ブーゲンとアリシアの私闘 その2
次の瞬間、甲高い金属音と共に火花が散る。
ブーゲンの渾身の一撃をアリシアが見事受け止めたのだ。
「なっ!!」
これにはブーゲンも目を見張った。スティールも、自分とさほど変わらない体格で岩をも砕く重い太刀と対等に戦っているアリシアに驚愕した。
通常では有り得ないが、彼の強大な力を咄嗟に魔術で中和して成し得るのだ。これによって自身より力が強い男の剣士と同等に戦えるその技がイルセと同じものと知ったブーゲンは突然剣を鞘に収める。
「久々にいい戦いをさせてもらった。有り難う」
満足気な笑みを浮かべて、まだ二人の凄まじき私闘の余韻から抜け出せない息子の肩を叩いた。
「いい剣士に出会えてお前は果報者だ」
息を弾ませてアリシアも駆け寄った。
「有り難うございました」
「未熟な息子だがよろしく頼む」
深々と頭を下げるブーゲンに恐縮する。
「まだ仕事が残っているのでこれで失礼する」
振り向いたブーゲンにシオンが一礼すると片手を上げて応えるその表情は穏やかだった。
「アリシアを師とするか、大会を放棄するか良く考えるんだな」
まだ放心状態のスティールにシオンが言い放つ。
「続行するなら明朝ここへ来い。いいな?」
彼の返事を待たずにシオンは背を向けてアリシアとフィリカを伴い訓練場を後にした。
あれから、スティールが何を感じて、何を思ったかは分からないが一人でじっくり考える時間は必要だろう。
宿にほど近い酒場でアリシア達三人は遅い夕食を摂っていた。
「一歩間違えていたらお姉様は危なかったのよ!!」
ブーゲンとの一戦を傍観していたシオンにフィリカの怒りが治まらない。
「俺が惚れた女がそんなヘマはしないさ」
いつもなら真っ向から否定するアリシアが微笑んでいたので拍子抜けしたシオンが柄になく赤面した。女性の扱いに慣れている彼だがアリシアだけは例外のようである。
「なんだかんだ言ってスティールの仕草はお父さんに似ているよ。やっぱり血筋ってあるのかな」
オレンジの液体を飲みながらフィリカが呟いた。
「関係ないと思うな。その理屈でいったら俺は大工になっている」
この一言が女性二人には意外だったらしく互いに顔を見合わせる。
「お父様は大工だったの?」
「ああ」
「てっきり剣士かと思っていたよ」
と、フィリカが更にコップの液体を飲み干す。
「私の両親も普通だった気がする。人間努力次第でどうにでもなるんだよね」
努力してもアリシアの心は動かんけどな……。
フィリカと楽しく会話しているその美しい横顔にシオンはつい愚痴ってしまった。




