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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第六章 新たな仲間
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流れゆく血を踏みしめて

「ダメ!! 何十人もの手下がいるんだよ!!」

 金で雇われているとはいえ腕に覚えがある者が集まっている。だから、皆逆らえずいいなりになるしかなかったのだ。

 剣士としてのアリシアがどれだけの実力かは分からないが、女性でしかも体調が万全でない以上心配が募る。

「ちゃんと戻ってくるわ」

 微笑むアリシアにフィリカは小指を差し出す。

「約束だよ」

 アリシアも彼女の小指に絡ませた。



 ブラウニ父子は屋敷の二階で、放火を命じた手下達の報告を待っていたが一向に戻ってくる気配もなく痺れを切らせていた。

 外が騒がしくなったので男が様子を見に言ったが、一階へ降りて行った直後に断絶魔の叫びが響き渡った。

「ブラウニ様ー!!」

 頭から血を流した男がドアを荒々しく開ける。

「お、女が……」

 と、ここまで言うと背中からおびただしい血が噴き出して倒れた。背後には大量の返り血を全身に浴びて深紅に染まったアリシアが立っている。

 この部屋に到達するまで十数人の手下達を斬殺してきたアリシアは、血が滴る剣を片手に冷淡な瞳でブラウニ父子を見据える様はまさしく『美しき死神』だ。

「親父、あの女だ」

 セイジロが震える指でアリシアを指す。

「か、金ならあるぞ」

 ブラウニが書斎の引き出しを開けて金銭ではなく拳銃に手を伸ばしたが、それよりも速く彼女の太刀筋が喉元を切り裂く。

「ひいぃぃぃ!!」

 父親の喉から噴水のごとく湧く血しぶきにセイジロは半狂乱になって逃げ出そうとしたが、アリシアは無表情で背中から突き刺した。

 やがて、屋敷に静寂が戻ってきた。

 大量の血溜まりが広がる床に惨たらしい死体が転がっている光景は地獄図さながらである。

 血を払うべく剣を一振して鞘に納めたアリシアは窓越しに空を見た。

 ブラウニ一家を殲滅したからといってフィリカとシダの思い出が詰まった診療所が戻る訳ではない。フィリカの心の傷が消えるわけでもない。

 それでもやらなければならなかった剣士という因果な自身にもう迷いはない。『彼』と同じ道だから……。


 アリシアがフィリカの元へ戻ると、騒ぎに駆け付けた村の人々によって鎮火していたが診療所は瓦礫と化してしまった。

 持ち出した荷物を一つ一つ手に取るフィリカに先程机の上から持ってきたある物を手渡す。

「ごめんなさい、これが精一杯だったわ……」

 それはシダとフィリカが並んで笑顔で映っている写真立てだった。

「ありがとう。こんな大事な物を失うところだった」

 煤を拭いて、フィリカは写真立てをぎゅっと胸に抱いた。


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