこに行く気だ?」

「……なに少し急用ができただけだ」

「急用……ね」


 フッ、とどこか愉快そうな笑みを浮かべてウィルフレッドはその背を見送った。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「フフフフフフ、いい、実にいい!」

「その気持ち悪い、笑い方やめろ」

「そう怒らないでおくれよデュリオ君。まさかあの時出会ったおよそただの少年がこのように成長してるとは……! フフ、いい、実にいい……!」


 はあ、とデュリオが一つため息。


「それよりも結果は出ただろう? 貴様の勧誘はどうなるんだ?」

「まあ、焦らないで待ちなよ。これからその答えを見ることになるのだからね……!」

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