勝負の行方
アリシア本人の気持ちを無視した身勝手な賭けにフィリカは憤慨した。
「ちょっと、お姉様の気持ちはどうなるのよ!!」
二人の剣士が一斉にこちらを見たのでアリシアは戸惑うばかりである。
「その……、困るわ」
「そりゃ困るだろうな。だが、人生には咄嗟に決めなければならないことだってある」
ガトルが自身の無茶ぶりをもっともらしく語り、それをシオンも否定しないので彼女は更に困惑した。
「アリシア、まさか俺が負けると思っているんじゃないだろうな?」
「えっ?」
シオンの鋭い眼差しに一瞬心臓が跳ねた。
どう解釈してよいのか悩んでいるうちに二人は座っていた椅子を足で押しのける。
「ここは穏やかにこれでいこうか」
と、シオンの腕より一回り太く筋肉に覆われたそれを叩いてみせた。
レストランにいた客達も思い掛けない剣士同志の腕相撲対決に興味津々で集まってきて、挙げ句にはあの料理長まで仕事を放り出して審判を買って出る始末だ。
こうなったらさすがのフィリカも止められずアリシアに肩を竦めた。
両者テーブルに肘をつき互いに手を握り合うと対峙した。
「レディ、ゴー!!」
料理長の合図で瞬時に腕に力を込めると二人の筋肉が盛り上がり血管が浮き出る。力は互角で小刻みに震えるもののぴくりとも動かない勝負に客達も固唾を飲んで見守っていた。
次第に額から汗が流れるシオンとガトルの横顔が歪む。
アリシアが心配そうに見つめているのを目の端に感じながらシオンはこれまでの旅を思い出していた。オマスティアで知ったアリシアの過去、恋人だったロザヴィに崖から落とされて死んだと思ったあの日にアリシアへの強い想いを知った。
もうお前を離さない。たとえ、戯言でも手放す気はない。
シオンは相手が僅かに緩んだ一瞬の隙を逃さず、渾身の力でガトルの手の甲をテーブルへ叩きつけた。
「シオンが勝った!!」
フィリカが声を上げると客達も歓声で彼を称える。
「やるなあ。初めて負けたぞ」
手の甲を擦りながら顔をしかめた。
「約束だ。アリシアを諦めてお前さんの部下となってやる」
「ほんとに賭けていたんだ……」
呆れた口調のフィリカがアリシアに身を寄せて呟いたがそれはアリシアも同感だった。
剣士でありながら男達の気質が理解出来ない彼女の心境は複雑である。
乱れた前髪を手で直すシオンも心なしか浮かない顔だ。
我ながら呆れると……。




