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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第六章 新たな仲間
72/201

雨と闇の中で

「ここから動かないで」

「誰かいるの?」

 不安げに尋ねるフィリカに、視線は鋭く辺りを窺うアリシアは小声で答えた。

「恐らく賞金稼ぎね。いずれにせよ一戦交えることになるわ」

 ブラウニ一家を殲滅させたアリシアを追ってこの場所を嗅ぎつけてきたようだ。とすれば目的は自分一人で、敵が正確な位置を把握していないうちにここを離れればフィリカは助かるとアリシアは考えていた。

「戦っちゃダメ!! まだ体調が万全じゃないんだよ!!」

 剣士の驚異的な回復を持ってしても生死を丸三日彷徨った体は完全に癒えていないのである。

「大丈夫。彼に逢うまで死なない。いいえ、死ねない」

 フィリカの心配を振り切って彼女は幌を飛び出した。

 フィリカからなるべく遠ざけるために故意に水しぶきを立てて荒々しく移動すると、敵も誘いに乗じてくれたので秘かに胸を撫で下ろす。

 肉眼で場所が確認できなくなるとアリシアは立ち止り剣を構えた。

 木の枝が揺れて振り向くと同時に左腕に鋭い痛みが走ったので触ると血がついている。素早い動きを得意とする者達なのか。

 闇と雨音で相手の気配が察知しづらい状況でアリシアは苦戦を強いられるなか、相手は確実に互いの距離を詰めてきた。

 短剣を投げる音に反応したアリシアが体を反転させて回避すると、動きを先読みした敵が瞬時に剣で突いてくるのを払いのけた。

 防戦一方の彼女に徐々に焦りを感じた。


 剣がぶつかり合う金属音が湿った空気を伝って、幌の中に息を殺しているフィリカの耳に届いてくる。

 体調が万全ではないアリシアの身を案じてたまらず写真立てを胸に強く抱き締めた。


 激しい雨と雷がシオンの足を止めた。先を急ぎたかったが暗闇でむやみに動くのは無謀である。

 木の下で雨を凌いでいると、突然アリシアの愛馬が闇に向かって嘶いた。

 彼女と共に数々の戦場を駆けてきた馬だ。多少のことでは動じないのだが前脚を高々と上げて彼に何かを訴えている様子にはっとする。

 まさか!?

 ある考えが頭をよぎり白馬の手綱を放すと疾風の如く闇に消えていった。見失うまいとシオンの自身の馬を駆る。

 この時、アリシアとシオンは直線距離にしてわずか一キロとなかった。


 雨が体温を奪い闇が勘を鈍らせる。ぬかるんだ地面に足をとられて思うように動けずアリシアは肩で息をした。

 自分がやられたらフィリカも危険に晒される。それだけは阻止しなけばという思いで柄を握る手に力を込める。

 わずかな風の乱れを察知して頭上から降ってくる敵目掛けて剣を突き上げると生温かい鮮血がアリシアの顔を深紅に染めた。


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