真面目を囲い込む狼さんのアレコレ
ちょっと気持ち悪い男の子を書いてみたかった。
滝田智子は真面目が服を着た人間だと言われている。
指定の枠からはみ出さない、一言で言えば『ダサい』制服の着こなし。校則通りの、眉上前髪と、みつあみ。化粧なんてしない。
頭がいいというよりは、先生受けがいいので、よく雑用を頼まれている。不器用ではないけれど、人よりワンテンポ遅れて物事が完結する。
よく、困ったように笑う。
そんな滝田。
そんな彼女に、どうしようもなく欲情してしまう俺は、やっぱりちょっと変なのだろうか……。
ーーー例えば。
ワイシャツの袖からのぞく華奢な手首とか。
ーーー例えば。
みつあみがさらりと落ちる首筋とか。
ーーー例えば。
階段をのぼるときに後ろから見える膝の裏だとか。
本当に些細で、どうしようもない一瞬。
俺は彼女にすごくエロさを感じるのだ。
ーーー例えば。
困ったように笑ったときの、目尻だとか。
いや、男子高校生たるもの、これくらいのエロスは友だよな。
きちんと女子は可愛いと思うし。うんうん。
「いや、お前は変態だよ」
「な、何?!」
「お前、昨日コクってきた、3年の先輩。去年のミスだぜ?」
「あー……か、可愛いとは思ったぞ?」
「いや、あの推定Fカップを前にして、その感想かよ。先輩、1回だけもよさげな雰囲気出してたじゃん」
「……そうか?別に普通だったが」
そもそも高校生で、1回限りとかどうなんだろう。
俺は付き合うなら誠実にしたいと思うぞ。
「滝田なぁ……まぁ、可愛くないわけじゃねぇけど、普通じゃね?」
そう言って、樫井は教卓で次の授業の準備をしている彼女に視線を向ける。
「ーーー見るな」
自分でも驚くくらい、低い声。
滝田が俺のものでないことくらいわかっている。だが、自分以外のものになるのは我慢できない。耐えられない。
ーーーそんなことになったら、俺は何をするかわからない。
「怖ぇー」
少しだけ息を止め、こぼれ落としたように、樫井が呟く。
樫井が悪い奴でないことは知っているし、友達の恋路に首を突っ込む質でないこともわかっているが、滝田が絡むと駄目なのだ。
閉じ込めて、誰の目にも触れさせないで、俺だけを見て、俺だけを思えばいい。そんな妄想に、気持ちも体も昂る。
「……あ」
「んー?」
黒板の、上のほうが消せてない。背伸びしたために、少しだけ、隠れていた太ももが見え隠れする。上に上がったブレザーのスリットから、ウエストが覗く。
ーーーゾクゾクする。
「滝田」
「っ、え、へ?」
「上のほう、俺消すよ。貸して」
「え、あ、ありがとう?」
「いいえー」
さりげなく黒板消しを持つ滝田の指に触れ、皮膚を指先で軽く撫でる。
滝田は声にならないようで、口をパクパクさせ、顔を真っ赤にした。
ーーーあぁ、ほんとに、ツボな反応してくれるよなぁ。
「他の教科係は?」
「え?あー、どこ行ったんだろうね」
へにゃりと困ったように笑う。俺がクラスメートを誘導して、仕事を滝田に押し付けるように画策していると知ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
呆れる?
怒る?
泣く?
ーーーまぁ、どんなことになったって、滝田を逃がす気はないのだけど。
「今日のお礼はどうしようかなー」
「えっ?今日も?」
「だってコレ、俺の仕事じゃないし」
「うぅぅぅ」
ーーー滝田の仕事でもないけどな。
「今日の弁当は?」
「玉子焼きとほうれん草のおひたしと……唐揚げ」
「じゃ、俺のパンと交換な」
「うぅぅぅ」
ーーーさぁ、早く俺におちてこい。
「アイツさー、新入生代表で挨拶してたし、テストもトップ5から落ちたことないしさー、運動も出来たしさー。部活は入ってなかったみたいだけど、助っ人っつうの?よく駆り出されてたなー。超絶美形ってわけじゃねーけど、雰囲気イケメンっていうの?敵を作らないし、女受けも男受けもよかったしさー。出来すぎくんかっつーの!……まぁ、滝田に関しての執着?っぷりに周りドン引きだったけど。知らなかったの、滝田だけじゃね?あ、今、滝田じゃないんだっけ?大学卒業してすぐ入籍して、専業主婦させてるって?うーわー……
ご愁傷さま」
“俺”の名前が最後まで出てこないってゆー。