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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
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憤りの訓練

 アリシアはというと、宿で寛いでいるところへシオンがいきなり現れて説明もなしで馬に乗せられてここへ来たのだ。

「アリシア・シャムロックです。よろしく」

 契約の意をこめて握手しようと差し出した彼女の手は握られることはなかった。

 それからというスティールは、まだ師が女性であることが納得しないのか訓練に身が入らず表面だけ繕ってみても剣を通して覇気がまるで伝わってこない。

 そんな訓練はどんなに時間を掛けても向上しないとアリシア自身が一番よく分かっている。

 スティール本人が自覚するまで待ってやりたいが大会まで時間がないのも事実で、そんなアリシアの苦悩を察したフィリカが剣の手入れをしているシオンの元へやってきた。

「ねえ。なんでシオンが教えてやれないの? あれじゃお姉様が気の毒だよ」

「随分とご立腹だな」

「だって本人がやる気なしじゃない。だいたい、シオンが引き受けたんじゃない!?」

 手を止めたシオンがフィリカを険しい顔で見た。

「なら聞くが医学的観念からみてスティールの筋力と体力で俺の剣質が習得できるか!?」

 その鋭い漆黒の目に剣士のシオンを感じたフィリカは言葉に詰まる。

「そ、それは無理よ」

「そうだろうよ。 血筋で剣質を選ぶことはない。アリシアは女だが俺と互角かそれ以上だ。自分にできることをやればいい。いいか、相手はアリシア・シャムロックだぞ!? 恥じるどころか誇りにするべきだ!!」

 シオンもまたスティールの想い人を軽んじる態度が釈然としていなかったので一気に捲し立てると不機嫌な顔で剣の手入れを再開した。

 一方的に怒鳴られる形となったフィリカは茫然と立つ尽くしていた。


 特訓から九日目のことだった。

 依然としてアリシアへの態度を改めない息子に業を煮やしたブーゲンが動く。

「アリシア・シャムロック殿と申したかな?」

 休憩をしていた彼女にブーゲンが声を掛けた。

「はい」と澄んだブランデー色の瞳をこちらへ向ける。

「母上は確かイルセ……」

 意外な人物から母親の名が出たのでアリシアは驚いて勢いよく振り向いた。

「母をご存知なのですか?」

「よく知っている。彼女は我々剣士の女神だった」

 目の前にいるアリシアと今は亡きイルセの姿が重なり懐かしさでブーゲンは目を細める。

「そうか……。あなたがイルセの娘か。当時の彼女にそっくりだ」

 ブランデー色の長い髪に白い肌、ふっくらとした形のいい唇、違うのはイルセの方がその瞳に勝気な光を宿していた。

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