初彼
初投稿です。うまく書けているかわかりませんが、よろしくお願いします。
「メグミ、早く起きなさい。遅れるわよ」
ママの声が響いている。ヤダヤダ、学校なんて行きたくない。布団を被って、聞こえないふりをする。
「メグミ、何しているの?」
ママの声が鳴り響いている。仕方なく、バタバタと階段を降りて下に行く。食卓は、ご飯、味噌汁、玉子焼きなどが並んでいて、いい匂いで包まれている。
「はあ」
深くため息をつく。
「学校なんて、行きたくない」
ママは自分のことで一生懸命であたしの話を聞く余裕はないらしい。いつもスルーされる。せめて、「どうして?」って聞かれたら、あたしも救われるんだけどな。
「皆、そんなものよ。早くしなさい」
いつも、いつも、皆って・・・・・・。十把一絡げにしないでほしい。
中学校までは成績が良かったあたしも進学校に入学してから、自分がいかに井の中の蛙かということがわかってきた。授業は理数系がついていけない。勉強も運動も至って普通。目立たない地味女でしかない自分。もっと自分よりすごい人がいっぱいいる劣等感。こんな世界に毎日出かけていかなければいけないのは、つらい以外、何者でもなかった。
「メグミ、おはよう」
教室につくと、ユリが声をかけてきた。ユリは高校に入学して前後の席になったことから、一番最初に友達になった。でも、ユリの存在があたしの登校拒否に更に拍車をかけていた。
成績もよくて、泳ぎが特に得意で、家庭的で美人で何でもできるマドンナ的存在のユリ。美人なのに、気取ったところがなくて、地味なあたしとも仲良くしてくれる。なぜか二人は仲良くなって、一緒にいることが多かった。それはあたしにとって、嬉しい反面、苦痛でもあった。
「おい、メグミ。そこ、どけよ!」
今日も男子になぜか怒鳴られているあたし。ユリのファンクラブの男子がまた一斉に押しかけている。
「写真撮りたいんだけどさ、お前、邪魔なんだよ!」
はあ、いつものことだ。ユリのそばを離れて、写真に入らないようにする。
「お前さ、なんでいつも、ユリと一緒なんだよ。コクれないだろ?」
ユリがいつも、あたしのところへ来るんですけどね。はいはい、すみませんでした、と。
そんなこんなで、あたしは壊れそうになっていたとき、電話が鳴った。
「あのさ、あの。つきあってほしいんだけど」
相手は同じクラスの男子のユズルだった。容姿はそれほどでもないけど、頭は飛び抜けて良かった。
「えっと、つきあってほしい、とユリに伝えておけばいいのかな?」
「はっ?」
石のような重い沈黙が続いた。
「ユリに伝えておくよ」
「何言ってんだよ!」
ユズルはちょっと怒りの声をあげている。
「あのさ、俺は、メグミと付き合いたいんだけど」
「ええっ?」
今度はあたしがびっくりする番だった。
「ユリじゃなくて、あ、あたし?」
「そうそ。いや?」
「いやじゃないけど、なんでユリじゃないの」
またしばしの沈黙・・・・・・。
「最初はユリの方に目がいってたんだけどさ、なぜか隣りにいるメグミが気になり出した」
ユズルの言っている意味がさっぱりわからない。どう考えてもユリでしょ?
意味がわからないながらも、あたしはユズルと付き合いだした。勉強を教えてもらったり、帰りは遅くなったときに送ってもらったり、高校三年間はユズルのおかげで楽しく過ごせるようになった。
「あのさ、女子ってさ、たくさん言い寄られればいいってもんじゃないと思うんだ。どれだけ、一人のひとに深く愛されるかだと思うよ」
ユズルの言葉にあたしはこくんと頷いた。
大学受験に合格し、ユズルは上京して国立大学の医学部へ。あたしは地方の大学に行くことになった。
「ユズル、三年間、ありがとう。上京して会えなくなるから、別れよう」
別れを切り出したのもあたし。自信がなかったんだ。彼が上京してもっと素敵な女性に恋に落ちて、捨てられる未来が目に浮かんできてしまった。あたしのこれっぽっちもないプライドを守る防御策だった。
あれから何十年という日がたった。彼は、医学部を卒業して医師になり、クリニックを経営している。そのホームページにちょこっと遊びに行くのが今のあたしだ。
人生に「もしも」はない。だけど「もしも、あのとき別れなかったら」とよく思う。あたしには大切な家族もできた。これからは悔いのない青春を歩んでいきたいものだ。
人生に「もしも」はない。だけど、どうしても考えてしまう。
「もしもあのとき・・・・・・」