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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第六章 新たな仲間
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不安

 フィリカが睨みつけると突然セイジロが悲鳴を上げたので、外で待機していた手下達が中へ雪崩れ込むと彼が右腕を押さえて悶絶寸前だった。

「貴様、セイジロさんに何をした!?」

「私が術師ってことを忘れていたみたいね」

 フィリカの呪術でセイジロの右腕は火傷のように酷く爛れている。

 だが、これは彼女のささやかな抵抗に過ぎない。何故なら、術師は防衛が主なので剣士ほど攻撃的ではなく決定打に欠けているのだ。

「小娘が!!」

 フィリカは手下達に詰め寄られて壁際に追いやられると逃げ場を失った。

 この人数を小柄な彼女一人では到底敵う筈がない。

 観念したフィリカが目を閉じた時だった。

「フィリカ!!」

 背後から凛とした女の声に一同が振り向くとそこにはブランデー色の長い髪を靡かせた女剣士が立っていた。

「お姉様!!」

 アリシアは素早く体を滑り込ませて前へ躍り出るとセイジロの背中に回って剣を首にあてる。

「動かないで」

 背後からセイジロに歩くよう促すとその威圧感に押されて自然に二人の前に道が出来た。

 手下達を診療所の外まで追いやり、フィリカの安全を確認したアリシアはセイジロを突き飛ばした。

「二度とこの子の前に現れないで!!」

 ここでセイジロは改めてアリシアを見て驚いた。白い肌に髪と同色の瞳、薔薇色の唇と剣士と言うにはあまりにも美しかったからだ。

 しかし、彼等に向けられた視線は鋭く逆らえば容赦しないと語っている。

 その気迫にセイジロ達はたじろいですごすごと引き揚げていった。

「怪我はない?」

 全身の力が抜けてその場に座り込んだフィリカにアリシアは手を差し伸べる。

「もうだめかと思った……」

 フィリカの大きな菫色の瞳に涙が溢れた。とほど心細く怖かったに違いない。

「胸騒ぎがしたから急いで帰って来たわ。こんなことは今まであったの?」

「おじいちゃんがいた頃はそんなになかったんだけど、最近は頻繁に来るようになって」

「そうだったの」


「でも、お姉様がいてくれてよかった」

 気丈にも笑顔で立ち上がると食器棚からティカップを二つ取り出した。

「帰ってきたら一緒にハーブ茶を飲もうと用意していたんだよ」

 ポットからカップに茶を注ごうとしたが手が震えて上手く淹れらないフィリカをアリシアは今後が不安でたまらない。

 傷が癒えた自分がここを去ったらフィリカはまた独りで怯えて暮らさなければならない。あのまま大人しく退く連中ではないだろうし

 せめてこの問題を解決してから旅立ちたい。

 シオンもこんな気持ちだったの……?

 こんな時にいつも助けてくれる『漆黒の剣士』の姿が脳裏に浮かんだ。


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