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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第一章 出逢い
6/201

人はそれぞれ… 2

少しずつお互いの過去がみえてきます。二人は一緒にいてどう思うのでしょうか。

 シオンが集めた薪で火を熾してかき集めた食材で夕食をとる頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 干していた服も乾いたのでシオンにマントを返したが、夜は冷えるからとまた肩に掛けてくれた。

 しんと静まり返った森は滝の水音だけ響き渡り、焚火の灯りが二人を照らす。

 会話らしい会話もなかったが、やがてシオンが口を開いた。

「いい月だ」

「ほんとね」

 二人は見上げて満月を眺めた。見慣れた光景だが相手がいるせいか今夜は格別に思える。

「なあ、アリシア」

「なに?」

「お前さんを抱きたくなった」

「こ、ここで!?」

 じゃあ、場所がよければいいのか?、と揚げ足を取りたかったが、それだけひどく狼狽しているアリシアがあまりにも純粋で可愛いので失笑した。

「冗談だ」と笑い飛ばしているが、シオンならやり兼ねないとアリシアは形のいい眉をひそめた。それにしても、会って間もないというのにシオンといると気が楽なのは彼の人柄なのだろうか。

 アイサがこの場にいたら「あいつの術中にはまっているから用心しな」と諭されるに違いない。

「ねえ、シオン」

「ん?」

 今度はアリシアが訊いた。

「あなたは何故、旅をしていたの?」

 彼女の問いに返事はなく間があいた。

「シオン?」

「アリシアに逢うためさ」

 その答えに彼を見た。いつもの軽口なのか、それとも本心なのか。

 精悍な横顔からは真意が読み取れないアリシアの方を向くと小さく笑って「もう寝るか」と背を向けて寝そべると、アリシアも彼のマントに包まって眠りに就いた。

 その温かさはまるでシオンの胸に抱かれているようだった。



 白々と夜が明けて木々からこぼれる朝日で目を覚ましたアリシアは隣にシオンがいないことに気が付いた。

 おもむろに起き上がり辺りを見渡したが姿はなく、散歩を兼ねて近くを歩いていると物音がしたのでそちらへ行ってみて息を飲んだ。

 シオンが剣の稽古をしていたのだ。力強く振る剣はブンと低い音を立てて風を切り、相手の急所であろう位置を正確に捉えるその太刀筋は雄々しく、今まで会った剣士にない迫力にアリシアは圧倒された。

 普段の軽い態度から想像できない真剣で鋭い眼光に口を固く結んだ表情は剣士そのものである。そして、幾つもの戦いを経験しているとまた剣士である彼女も本能で感じていた。

 一通り稽古を終えて振り向いたシオンはいつもの穏やかな顔だった。

「来ていたのか」

 アリシアが頷くと少し照れた顔をした。

「『美しき死神』に見られるとさすがに恥ずかしいな」

「そんなことないわ! とても力強くて的確で……」

 何故、こんなに力説しているのか自分でも不思議だが、先程のシオンは間違いなく……。

「格好良かったかい?」

 次の台詞を躊躇していたが、彼に言いあてられて心の中を覗かれたようで頬が紅潮した。そして、素直に頷くアリシアは嘘はつけない性格である。

 流れる汗をタオルで拭きながら軽く乱れた息を整えるシオンに、剣を見せてほしいとアリシアが頼んだ。

「いいよ」と片手で手渡した剣は結構な重量があったので慎重に受け取り、鞘から剣を抜いてみた。

 使い込んでいるが手入れが行き届いており、刃は鋭く美しい光を放っている。剣士の力量は剣を見れば一目瞭然だと昔から云われているが、やはりシオンは名のある剣士と確信した。

 確信したが本人に問うことはしなかった。彼にはそうさせない雰囲気があるのを一緒にいて感じ取っていたからだ。それに訊いたとしても彼はきっとこう言うに違いない。

「やっと俺を受け入れる気になったか」と。







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