11話
二日目です
入学試験会場になっている"第一実技棟"は、もの凄く広い上に、色々な器具が置いてある建物だった。どれくらい広いかと言うと、この建物だけで貴族の豪邸と同じくらいらしい。この規模のものが幾つもあると言うのだから、この学園は凄いと思う。
そんな光景に驚きながらも、「魔術科志望者」と書かれた看板の所へ向かう。既に、殆どの人が集まっていたみたいで、大体八十人位かな。そして私が最後だったらしく、看板を持っていた男子生徒の隣に立っていた男の人が話し始めた。多分、先生なのかな。
「えー、今から魔術科編入試験を始める。私が、魔術科の試験官だ。試験内容は受付で渡されたパンフレットにも書かれていた通り、今から各自魔術、もしくは精剣、魔法を使ってもらう。その結果によって、合否を此方で判断させてもらう。……ただ、今年は例年より魔術科の枠が少なくてな。大体、30名程が合格することになると思ってくれ」
この内の過半数が不合格になると知って、不満の意を示す声が至るところで上がった。……私からしたら、三十人でも多いんじゃないかなって思うけど。そんなに皆魔術に自信があるのかな。
「今から行う一般試験後に、特待生用の試験を行う。希望者は一般試験終了後、私の所まで言いに来てくれ。一般編入枠とは別枠だからな。自信のある者は進んで受けてくれ。……では、始めるぞ!」
試験官を名乗る男の人は、魔術を使って少し離れた場所に土で出来た的を幾つも作った。同時に魔術を発動させていたみたいなので、それなりの実力はあるみたい。でも、お婆ちゃんと比べると児戯にも等しい……かな。
「攻撃魔術か魔法を使うものは、あの的に向かって撃ってくれ。それ以外のものは、その場で使ってくれても構わんぞ」
と言うことらしい。魔方陣に描かれている魔術式を見る限り、的を強化する効果もあるみたい。初級の真ん中までなら、耐えられそうにも見える。……そういうところを見極められるかのテストでもあるのかな?
「誰からでも構わんぞ。各自、名前を言ってから順に始めてくれ」
「では、上級貴族である僕、オーガスト・アンデルから行かせてもらおう。『炎よ、すべてを穿つ槍となりて、我が敵を穿て』!」
「……ほう。中級魔術をもう使えるのか。流石だな」
「はぁ、はぁ、上級貴族たるものこのくらい当然です!」
偉そうな貴族らしい男の子が火属性の魔術を的に向かって撃った。結果は魔力切れ間近で息が上がっているものの、的は砕けたため誉められていた。歓声もそこかしこで聞こえる。でも、あれって火属性の初級魔術じゃなかったけ?どういう事だろうか。お婆ちゃんが嘘を教えていたなんてあり得ないし………。
それからは、順調に試験は進んだ。時折、精剣を出せる人がいたり、魔法まで使える人もいた。特に、赤髪の女性と青髪の女性は凄いと思った。試験官も唖然としていたし、話からして二人共に上級貴族らしい。仲も良さそうな美人さん達だった。
そんな事がありながら、平民な私は最後の方に順番が回ってきた。初級が中級と呼ばれている謎も解決しないいままで。
「………よし、君で最後だな。名前は何て言うんだ?」
「セレネ・ティアットです」
「ふむ、平民かな。気構えずに何時も通りやればいいからな」
………なんか優しい。少し気味が悪い。あと顔がほんのり赤い気がする。さっきまで、怖い感じの印象だったんだけど………。それと私、凄い注目されてる気がする。さっき言ってた二人よりも見てる人――特に男性、他の試験官も含めて――が多い気がするよぉ。緊張してきた。………ええい、何時も通りやれば受かるってジェームズおじさんも言ってた!
「『咲き誇れ、青い花よ』」
「………っ!?な、んだこれは。中級?いや、上級魔術クラスじゃないのか!?」
「それをたった2節で!?」
「おい、それよりもなんで学生ですらない子供が魔力で魔方陣を描く術を知ってるんだ!?この学園の講師ですら、出来ない人の方が多いんだぞ!?」
「ふう、良かった。失敗しなくて……」
私が使ったのは、お婆ちゃんが私に見せてくれた氷の花を生み出す魔術だ。お婆ちゃんが使っていた程の規模でもないし、二節詠唱なんだけどね。やっぱりお婆ちゃんって凄かったんだ。……それよりも、他の試験官も含めて凄い慌てているみたい。私、何かやっちゃったのかな!?
