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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
82/201

ブーゲンとアリシアの私闘

 ブーゲンは軍服の上着を脱ぐと「手合わせ願いたい」と言ってきたので一番驚いたのはスティールだった。

 父親は誰よりも私闘を嫌い、王の観覧試合でさえ剣を抜かなかったのだ。それを彼自らこの女剣士と一戦交えたいと申し出たのだ。

「私にお相手が務まるかどうか」

 アリシアは困惑した。シオンですら一目置いている人物が果たして自身の剣が通じるだろうか。

 しかし、そこは剣士としての血が騒ぐ。

「承知しました」

 アリシアの返事に口角を上げたブーゲンだが一瞬にして戦う剣士の表情へと変わっていく。

 幾ら名が通った剣士でも所詮は女性で父の相手ではない偏見を捨てきれないスティールだが、だからといって二人の間に割り込むことの出来ない気迫にただ立ち尽くしていた。

「やっと父上が動いてくれたか」

 いつの間にかシオンとフィリカが彼の隣に来ていた。

「シオン殿、彼女を止めて下さい!! 父の相手をするなんて無謀だ」

 この台詞にとうとうシオンの我慢が限界を達してスティールの胸ぐらを掴んだ。

「無謀だと!! いいか、彼女はイルセ殿の娘だぞ。思い違いもいい加減にしろ!!」

 一喝して乱暴に胸から手を放すとスティールはよろめいた。こんなにも厳しく怒鳴られるとは予想だにしなかったスティールとフィリカは茫然としている。

 訓練場では。アリシアとブーゲンとの一戦が繰り広げられたいた。

 互いに間合いを計り書道を窺っていたが、先に動いたのはブーゲンだった。

『雷光』の異名に相応しい鋭く重い一太刀がアリシアを襲ったがそれに逆らわず剣を擦り上げて受け流す。

「ば、馬鹿な!?」

 一同は目を疑った。特に息子のスティールは父親の重い剣をあの細い体で持ちこたえたのに驚愕した。

 その後もブーゲンの鋭い太刀が繰り出される度にアリシアの表情は険しさを増したが決して不利な状況とは周りに思わせない。

 しかし、初めて剣士同志の一戦を間近で見たフィリカはアリシアの身が心配でたまらずシオンを見上げたが彼女の気持ちとは裏腹に涼しい顔で観戦している。

 同じ剣士として純粋にこの世紀の一戦を楽しんでいるのだ。

 大きく前へ踏み出してアリシアが一振りすると、風を切りブーゲンの頬に一筋の血が刻まれた。

 イルセ、娘さんは立派に成長したよ。美しく強くあなたにそっくりだ。

 手の甲で血を拭いアリシアの亡き母イルセに心の中で語り掛けた。

 そして次の瞬間、素早く地面を踏んで前に出たブーゲンの一撃がアリシアの頭上へと迫ってくる。

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