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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
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若き日の思いで

 居間で酒を飲んでいるブーゲンとシオンはキッチンから聞こえる楽しげな声を微笑ましく聞いていた。

「女性が増えると賑やかなだな」

 ブーゲンがソファに深く腰掛ける。

「妻ももう一人子どもを欲しがっていたが体が弱くて医者から止められた」

「立派なご子息がいらっしゃるではありませんか」

「お前のお陰だ、シオン。ここで出会ったのも運命かも知れないな」

 実直で全て計算尽くして行動するこの剣士が『運命』などど口にするとはシオンは歳月を感じた。

「ところで、お前は結婚せんのか」

 なんの脈絡もない質問に思わず飲み掛けていたワインを吹き出しそうになる。

「い、いきなり何です!?」

「相変わらず浮世暮らしをしているみたいだが」

「女の好みはうるさい方だと知っているでしょう?」

「成程、アリシアはその好みとやらに合ったらしいな」

「お二人はそういう仲だったんですか」

 酒の肴にと母親が作った料理を持ってきたスティールが目を丸くしている。

 彼女に対しての絶対的な信頼は、剣士の実力によるものとばかり思っていただけに驚きが隠せない。

「俺の片想いですよ」

 小さく笑うシオンに若き頃の姿を重ねたブーゲンは「若さはいいものだ」と呟いた。

 

 かつてブーゲンは二人の剣士と行動を共にしたことがある。『蒼き獅子』と呼ばれたシオンの師とそしてもう一人、『美しき死神』イルセ・シャムロックである。当時の彼女はまだ結婚していなかったので旧姓のフロールを名乗っていた。

 その容姿に似合わず勝気で男勝りだった彼女との出会いは互いにいい印象ではなかった。

 遠征先の休憩所で三人は偶然居合わせた。といっても、後から来たイルセがブーゲンの悪友でもある剣士の台詞に憤慨して彼に掴みかかってきたのがきっかけである。

 慎重で物静かなブーゲンとは真逆のこの友人は、楽観的で陽気だがどうも口が災いする場面が多々ある。だから、この時も女剣士が参加していると聞いて少々軽んじた発言にイルセの怒りを買ったのだ。

 その場はブーゲンが収めたのだが当分は二人の間には不穏な空気が流れていたが、戦いになるとそこは剣士として名高い三人で息はぴたりと合った。

 それからは何かと三人は顔を合わせる機会が多くなり、そして……。


「父さん?」

 息子に呼ばれてブーゲンは我に返った。いつの間にが追憶に浸っていたらしく会話から外れたのをシオンも怪訝そうにこちらを見ていた。

「シオンよ。お前は女の好みまであの男と一緒とはな」

 ますます不可解は表情のシオンに頬を緩めた。


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