旅は道連れ世は情け 2
この男性を助ける方法がある。
この一言を信じてアリシアはベストの男の言葉に耳を傾ける。
「こいつの代わりに一勝負してみてはいかがです? もし、私に勝ったらこの話はチャラってことでいいですがね」
横でがくがくと震えている頬がこけた男を見たアリシアは意を決して口を開いた。
「この勝負、受けるわ」
この台詞にシオンは人がいいにも程があると溜息をついて前髪をかき上げた。
「お二人の掛け金は到底二十万ペルに足りませんがどうします?」
掛け金がないと勝負は成立しない。アリシアが思案に暮れていると、ベストの男はとんでもないことを言い出した。
「お金がなければ物でもいいですよ。例えば、その剣とかね」
「貴様!!」
シオンが鋭く睨んだので一瞬たじろいたが媚びる笑いでどうにか誤魔化した。
実はこの男、剣士から巻き上げた得物を収集家に売り渡すというあくどい商売をしていた。なので、アリシア達二人の剣にも秘かに目を付けていたのだ。
剣は、剣士にとって命の次に大切なものである。しかも、アリシアの得物は亡き母の形見で賭けの対象にするわけにはいかない。だからといって、自身から受けた勝負にシオンを頼るのは申し訳ない。
目を閉じてしばらく考えていたアリシアは、答えが出たのか静かに目を開けた。
「……私じゃ駄目かしら」
これにはシオンが目を剥いて叫んだ。
「何を言っているか分かっているのか!!」
「と、おっしゃいますと剣士さん自身が賭け金になると?」
「ええ。剣は渡せないわ」
美しい彼女の申し出に、男は興奮したのかもはやシオンの存在を忘れて食い入るように身を乗り出した。
「鎧を外してもらえますか。それ相当の価値かどうか確かめなくては」
食ってかかろうとするシオンを手で制したアリシアは黙って鎧を外し始めた。軽装の彼女を頭からつま先まで品定めをして満足げに頷く。
整った美しい顔、ブランデー色の長い髪、鎧姿で分からなかった豊満な胸にくびれた腰と抜群のプロポーションにその場にいた男達は皆生唾を飲んだ。
「いいですよ。認めましょう」
「冗談じゃない!! 負けたらあいつの餌食だぞ!!」
シオンが声を荒げるとアリシアも大声で反論した。
「このままだとあの人が殺されるわ!」
「お前さんはどうなるんだ! 絶対駄目だ!」
見ず知らずの男にわが身を犠牲にするアリシアの真意が読めないシオンは無性に腹が立ったが、真っすぐ見つめるブランデー色の瞳は揺るぎなかい。
「……負けたよ。好きにしろ」
アリシアはほっとして「ありがとう」と小声で礼を言った。
「もう一つお願いがあるわ」
今度は何を言い出すのかとシオンは気が気でない。綺麗な顔に似つかず大胆な言動に翻弄されっ放しである。
「なんです?」
「掛け金を増やしてほしいの」
「成程、勝負は互角じゃないと面白くないですかね。で、幾らにしますか」
アリシアは手の平を広げた。
「五十万ペル……ですか」
二十万でも代金なのにさらっと高額を言ってのけるアリシアは大した度胸だ。
「それはちょっと高すぎるのでは……」
「私はあなたに一生を捧げるのよ」
アリシアとの下劣な未来を想像していることは締まりのない顔で一目瞭然である。
シオンの無言の威嚇を察してわざとらしく咳払いをした。