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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
78/201

雷光ブーゲン その2

 声の持ち主は長身で漆黒の髪と瞳を持つ剣士シオンだった。

「久し振りだな、シオン」

「ご無沙汰しております」

「最後に会ったのはいつだったか。立派になったな」

 ブーゲンは初めて会った十五歳のシオンと今の姿を重ねて懐かしさに目を細める。

「貴殿の足元にも及びませんが」

「師が師なら弟子も弟子だ。やつに似てきたな」

 シオンの師とブーゲンは戦友でもありライバルでもあった。にやりと笑うシオンはまさしく友のそれを彷彿させる。

 シオン殿と父さんは知り合いだったのか……。

 父親の頬が緩むのを見て、自分には見せない表情にスティールはシオンに少し嫉妬した。

「ところで何故ご子息を出場を渋るのですか」

 シオンの問いにブーゲンの顔にまた厳格さが戻る。

「無用な戦いはさせたくない」

「では、ご子息は負けると?」

 父親の無言の答えにスティールは悔しさのあまり俯いてしまった。大会に出場しても勝ち進む確率がないのは本人も承知しているがそれでも拘るのは父の名誉の為だと分かってもらえないからだ。

 スティールの胸の内を察したシオンはカズラ父子を不愉快そうに見るとブーゲンに向き直った。

「こんな連中に侮辱されていい道理はないはずだ」

「これは我々親子の問題だ。幾らシオンでも口出しは無用だ」

 ブーゲンの有無も言わせぬ強い口調にシオンもまた強い瞳で受け止める。

「今日からは俺がご子息の師となります。貴殿こそ指図はお控え願いたい」

 その剣幕にスティールとカズラ父子はただ立ち尽くしているだけしか出来ずにいた。

 父さんと対等に渡り合うなんて、やはりこの方は凄い……。

 若くしてこの時代を代表する『漆黒の剣士』シオン・フォレストの噂は彼も聞いていたが、実際会ってみると長身で精悍な顔に漆黒の瞳は鋭い光を放っているその堂々たる容姿に得も言われぬ迫力があった。

 しばらく二人はスティールを挟んで対峙すると先にシオンが口を開いた。

「スティール・シートモスも出場する。分かったな!!」

 カズラ父子に宣言すると彼等はその気迫に押されて何度も頷いてその場を逃げるように立ち去って行った。

「余計なことを」

 と、ブーゲンが舌打ちしたがシオンは全く意に介せず涼しい顔だ。

「俺は負ける勝負はしない主義でしてね」

「面白い。その手腕とくと拝見しようではないか」

 勝気な笑みを浮かべるシオンにブーゲンは軽く息を吐いた。

「スティール、今日から『漆黒の剣士』が師となる。大会まで奴と行動を共にするんだ」

 戸惑うスティールの代わりにシオンが「了解した」と返事をするとブーゲンは軽く頷いて中庭を後にした。


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