旅は道連れ世は情け
二人の旅で最初のトラブルに遭遇します。アリシアはどうするのでしょうか
一人旅は自由に振舞えた半面心細かったが今は違う。隣にシオンがいる。
砂利道に花一輪咲いているのを見つけて感動を分け合う相手がいる喜びを感じるし、常に会話できる環境が不安を消してくれる。
相変わらず調子はいいシオンだが、それもまたアリシアを退屈させなかった。
「どうした。俺に惚れたか?」
どうやら、ずっと彼を見つめていたらしく顔を真っ赤にしたアリシアが目を逸らした。
過去に多くの女性と浮世を流してきたが、剣士として凛としているかと思えば少女のように恥じらう。嘘はつけない正直さと純粋なアリシアが愛おしい。
そして、彼女に一途な自分自身にも驚いている。
次の国境を越えて新しい町へやってきたが、『ブランクル』という町の案内板を目にしたシオンは嫌な顔をした。
「どうしたの?」
怪訝そうにアリシアが訊いた。
「あまり評判が良くない町だ。『宝船』でもいい噂は聞かなかったよ」
「どんな噂?」
「金に汚く旅人さえも食いものにするって話だ」
更に言葉を続けようとしたが、アリシアの美しい横顔が曇ってきたのでやめた。
「とにかく長居は無用だ。ここを早く通り抜けよう」
二人が足早に行こうとした時だった。
男の悲鳴にアリシアが振り向いた。
「アリシア、構うな!」
「先に行って。様子を見てくるわ」
シオンが止めるのも聞かず馬を反転させて行ってしまったので、舌打ちをした彼が後を追った。
悲鳴は中年男性のものだった。
「ひどいじゃないか!!」
「なんだと!」
「何の騒ぎ?」
「あんた剣士か!? 助けてくれ!!」
頬はこけてぼさぼさの髪の男が、駆けつけたアリシアの両肩を掴んで涙目ですがった。
「こいつに殺されちまう」
「人聞き悪いな」
今にもボタンが弾けてしまうのではと思うほど小太りの体に無理矢理スーツのベストを着込んだ男が口を挟んだ。もう一人の当事者らしい。
「どういうこと?」
「博打で負けた金が払えないと言ったら命で払えと……」
「そんな……」
「ですがね、金を貸してくれと言ったのはそいつですよ」
ベストを着た小太りの男が口髭を撫でながら言うと、頬がこけた男は項垂れてすすり泣いた。
「本当なの?」
「勝てると思ったんだ」
「自業自得だ」と追いついたシオンが冷たく言い放つと男は号泣した。
「仕方なかったんだ。生活もままならなくて、つい……」
「こんな話は日常茶飯事だ。行くぞ」
シオンがアリシアの肩を抱いて促したが、泣き崩れる男が気になって動こうとしない。
「分かったよ」
溜息交じりに自身の財布を取り出すとベストの男に手渡した。中身を確認した男が逆に溜息交じりに首を横に振ったのでアリシアも財布を差し出した。
「残念ながら足りませんな」
「一体、幾ら負けたんだ!?」
シオンが腹立ち紛れに訊くと、二十万ペルーと答えたので怒りを通り過ぎて呆れ果てた。二十万ペルーあれば三カ月は遊んで暮らせる大金だ。
アリシアに諦めろと肩に手を置いたが、ブランデー色の瞳は助けてあげたいと訴えている。
「まあ、助ける方法はありますがね」
ベストの男が意地悪く笑って言った。