「……一つ聞かせてくれ。君は誰かに魔術教えて貰った事があるのか?」
「はい、お婆ちゃんに教えて貰っていました」
「その人の名前は……何て言うんだ?」
「えーっと、マーリン・ティアットです」
「……聞かない名だ。だが、これは………」
他の試験官達もお婆ちゃんの事を知らないみたいで、ポカーンと氷の花畑を見ている。少し悲しいな。おじさん、お婆ちゃんが稼いでいたっていうからてっきり有名なのかと思ってた。……あっ、氷溶かした方がいいのかな。このままだと邪魔になるしね。
「あっ、おい!何をする気だ!?」
花畑の下に展開した魔方陣に気づいたのかな?でも、その内容を読み取れないなんてお婆ちゃんからしたら三流もいいところらしいね。
「大丈夫ですよ。『溶かせ』」
「!?……氷の花が消えていく。溶かしているだけなのか。……だが、溶かすだけなど、とてつもない魔力操作が要求されるはず……」
「あ、床が濡れてしまいました。すみません、今乾かしますから!」
「いや、そこまでしなくてもいい!君は文句なしの合格だ。もういいぞ!」
……床は土のところや木材の所があった。魔術や魔法の練習に合わせて使うのだろうけど、濡れたらどちらにしても不便になりそうなのだけど……。
「あー、ごほん。ちょっとしたアクシデントはあったが、これで一般編入試験は終わりだ。この後の、特待生用の試験を受ける者以外は帰って構わんぞ。後日、合格者一覧を張り出すからな」
えーっと、これでおしまいらしい。なんと言うか……アクシデントって私の事だよね。本当にごめんなさい。
特待生試験は、受けた方がいいんだっけ?おじさんも、私なら受かるって言ってたし。
「ねぇ、あなたって凄いわね!どうやったら、あんな緻密な造形ができるの?」
「えっと、私……ですか?」
「そうよ!あなた以外に居ないじゃない!」
話しかけてきたのは、赤髪の女性だった。特徴的な赤い髪を後ろで一本に纏めている。眼も炎のような美しい赤だ。スレンダーな体型をした綺麗な人だと思う。
隣には、正反対の淡い青色の髪をした女性がいた。長い髪を後ろで複雑に編み込んでいるみたい。眼も正反対に青い。宝石のサファイアみたいな綺麗な青だ。それと、こっちは随分と大きい。ある一部分が。……私も小さい訳じゃないけど、これだけ大きいと凄いと思う。重くないのかな?
「もう、ステラちゃん。ティアットさんが困ってるよ?」
「あ、いきなりでごめんなさい。レイラもありがとね」
「あ、私は気にしてませんから。それに、私よりお二人の方が凄いと思いますよ?お二人の精剣、強力そうでしたし」
「あー、あれはね。私達、上級貴族なんだけどね。遺伝なのよ、あの精剣は。たまにあるの、強い精剣が遺伝することはね」
「そうなのですね。知りませんでした」
二人の精剣は明らかに強い部類の物だとは見てわかった。お婆ちゃんの"カドゥケウス"と大差ないくらいだと思う。……それよりも、精剣って遺伝するんだ。私も、お婆ちゃんと同じなら良かったのになぁ。
「そんな事よりも、どうやったらあんな綺麗な魔術が使えるようになるのよ!」
「……私も気になります。もしよかったら教えて貰えませんか?」
「あ、えーと、その…………」
そう言われても戸惑ってしまう。私の魔術はお婆ちゃんに魔方式に使うルーン語を教えて貰ったから出来るもので、初級魔術を中級だと勘違いしている現状では魔力操作や魔方陣構築がちょっと難しいかもしれない。
「あ、自己紹介が未だだったわね。あたしは、ステラ・フレイス。で、こっちが……」
「レイラ・ケアノースと申します。宜しくお願いしますね」
「……セレネ・ティアットです。こちらこそ」
私自身は、二人の家名に聞き覚えはないけどおじさんならなにか知ってるかな?今度聞いてみよう。
「で、どうしたらあんなこと出来るのよ!」
「えーっと、ルーン語を学べば自然と出来るようになります、よ?」
「レイラ!ホントに!?」
「……私も、ルーン語を学んでいるけど出来るとは思えないよ。恐らく魔力操作とか魔力量の関係だと考えるのが妥当だと思うけど」
「さっすがレイラ!頭良いわね」
レイラさんはとても賢いみたい。私が言い淀んだ箇所を完璧に察してしまった。……悪いことしちゃったかな。
「そういえば、もうすぐ特待生の試験が始まりますが、ティアットさんも受けるのですか?」
「はい。そのつもりです。ケアノースさん」
「じゃあ、三人で頑張りましょう。あ、私のことはレイラで構いませんよ?」
「あたしもステラでいいよ!」
「……じゃあ、私のこともセレネで良いです」
「うんうん!三人一緒に合格すればいいね!」
ステラさんは随分と明るい性格をしているみたい。貴族の人には見えないなぁ。
特待生……特に思うところはないけど頑張ってみようかな。
お婆ちゃん、私、初めてのお友達が出来そうです!




