5話
時間がぁ(´・ω・`)
私がリビングで、お婆ちゃんの本を読んでいると、いつの間にか昼過ぎになりお婆ちゃんが戻ってきていた。
「セレネや、随分と熱心に本を読んでおったが何かあったのか?」
「……お婆ちゃん、"魔法"ってなに?魔術と何が違うの?」
私の言葉に、一瞬驚いた表情をしたお婆ちゃんだったけど、直ぐに真面目な表情になった。
「……いつか言ってくるとは思っておったが、随分と早かったのう。ジェームズからでも聞いたのか?」
「……うん」
「……そうか。まぁ、いい。いずれ教えるつもりでおったしのう」
そう言うと、お婆ちゃんは椅子に腰を下ろした。何時も魔術のことなら「外へ行くぞ」と言うのだけど、今回は違った。
「……セレネは、"精剣"と言う物を聞いたことはあるかい?」
私は首を横に振った。"精剣"と言う物があることは知っているけど、どんなものかまでは知らない。
「"精剣"とは、人の精神――心が形になったものとされておる。大抵、特殊な能力を持っておるのう。名の由来は、最初の精剣の形が美しい剣だったから、じゃったか。じゃが、その形も能力も人それぞれじゃ。ある者は一本の剣、またある者はドレスのような服だった事もある」
お婆ちゃんはそこで言葉を区切り、右手を前につきだした。すると、突然お婆ちゃんの右手に黒い一本の杖が握られていた。先端に紅い宝石の付いた不思議な杖。
「これが、私の精剣じゃ。銘を〈カドゥケウス〉という。能力は、"万能"。本来不可能とされている"魔法"の特異属性を含む全属性を扱えるようになる能力じゃ」
そう言うと、お婆ちゃんは杖に魔力を流しだした。直後、詠唱も魔方陣もなく魔術が発動した、ように見えた。現に、お婆ちゃんの持つ杖の周りに、火と水、風、岩、光、闇の小さな球が一つずつ浮いている。
「これが"魔法"と言うものじゃ。己が精剣を媒介に詠唱も魔方陣も必要なく魔術に限りなく近い力を行使する方法じゃ。今では、魔法を扱えるようになってようやく魔術師は一人前と言われるようになった」
それだけ言うと、辺りを漂わせていた魔法と杖を消したお婆ちゃんはこう続けた。
「魔法は基本、自身がもっとも適正を持つ属性しか使えん。そして、どこまで強力な魔法を扱えるかは、術者の才能に大きく影響されおる。………魔術以上にのう。精剣もそうじゃ。自身の持つ精剣は生まれつき決まっておる。心の持ちようで能力の強さは変わるが、やはり上位のものには敵わんのじゃ」
そこまで言ったお婆ちゃんはひどく悲しげな表情をしていた。
「私は……セレネに辛い思いをさせたくなかったんじゃ。もし、弱い精剣じゃったとしたら、自身に才能がないと知ったら、セレネがどんな表情をするか。私ゃ、それが見たくなかったんじゃ。すまんかったのう」
……お婆ちゃんは、私以上に思い悩んでいたと感じた。私が、なにも知らず魔術を学びそして魔法を知ったときのことをずっとお婆ちゃんは考えていたんだと理解してしまった。でも……
「……お婆ちゃん。やっぱり私、魔法も使えるようになりたい。魔法が使えれば、お婆ちゃんのお手伝いがもっとできるでしょ?私は、お婆ちゃんが楽をできるようにしたいの」
「じゃが……。いや、分かった。私が教えられる全てを教えてやるわい。………大事な孫娘の珍しい我が儘じゃしな」
「ありがとう、お婆ちゃん」
私は、久々に泣いた。けど、今回は悲しくてではなくて、笑顔の嬉し涙だった。
暫くして、私と落ち着いてきた頃、お婆ちゃんが奥から一個の水晶を持ってきた。不思議な魔力を感じるその水晶を私の前の机に置く。
「これは、人の持つ適性を調べる魔道具じゃ。手を触れ魔力を少し流すだけでよい。あとは、光ったときの色で判る筈じゃ」
「う、うん。やってみるね」
言われたように、水晶に手を当て少しずつ魔力を流していく。すると、水晶の中心から光が出始めた。魔力量を制限しているせいか淡い光ではあるけど。色は、黒と金だった。私はこれが何を示しているのか分からない。だからお婆ちゃんの方に顔を向けた。
「ふむ、闇と………なんじゃろうな、これは。金色の属性は聞いたことがないのう。特異属性なんじゃろうが、私にも判らんなぁ」
「そう、なんだ。……良いのか悪いのか分からないね」
「そう悲観するでないわい。二属性の適性、それも片方は特異属性というのは本当に珍しい。その特異属性が何であれ誇ってもよいものじゃぞ?」
「うん。それじゃ、次になにすればいいの?」
「そうじゃな、次は……精剣を出してみるしかないのう」
そう言ったお婆ちゃんは、もう一度黒い杖――カドゥケウスを出した。何をする気なんだろう。
「精剣は、身体の中心に魔力を集めて後に、そのまま体外に出せば自然と形になる……と思う。すまんが、これに関しては感覚じゃからなぁ」
「え……それじゃあ?」
「まぁ、頑張れ。セレネなら出来る出来る!」
せ、精神論なの、お婆ちゃん……。
でも、やれるだけやってみよう。やってから考えよう。魔術の練習もそうしてきたのだから。
えーと、身体の中心に魔力を集めて……。うん、胸の辺りが熱い気がする。魔力って集まるとこんな感じなんだ、不思議。で、この集めたまま身体の外へ……!
