歪んだ父子
こんな時に彼がいたら……、と思わずにはいられない自分にアリシアの心は痛く切ない。生き別れて彼への想いを知るとはなんたる皮肉だろうが。
オマスティアの王女と知った時も動じなかった。彼の恋人だったロザヴィの時も剣士生命を掛けて自分を護ってくれた。
口にこそ出さないが訊きたいことも沢山あったに違いない。そんな彼の気持ちに応えるどころか黙って傍にいるのが当然の如く受け止めてきたのだ。
愛する者を護るのが剣士、と言った漆黒の瞳を今でも忘れない。
今度こそ逢えたらちゃんと言葉にして伝えたい……。
アリシアはそう誓った。
セイジロの父親のブラウニは、一人息子が腕に重傷を負ったと知ると激怒した。
彼が息子を溺愛するのには訳がある。
ブラウニの幼少時代は父親が早くに亡くなり母親が女手一つで育ててきた為たいそう貧しかった。それ故、金銭に対する執着は尋常ではなく、青年期はかなり悪どい手口で事業を拡大して一代で財を成し得たのだ。
やがて家庭を持つと、自分のような惨めな思いはさせたくない一心でセイジロの要求は全て通していく。
それは息子の性格をも捻じ曲げてしまい人の心の痛みも理解出来ない人間へと作り上げていったのだ。
その大切な息子を重傷を負わせたのだがら父親の怒りも大変なものだ。
「一体誰にやられた!?」
兼ねてからフィリカの件については軽率な行動は取るなと父親から釘を刺されていたセイジロは口を噤んだ。
「お前達は知っているんだな?」
両隣りにいた手下達をぎろりと睨むと、その威圧感にたまらず一人の男が小声でフィリカの名を出した。
ブラウニの顔色がどす黒く変色して凄まじい形相へと変わっていく様子に手下達の震えは止まらない。
「なんだと!! またあの小娘の所へ行ったのか!!」
「は、早く俺の女にしたくて……。頼むからフィリカには手を出さないでくれ」
愛するセイジロを傷つけた彼女は憎いが、その息子が好意を持っている以上制裁を加えることも出来ずブラウニは低く唸った。
「それにしても、小娘一人にやられるとは情けない」
ブラウニは手下達を見回して舌打ちをする。
「それが剣士がいたんだ。しかも、美しい女だ」
「女だと?」
この辺りに
「ああ。あいつがいる限りどうしようもないんだ」
ブラウニは腕組みをして暫く黙っていたが「考えがある」と言って全員部屋から出るよう手で合図した。