「おお、流石じゃのう。……じゃが、これは!?」
「な、なにこれ……!?」
魔力操作に集中し過ぎていつの間にか目をつぶっていた私が、目を開けてみると驚く光景があった。私の周りに黒い霧のようなものが漂っていた。詠唱も魔方陣も無いから魔術ではないはず……。
「お、お婆ちゃん!?これなに!?」
「……恐らくそれがセレネの精剣なのじゃろうな。特殊型か……とことん珍しいのう」
その後のお婆ちゃんの説明曰く、精剣には"武器型"・"防具型"・"道具型"の三種と、それ以外の"特殊型"の四種類に分けられるらしい。
武器型は、剣や槍、弓みたいな武器の形をしたもので攻撃的な能力が多く、最も多い形でもあるらしい。
防具型は、鎧や盾、服の防具や衣服の形をしたもので戦闘の補助が主な能力らしい。
道具型は、鍵や針、筆のような形をしたもので戦闘には不向きだが個性的な能力が多いらしい。
そして、特殊型。これは、生物の形をしていたり他の形の複合型らしい。能力も特殊らしく、適性のある人が最も少ないと言う。私の精剣もこれに当たるのだけど、お婆ちゃんは私のような不定形は見たことがないそうだ。
「……お、お婆ちゃん」
「うむぅ、能力も判らぬしどうしたものかのう。一先ず、魔力を流してみてはどうじゃ?」
「う、うん。わかった。」
言われた通り魔力を流してみる。すると、黒い霧の一部が集まり小さな犬のような形になった。な、なんなんだろう本当に。
「わん!」
「なんじゃ!?犬に成りおったぞ!……これが能力なのじゃろうか?"形状変化"か?いや、しかしこれだけとは思えんのう」
「ど、どうしたらいいんだろう。お婆ちゃん!」
「……もう精剣を消しておくか。何かあったら困るからのう。精剣を破損すると自身に精神ダメージとしてフィードバックが起きるのじゃよ」
「う、うん。わかったよ、お婆ちゃん」
私は、消えてっと念じると私の周りを漂っていた残りの霧が薄くなっていく。ただ、黒い犬は消えなかった。ずっと私の足にすり寄っている。……なんで?
「…………お、お婆ちゃん?」
「…………生物形の特性を持っておるようじゃな。名前をつけてやれば主従関係が出来て消せるようになる……筈じゃ」
名前を決めなきゃいけないの?
ええ~とどうしよう。直ぐには思い浮かばない。ずっと黒い犬はこっちを見てきていて……本当にどうしたら。私は周りに目を逸らすと、机に置いていた本が目に入った。確か、この本にも犬が出ていたと思う。確か名前が……。
「……"ハティ"ってどうかな?」
「……それは狼の名前じゃろう、セレネや」
「えっ、そうだっけ!?」
「わんわん!」
「な、なに!?」
黒い犬に私から魔力が流れていく。急激に魔力が消費されていく感覚。魔力残量低下時特有の目眩に似た症状がしてきたけど耐えられないほどじゃなかった。
そのあと、魔力の流出が収まったら黒い犬は少しずつ消えていった。名前が認められたのかな?
「……ハティ、今度はちゃんとした時に喚ぶからね」
「わんわん!」
ちゃんと返事をしてくれた。なんか嬉しいな。
「……まあ、良かったのう。明日からは魔術と合わせて精剣と魔法の練習もするとしようかの。精剣の能力と金色の属性も探さねばならんしのう」
「うん!よろしくお願いします、お婆ちゃん!」
不安もあるけど、明日からが楽しみでもある。
セレネ十歳、魔法デビューです!
わかりづらかったらごめんなさい。
シナリオ的にはまだ序章扱いです。もう少しお付き合いください。あと3~5話で序章を終えて、その次の話で学校入学まで行けるようにしたいとは思ってますので( ̄▽ ̄)ゞ